第35話
「初めてのご利用ですね。それでは私の方から色々とご説明させていただきます」
やはり本心が見えない他参加者よりも、初めから主催側の人間だと分かっているカジノディーラーの方が何倍も信頼でき安心もする。
テトラは自分の中に生まれたその安心感から、司の判断が間違っていなかったと確信すると彼の説明に耳を傾けた。
司も出遅れたくない一心から集中力を高める。
「まず当カジノは試験期間中、毎日開催致します。本日は初日という事で早めの開催をしましたが、明日以降は20時~24時までの四時間開催となりますので、お間違え無いように。年齢制限は御座いませんので、お二人のような未成年であってもカジノへの参加は可能となっております。ここでは各遊技台でこちらのチップを賭けていただき、ゲームの勝敗によって増減する……この辺りは普通のカジノと同じですね」
男性ディーラーは実際にチップを一枚見せた。
金色に輝くそれの大きさは一般的なカジノチップと同様に40ミリ×厚さ三ミリだ。二重丸のような模様となっており、中央には緑のデジタル文字で『100』と表示されていた。更にその数字の真上には非常に小さな黒い点が一つ。
数字に関してはあのチップ一枚の価値を示しているのだろうか。
「ふんふん」
テトラは男性ディーラーの説明に特に疑問顔を浮かべる事なく相槌を打った。司も彼女と同じくここまでは特に疑問は無い。
司はカジノで遊んだ事こそ無いものの、どんな感じでゲームが進行するかといった基礎的な事は知識として知っていた。とは言え最低限の流れから説明してくれるのは初心者目線で考えてくれている証拠なので、その点には安心感を覚える。
ここでテトラが周囲で行われているゲームの様子から、チップに関して疑問に思った事が一点あったようで男性ディーラーに質問をした。
「あの。えっと、見た感じ使用されているチップはそれ一枚だけのように見えるのですが、もしかしてこのカジノで利用されているチップってそれだけなんですか?」
言われて司も気付く。
確かに普通カジノでは複数の種類のチップが賭けの対象として使用され、それぞれ価値も異なる。だがこのカジノではどの遊技台を見ても使用されているのは金色のチップ一枚のみだ。
男性ディーラーは鋭いですねと言わんばかりに口角を上げ、一度頷いた。そしてチップに関する詳しい説明を続ける。
「その通りです。当カジノで使用されるチップはこの金色のチップ一枚だけとなります。今私が手にしているこちらのチップをそのまま例にして説明しますが、中央に緑のデジタル数字で『100』と表示されていますよね。これが初期の軍資金……という認識となります。当カジノではこの数字を便宜上『残高』という呼び方で統一しています。残高はこの小さな黒い点が上にくる状態で確認をお願いします」
単純だが変にネーミングされるよりはよっぽど記憶として残りやすいだろう。チップの内部データによるその数字が、賭けの際の金の役割を果たすのであれば残高という言い方も特段おかしな点は無い。
「ゲームで勝ち負けを繰り返す事で残高は増減し、ゼロになりますと当カジノで使える賭け残高が無くなった事により実質カジノへの参加資格を失います。負けた時は参加資格を失うだけとなり、その他のデメリット……例えば負債を抱え込む事態に発展する等の事は御座いませんので、ご安心ください。こちらのチップはタダでお貸しするものであり、皆様が賭けに使っているのはお金ではありませんからね。ちなみに下限はゼロと決まっておりますが、上限値は御座いません」
「 (……なるほど。このチップ一枚で好きな数字をベットして、各ゲームを遊んでどんどん内部の残高データを上げていくって流れか……) 」
男性ディーラーの金チップを注意深く見ながら司は流れを脳内で整理した。
負けた時のデメリットに金やこういう時の展開にありがちな身体的負傷が含まれていない点にはホッとしても良いだろう。
だがそれを理由に負けても良いかとは絶対ならない。チップの残高で一体何を獲得できる仕組みを取っているのか、二人はまだ把握していないのだ。その内容によってはカジノへの参加資格を失う事が大きなディスアドバンテージに繋がる恐れだってある。




