第42話
「テトラ!」
思わず振り返った司は彼女の姿を認識し、名を呼んだ。偶然にも彼女の後ろには司たちに色々とカジノについて教えてくれた男性ディーラーの姿もあった。
「ええ。先ほどまでその席に座っていた方は不合格になってしまった事で、もうこの会場には居ませんからね。どうぞお座りください」
「良かった。えっと、それじゃあ失礼しまーす」
妙に上機嫌なテトラはそう言うと、司の隣に位置するプレイヤーCの席へと座った。
「えへへ、やっぱり見知った人が居ると安心するね。司くんが居て良かったよ~」
座ってからすぐに右に居る司を見たテトラは、ホッとしたように笑顔になる。
「何でここに? 別テーブルで勝負してたんじゃないの?」
「ふっふっふ……言ったでしょ? 私ポーカー強いって。さっきまでのテーブルでは普通に勝ったよ! えっと、ほら!」
得意気な顔でテトラは自分のチップを司に見せた。そのチップ中央に表示されている残高は150となっており、確かに初期値よりも50稼いだ事が分かる。
「え、150! 凄いじゃん!」
「でしょ~? もっと褒めて良いんだよ~」
初戦を勝利で収めた嬉しさで満たされているテトラは、どうやら完全に調子に乗っているようだ。
「流れ切るのも嫌だったんだけど、えっと、他の三人が私の運の良さを前に離れちゃってさ。私一人だけ取り残された時に司くんのテーブルをふと見たら、メンバー揃って無さそうだったし、ここは待つよりも私がそっちに行った方が早いと思って。ふっふっふ……司くんにも私の運を分けてあげるねっ!」
「一回勝ったくらいで調子に乗り過ぎじゃない?」
「いーや! 私には分かる! 今日の私はキテるよ!」
「……まぁそういう事にしておくよ。ディーラーさん。四人揃ったし、始めよう」
司はテトラに若干の不安を覚えつつも、彼にとっては初戦となる勝負を男性ディーラーに促した。
男性ディーラーは司の言葉に無言で小さく頷き、勝負開始の旨を伝えるべく口を開く。
「それでは小さなトラブルこそありましたが、ゲームを開始いたします。これより皆さんには二枚のホールカードをお配りします」
ホールカードとは各プレイヤーの手元に配られる最初の二枚のカードの事だ。
男性ディーラーは未開封の新品を開封し、慣れた手つきでシャッフルを終えると、他のプレイヤーには見えないように二枚×四人の計八枚のトランプカードを伏せた状態で配り終えた。
「それではカードのご確認と賭けをお願いします」
その指示によって四人は自分のカードを確認した。この二枚はテーブル中央に公開される共通カードと違い、自分しか知り得ない情報となる。
ポーカーは運の良さも当然大切だが、いかに自分の手札が強いと相手に思わせられるかが肝要となってくる。
言葉、表情、態度――相手を騙す為の手段は多く存在し、ハッタリか否かを見抜ける力が備わっているか、そして自身は上手く騙せるか。大事なのはそこだ。
「……」
司は緊張しながら自分に配られたカードを手元に引き寄せ、そして確認した。
「 (……スペードのKとハートの七か……) 」
初戦かつ勝負の流れがまだ何も見えていない今、無理して先制攻撃を仕掛ける気になれなかった司は、自身のスターティングハンド (ホールカードでの役) を確認後は一旦表情と感情を殺して無表情を維持した。
「 (他の人はどんな感じだろ?) 」
チラッと他参加者を見るが、三者三様であった。テトラは確認後にすぐに伏せ、どう行動に出るべきかカードの裏面を指でなぞりながら考えていた。もう一人の女性はカードを見続けるもその暗い顔は変わらずで、ゲーテはニコニコ顔のままだ。




