第33話
エンペル・ギアは試験参加者の息抜きの為だけにこの会場を用意した説も有り得るが、リバーシの候補生を選定する厳粛な試験にそんな配慮は果たして必要なのかと思わずにはいられない。
となればやはりこのカジノ内におけるチップの入手方法と賭け以外の用途には、何か秘密があると考えるのが普通だろう。
問題はそれを知る為にはどうすれば良いかだが、その思考は一人の男性に話し掛けられた事で中断されてしまった。
「おやおや。何かお困りのようですねぇ、お二人さん。見たところ、まだこのカジノの仕様について理解していないようですが……」
緊張感の無い男性の声がし、二人はそれに反応して声のした方へと視線を向ける。そこには20代前半ほどの茶髪の男性が微笑みながら立っていた。
パーカーにジーパンという出で立ちで、フードを被っている。その笑顔は胡散臭く、見るからに怪しい。できれば関わりたくないオーラが滲み出ていた。
顔立ちは結構美形であり、優しそうな目をしている。
このカジノのディーラーには見えない事から恐らく参加者なのだろうが、そうである場合司とテトラにとってはライバルという事になる。
「えっと……ど、どちら様?」
怪しさ満点の男性に警戒心を働かせつつも、テトラは男にそう訊いた。そして男はテトラの問いに微笑みを崩さずに回答する。
「おっと。これは失敬。僕とした事が挨拶をせずに話し掛けてしまうなんて。どうかお許しを。僕の名前はゲーテです。あなた方と同じくリバーシ加入試験の参加者ですよ。以後お見知りおきを」
ゲーテと名乗る男性はフードを被ったまま軽く会釈した。
「は、初めまして。テトラ……です」
「……。僕は、天賀谷司」
急に近付いて来た彼への警戒心は抱きつつも、二人は名前だけの自己紹介をした。ゲーテの口振りから察するに、彼はこのカジノについてある程度の情報を持っていそうだ。
ここは彼の話を聞いた方が先に進めるかも知れない。
「あの。さっき、えっと、カジノの仕様がどうのって言ってたけど……」
テトラはゲーテが話し掛けて来た時のセリフを思い出しながら早速話題に出した。
「ええ。カジノに参加する訳でもなく周囲を観察していたり、ここで使用されているチップを持っていなさそうな点から察したのですよ。この二人はここのカジノについて何も知らない初心者であるとね」
「その口振りからするに、ゲーテさんは知ってるの? このカジノについて」
「ええ、もちろん。あなた方さえ良ければ僕がチュートリアルをして差し上げようかと思うのですが、どうでしょうか」
「……」
テトラがゲーテとの会話を進行している中、司は一人黙って考え込んでいた。
怪しすぎるこの男とこれ以上関わりを持っても良いものかと。だが司が結論を出すよりも先にテトラが返答していた。
「えっと……そうだね……うん。お願いしても良いかな?」
「ちょ……」
「分かりました。ではまず……」
「あーストップストップ! ごめん、そのチュートリアル、ちょっと待ってくれても良いかな? ……テトラ」
そう言って司はテトラの手を握ってゲーテから離れようとする。




