第41話
「ふふふ。司くん……でしたよね? 僕の事は憶えていますか?」
席的に司と近いゲーテが座りながら話し掛ける。当事者だったにも拘らずゲーテは心の底から気にしていない感じだ。もしも司が逆の立場だったら、大の大人の男に胸ぐらを掴まれただけで頭が真っ白になってしまうだろう。
「うん。ゲーテさんでしょ? 覚えてるよ。……本当にあの時はごめん。ゲーテさんの親切心を無下にしちゃって……」
「謝る必要はありません。手を組む場合を除き、僕たちは皆敵なんです。あの時も言いましたが賢明な判断だったと思いますよ。もしかしたら邪な気持ちを抱いた僕が、嘘の情報を教えて上手くあなた方を不合格に導いたかも知れないじゃないですか。……先ほどのソルヴァさんのように、ね」
「……」
司はゲーテの笑顔にある種気味の悪さを覚えた。決して本心を見せず、気付いた時には彼によって後ろから刺されていたなんて事態になっていない事を願うばかりである。
もしもゲーテがテトラの言う内通者である場合、ある意味納得はしそうだが。
「まぁその話はさておき。司くんはポーカーは得意ですか?」
「え? いや別に。得意でも不得意でも無いよ。どうせやるなら一番親しみのあるトランプゲームにしようと思っただけだし」
「そうですか」
話し掛けて来たからには何か意味深な発言をして心を惑わしてくるのだろうかと身構えた司は、その内容がただの雑談であった事にどこか気が抜ける。
会話が広がらない返しをしてしまったが、この勝負の場でそんな事を気にする理由も無いだろう。
「僕はですね」
てっきり会話はもう終わったと思っていた司は、ゲーテが更に続けようとしている事に少し驚いた。
「実はポーカー得意なんです。勝負テーブルもしくは種目自体を変えるなら今ですよ。どうします?」
「 (何言ってるんだ? この人……。) ……親切にありがとう。でも勝負のテーブルと種目は変えない。僕はこの席で初戦をするから、そういう変な揺さぶりは不要だよ」
「おやおや。そうですか。……ふふ、可哀想に……」
「……? 最後何て言ったの?」
最後の方は小さな声過ぎて聞き取れなかった司は思わず聞き返した。だがゲーテは司の質問には答えず、微笑みを浮かべたまま首を小さく横に振っただけだった。
「いえ。何でもありません。お気になさらず」
「……」
司はゲーテを怪しむようにジッと見つめる。やはりどこか胡散くさいこの男のペースに乗せられたら、正常な思考能力までもが奪われそうだ。
彼の言動一つ一つをいちいち真に受けて気にしていたら最後まで心身がもたないだろう。
「それはそうとディーラーさん。ソルヴァさんが退場したおかげで、『プレイヤーC』の席は今空席ですが、四人集まらないと始められないのですよね?」
ゲーテの質問に司とプレイヤーDの女性は、ソルヴァが元々居たプレイヤーCの席をチラッと見る。その席は司の隣であり、今は確かに誰も座っていない空席となっていた。
「ええ、その通りです。四人集まるまで勝負は開始できないのですが……おっと、どうやらその心配はいらないようですよ」
男性ディーラーがそう言った直後に、司にとっては聞き馴染みのある声が背後から聞こえた。
「あの、えっと、ここ空いてますよね?」
そこに立っていたのは別テーブルで早くも勝負を終えたテトラだった。
このカジノのポーカーでは一セット終える毎に続行するか抜けるかが自由に選べ、テトラはその一セットだけの勝負で一旦元居たテーブルを抜けたのだろう。そしてそのままここへとやって来たようだ。




