第2話
「 (さて。そろそろかな?) 」
音楽を聴きながらも周囲の景色を見たり異国について考えたりしながら時間を潰していた司は腕時計を見る。約束の時間五分前であり、確かに時間的にはユエルが現れてもおかしくない頃合いだ。
そして司がそう思ったまさにその時、彼は自分の腰が誰かに指でツンツンとされた事に気付き、イヤホンを外してから振り返る。
するとそこにはやたら気合の入った可愛らしい私服に身を包んだユエルの姿があった。服だけでなく髪もいつも以上に整えられており、初デートに行く少女のようだ。
司が振り返った事で反射的に引っ込めたその手は人差し指だけを少し曲げたような形になっていて、そのポーズを維持したままユエルは照れ笑いを浮かべていた。
「あ、あの……こ、こんにちは、司くん」
「先輩! こんにちは」
「すみません、待ちましたか?」
「いえ。そんな事無いので気にしないでください」
「そ、そうですか? えと、その、は、早起きはしたんですよ? で、でも、想像以上に準備に時間かかっちゃって……。あ、す、すみません。それなら昨日の夜から色々やっておけって話ですよね」
自分でもさすがに頑張り過ぎたと思ったのか、ユエルは恥ずかしそうに目を逸らす。
「落ち着いてください。そんな事思ってないですし、そもそも約束の時間前に着いたじゃないですか。それよりも、今日はムイとロアの部屋に行くだけですけど、ずいぶんと気合入っていますね」
「う。ま、まぁ……そう……ですね。 (二人の部屋に行くまでは司くんと二人きりだし、あの男の人、ダサい女の子と歩いてるなって思われたくなかったから……って言いたいけど何か意識し過ぎている感じがして恥ずかしくて言い出せない……) 」
「……? よく分かりませんが、それはそうと今の先輩普段よりも一段と可愛らしいですよ。とっても素敵です!」
「か、かわ……!? そ、そうやって、せ、先輩をからかうのは良くないですよ! ほ、ほら行きましょう!」
顔を真っ赤にしたユエルは恥ずかしさから逃げるように一人歩いて行った。
「いや、からかったつもりは無いんですけど……。あ、先輩」
「何ですか」
「目的地はそっちじゃないですよ。逆です、逆」
この発言がトドメになり、ユエルが羞恥で悶絶したのは言うまでもない。
協会の最寄り駅から少し歩いた所に、ムイとロアが暮らしているタワーがあった。
そう。それはもはやタワーと呼ぶに相応しい最高級の高層マンションだ。上を見上げると首が疲れ、このタワーで暮らせるお金があるだけムイとロアは勝ち組である。
「な、何と言うか……これはこれで住む世界が違うって感じがしますね」
さすがに落ち着きを取り戻しているユエルが第一感想を漏らす。
「ダブルラスボス役って普通のラスボス役よりも報酬が高いらしいですからね。それもムイとロアは同棲しているみたいですし、二人分合わせたら物凄い額になりますよ。こういう場所に住めるのも納得です」
「た、確かにそうですね。ダブルラスボス評価対決の時の自分の報酬見た時は声出ちゃいましたよ。金銭感覚おかしくなりそうって逆に恐くなりました」
「あはは。僕もです。さて、無事に辿り着けましたし中に入りましょうか。二人の部屋は三十二階だそうですよ」
そう言って司は歩き出し、ユエルもそれに倣って二人でタワーの中に入っていく。
司とユエルもマンションには住んでいるがこのレベルではさすがに無い。観光地にしても良いレベルのこのタワーは次元が違っていた。その結果ユエルは不必要に緊張してしまい、司が側に居てくれて良かったと心から思うのだった。




