第44話
今更ながらやはり彼の忠告通り勝負席を変えた方が賢明だったのかも知れない。だが今更後悔しても遅く、司は自分に与えられた試練だと思い込むようにした。
「 (ゲーテさんの手札が既にワンペア作れてるとかフラッシュ狙えそうとかの可能性を考えると正直恐いけど……まぁ初戦だし、取り敢えずフロップで三枚の開示カードを見てからでも勝負は遅くないかな。) それじゃあ僕はコールで」
「え、司くん、コール? えっと、えっと、じゃあ私もコールで。ベット『10』でいきます!」
「な、なら、あ、あたしもコールで……」
同額になるよう賭ける行為『コール』によって賭け残高が同じになり、プリフロップと呼ばれる最初の段階が終了した。以降はフロップ (三枚の共通カード公開) →ターン (四枚目の共通カード公開) →リバー (五枚目の共通カード公開) →ショーダウンの順番で進行していく事だろう。
「賭け残高が揃いました。それでは続いてフロップの段階へ移ります」
男性ディーラーはテーブル中央に三枚のカードを表向きに並べた。
司から見て左から順番にスペードの二、クラブの八、クラブの10であった。
「 (うーん……ハイカードの可能性が見えてきたかも……。残りの未公開共通カードは二枚……仮に両方スペードだったとしてもフラッシュは作れない。狙える役としてはワンペア、ツーペア、スリーカード、ストレートか……) 」
司はこのままベットするべきか悩んだ。
自身とプレイヤーDの女性は手札がバレたようなものなので、先ほどは様子見でコールを行ったが、ゲーテは初めから『10』のベットであった。
残高に余裕があるからなのかも知れないが、それ相応の役が既にできている可能性はある。ハイカードの可能性が濃厚な状態で勝負に向かうのは得策では無いだろう。
特に司に至っては何故か二枚の手札がゲーテに完全に読まれており、ハッタリや嘘は少なくとも彼相手には全く意味を成さない。鼻で笑われて終わる事だろう。
幸いな事にここで降りても司の失う残高は『10』だけで済む。ゲーテが何故こちらの手札が分かるのか、そのタネも分からない以上、低確率の役作りを無理に狙いに行く必要は無い。
「 (フォールドした方が良さそうかな。まぁこうなるならやっぱりさっきのプリフロップの段階でフォールドしておけばって感じだけど、正直ただの結果論だしマイナス『10』は甘んじて受け入れるか。取り敢えず今はゲーテさんの手札当てトリックのタネを見破りたい。ゲーテさんを注視すれば何か分かる事があるかも知れないし、とにかく今は少しでも怪しい動作が無いか見つけないと……!) 」
「ふむふむ、さてさて、うーん、どうしましょうかねぇ」
「 (にしても言動一つ一つが本当に嘘くさいと言うか白々しいと言うか……) 」
司はゲーテの言動一つ一つに注意を払う事にした。もしかしたら彼に注目する事で新たに分かる事があるかも知れない。
だがいくら彼の事を観察してもそれらしい手掛かりを得る事はできなかった。
「 (ポーカー勝負で相手の表情や仕草すら見ないとかある……?) 」
最初の方こそゲーテは他三人の手札や表情を見たりしてきたが、今はもう中央のカードと自分の手札にしか興味が無いようだ。彼ら三人の表情を見たり心理戦を繰り広げようとする様子は皆無である。
ゲーテが他プレイヤーの動揺を誘って来たのはプリフロップの段階だけとなり、その様子から司は今更ながら気付いた。ゲーテにとってこの行動は自然なものであると。
「 (いや、そうか。彼が本当に何かのトリックでこちら側の手札を見破っているんだったら、もうあのプレイヤーDとテトラの手札も完全一致レベルでバレてるんだ。あとは自分のカードと共通カードで何の役を作れるかだけを考えれば良くて、仮に自分の作れる役が負けていた場合はその時に心理戦を仕掛ければ良いだけ。今はその時じゃ無いって事か) 」
司がそんな事を考えている時、テトラも似たような事を考えていた。
「 (ゲーテさん、何で黙ってるんだろ? 彼女のあの動揺っぷりや司くんの誤魔化し方から察するに多分カードの言い当ては当たってるんだろうけど……もしそうなら彼はこの場の全カードを把握してる事になる。それならそろそろ何か私たちに仕掛けて来てもおかしくは無さそうなタイミングだけど……。……。……あ!) 」
思考内容的には司とほぼ同じ事だったが、ここで彼女は司が辿り着いていない一つの予想を立てた。ずばりこの時点でゲーテは役的に自分が負ける可能性が高いと考えているのではないかと。
仮にそうである場合、ハッタリをかけるべきか、もしくは素直にフォールドした方が良いのか、そんな選択を迫られているのかも知れない。




