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第30話

「隠し通路の可能性もあるけど、僕の考えは違う。ルールではこの建物から外に脱出できれば良いって事だけど、扉を開けたり何かしらの出入り口を使って外に出ろ……とは言われていないよね? だったらさ『転移』を使えば良いんじゃないかな。転移さえ使えば扉を開けるとか出入り口を見つけるとかそんな事をしなくても簡単に脱出できるでしょ?」


 司は今日シュレフォルンたちと別れる際、実際に彼らが何かしらの手段を用いて目の前から消えた光景を目の当たりにしている。


 詳しい事は分かっていないが界庭羅船やWPUの人間が簡単に行っている転移。それは今居る世界から異世界への転移すらも可能にするものであり、アルカナ・ヘヴン内に設置されている転移装置とは異なる技術によるものだ。


 彼らと同じ要領で転移できるかどうかは不明だが、物理的な脱出ではなく転移による脱出が今回の試験の答えなのではないかと司は考えていた。


 WPUの人間と接触したからこそ思い付いた事であるが、異世界転移を日常茶飯事レベルで行っているであろうテトラは果たしてどう思うのか。司はそれが気になっていた。


「……」


 司に転移による脱出の道を示され、テトラは考え込む。


「僕はWPUの人間がどうやって異世界間の転移を簡単に行っているかは知らないけれどさ、可能性としてはあるんじゃないかな」


「うーん、そうだね。確かにゼロじゃ無いと思う」


「……! そ、そっか!」


 完全な的外れという訳では無かった事にひとまずの安心を得た司は思わず笑顔になる。


 だがテトラの顔は晴れない。確かに有り得ない話では無いがそれが正解である事は恐らく無いだろうと思っているようだ。


「ゼロじゃ無いと思うけど、多分不正解だよ、それ」


「え? な、何で?」


「あのね、司くん」


 テトラは辺りをキョロキョロとするとなるべく人が居ない場所を見つけ、そこに小走りで向かっていく。その場所は壁に近い所で、辿り着くと手を振って司を呼んだ。


 なるべく聞かれたくない話なのだろうと思った司はテトラの元へと向かう。


 司が自分の近くにやって来たと同時にテトラはその場に体育座りの姿勢で座り、両腕で太ももの下をスカートごと抑え込んだ。女子が体育座りの時によくする座り方だ。


「座って座って」


 テトラに呼ばれた司は彼女の隣にあぐらをかいて座る。


「司くんはもう私たちの友達だし、えっと、特別に教えてあげよっかな。WPUの異世界転移の秘密。そしてその後に何で今回の試験では転移を使っての脱出が不正解なのか、私の考えを伝えるね」


 そう言ってテトラは司に教えた。WPUだけでなく界庭羅船も含め、彼らがどのようにして普段異世界転移を行っているのかを。


 キーワードは『世界地図』と呼ばれる不可視の地図の存在であった。


 それは特定の条件を満たすと入手可能な世界最大級の貴重な地図であり、この世に存在する全ての世界が記録されている。入手条件までは教えてくれなかったが、どうやら入手難易度は高くWPUや界庭羅船の他、一部の人間しか所有していないようだ。


 來冥漂渦と同じく基本的には可視化する事も触る事もできない地図であるが、特定の世界では世界地図を巨大モニターに映し出す事が可能な技術を持ち合わせているらしい。


 実際に映し出してみると真っ黒な画面に豆粒のような黄色い点の集合体となっており、その様はまるで宇宙の星々みたいだ。その黄色い点一つ一つが各世界を示しており、地図上においては座標という概念も存在している。


 この地図を所有している人々は各世界の座標を暗記するかメモしておく必要がある。何故ならば転移を行う際、その座標を脳内で思い浮かべる必要があるのだから。


 当然座標を覚えても世界地図を有していないと転移はできない為、一般人がこれをしようとしても全くの無意味で終わるのだが。


 これが現在世界→別世界へ転移する為の方法だ。初回転移となる世界ならば具体的な転移先は完全ランダムなのだが、行った事のある世界だった場合周囲の光景を併せて思い浮かべる事で、その場所への転移が可能になっている。


 そしてこの世界地図の特徴として二種類の『権限付与』が存在していた。

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