第3話
「ここか」
司はムイとロアが居るであろう部屋の前で立ち止まり、インターホンを押す。すると数秒後にムイの声が聞こえて来た。
「今開けるから待っててくれ」
その声に司とユエルはどこか懐かしさを感じていた。
彼ら四人は食事会以降一度も会って話してはいない。ノアでのやり取りは何回かあったが、こんな風に交流するのは随分と久し振りなのだ。
ムイとロアが謹慎生活を送っている間は謹慎の意義が失われないようにする為に会いには行かなかったし、明けてからもラスボス役としての活動がお互いにある以上、そう簡単には会えない。
今日のような休日で無い限り、会うチャンスはなかなか訪れないのだ。
「よお。何か久し振りな感じがするな。お前らと一緒に飯に行った時以来か。まぁ取り敢えず上がってくれ」
今のムイには以前のような司に対する敵対心など無かった。好感度が高いかと言われたら絶対そんな事は無いのだろうが、少なくとも新旗楼の仲間くらいには思っていそうだ。
「うん。そうさせてもらうよ。お邪魔しまーす」
「お、おおお邪魔します」
友達の家に遊びに来た感覚の司と緊張しているユエルとでは、玄関に足を踏み入れた段階から既に余裕のある無しに差が生まれている。
玄関のドアを閉めた後、ユエルが緊張している事に気付いたムイはその事について触れる。
「何だユエル。もしかして緊張してるのか?」
「は、はい。こんなにも豪華な所は初めてで。本当に別世界の住人って感じでちょっと緊張しちゃいます」
「相変わらず小心者だな、お前は。手錠双璧を前に一切怯まず司を守ろうと立ち上がったあの時の皇真ユエルはどこ行ったんだよ」
ムイは思い出話をするノリでユエルが開花適応する直前のシーンを口にした。
「そ、それとこれとは話が別です!」
「まぁとにかくだ。今日は司の昔話を聞こうぜって集まりなのに、そんな意味の無い緊張してたら話も入ってこないぞ。リビングにはロアが居るし、軽く話して緊張解せよ」
「うう……そうします」
そんな会話をしながら三人はリビングまで辿り着いた。
オシャレな空間が広がっており、大きくてフカフカそうなソファ、綺麗なカーペット、インテリアとして置かれた観葉植物、思わず料理したくなるような広いキッチン、どこを見てもテンションが上がりそうな部屋となっていた。
「あ。いらっしゃい」
ムイが言っていた通りロアがリビングで寛いでいた。ソファに座りノアを弄っていたが司たちに気付くと視線をノアの方から彼らに向け、テンプレとも言える挨拶をする。
「ロア。久し振りだね」
「ん。ユエルちゃんも。……。おいで。私と話そう?」
ムイとアイコンタクトをしたロアは彼が何を思っているか瞬時に理解し、ユエルを自分の近くへと誘った。
やはりこの二人の呼吸と意思疎通力は半端では無い。
シルベルスで司とユエルが手錠双璧相手に勝てた理由は間違いなく來冥力の差であろう事が分かる。確かに二人も阿吽の呼吸で息ピッタリの連携プレーを見せていたが、やはりそっち方面ではムイとロアに分があるのだろう。それでも勝てたという事は司とユエルの開花適応者としての実力が手錠双璧よりも上だったからに他ならない。
同じ開花適応者であっても当然実力差や來冥力の差は存在する。その事実を偶然にも証明してしまったという事だ。
「あ、は、はい!」
ロアに誘われたユエルは素直に彼女の側に行き、隣に座る。そしてそのまま雑談を始めた。こうして見ると意外にもロアとユエルは仲が良い。元々二人には大人しい女の子という共通点がある為、気も合うのかも知れない。
「……。それにしても、本当に久し振りだよね。元気にしてた?」
司はリビングのドア付近で立ったまま、近くのムイに話し掛けた。




