第37話
「何じゃないよ。説明も受けた事だし、私たちも早速残高を増やしていこうよ」
「あ、うん! そうしよっか」
勝負する気満々といったテトラはやる気に満ち溢れていた。そんな彼女の様子を微笑ましいものを見るかのような目で見た男性ディーラーは、お得意の接客スマイルで二人に金色に輝くチップを渡そうとした。
「ではこちらを。お二人のチップとなります。この試験中においてはお金よりも大切な存在となります。くれぐれも紛失にはご注意ください。それでは私はこれにて。お二人のご武運を心から祈っております」
「はい! えっと、ありがとうございます! とても助かりました!」
「ありがとうございます」
テトラと司がお礼を言った直後、男性ディーラーは一礼して去って行った。
男性ディーラーの後ろ姿を見た二人は、これでスタートラインに立てた感覚になった。
いつ、どこで、どんな風にチップを使って脱出に役立てるのかまではさすがに知る事はできなかったが、いずれやって来るであろうその時に備え、今日から毎日カジノでの勝負は行っていくべきだろう。
当然負け続けてしまった場合、二度と残高を増やせなくなってしまう結末を迎えてしまうかも知れない。そう考えると若干の躊躇いが発生してしまうが、勝っても負けてもいない今この段階からそんな弱気になっていては先が思いやられる。
リスクヘッジは大事だが慎重になり過ぎて小さな勝利しか掴めないのも考えものだ。大切なのはそのちょうど中間を攻める事。
合格条件は脱出成功先着五名となってはいる。しかしその過程も評価点に含まれている場合、仮に脱出しても不合格を言い渡される展開も普通に有り得るだろう。ならばエンペル・ギアが求めてきそうな行動を常に取り続ける事を意識する必要がある。
そしてこのカジノにおいて求められる力とは勝負所の嗅覚な気がしていた。攻める時は攻め、引くべき時は引き、流れが掴めない時は様子見をする。一見当たり前の行動のように見えるが、熱くなったりビビり過ぎたりした場合、意外とできなくなってしまうものだ。
言い換えれば、常に冷静に、そして感情ではなく理性の元で自身の行動を決定付ける事。これに尽きるだろう。
そう思った二人は気を引き締め直し、相談タイムへと突入した。
「よーし! まずはどれからやる? 司くんがやりたいゲーム選んで良いよ!」
「そうだね……」
司は改めて周囲を見渡し、そもそもどんなゲームが用意されているかの確認をした。
どのゲームをやるかは各参加者の自由であり、皆自分の得意なゲームや好きなゲームを選んでいるように見える。カジノ初心者である司にとって得意も好きも特に無かったのだが、敢えて選ぶとしたら馴染み深いトランプ系だろうと結論付けた。
ルーレットやスロットマシンも複雑では無いのだろうが、どうせやるならと司はプライベートで遊んだ事もあるブラックジャックやポーカーの方が取っつきやすいと考えた。
念の為本当にそれで良いのかと複数回自分に問いかけるが、何度自問しても答えは同じだった。司は自分の出した結論を信じ、テトラにその旨を伝える。
「この中だったらトランプ系が馴染みがあるし、ポーカーかブラックジャックが良いかなと思うんだけど」
「オッケー! ……あ、でも……」
「……?」
テトラは少しだけ気まずそうと言うか恥ずかしそうに司から目を逸らす。何事かと思い司がテトラを見つめていると彼女は申し訳無さそうに言った。
「ご、ごめん。えっと、私、ポーカーの役の強さ順よく覚えてない……です。司くんさえ良ければ教えてくれると助かるかな~なんて……あはは」
「……。知らない事があったらお姉ちゃんに何でも聞きなさい!」
司は二人で初めてカジノにやって来た時にテトラがドヤ顔で口にした発言をモノマネする。テトラは変に強気な発言をしてしまった後悔と羞恥が同時に押し寄せたようだ。顔を赤くして必死に弁解する。




