第22話
ほぼゼロ距離でテトラの可愛いく落ち着いた声が耳に届き、ある種のくすぐったさを覚えてしまう。
だがテトラは意識していないのか鈍感なのか、司が羞恥心に苛まれている事など気にも留めず続けた。
「えっと、今回の試験だけど、多分受験者の中に『内通者』が居ると思う」
「……! (内通者?) 」
司は思わずその三文字をオウム返ししそうになった。そしてこのフロア内にも当然ながら居る他受験者たちを、思わず順番に見ていってしまう。もしかしたらこの中にその内通者が潜んでいるかも知れないのだ。
「内通者の役割はミスリード。協力的な関係を装いながらも、各受験者を誤った方向へ誘導して、結果騙された受験者は不合格になる……」
「……」
司はテトラの言葉に対して一言も発しない。
彼女が何故その事を知っているのか気になるが、もしも内通者が本当に紛れ込んでいるのであればテトラがその役目を担って動いている可能性だってあるのだ。
いずれ知る事になるのであれば先手を打って自分はそうじゃないアピールをしているだけかも知れない。
「それでね? 何で私がこの事を知っているかと言うと……ううん、『知っている』って表現は不適切かな。これ私の予想でしかないから。えっとね、私、この話をし始めた時に『多分』って言ったの覚えてる?」
司は一分前の記憶を遡る。確かにテトラは内通者が潜んでいると断言はせず、『多分』や『思う』といった、予想を含んだ話し方をしていた。
「内通者が居るかも知れないっていう話は、あくまでも私の予想。今までの試験でそういうのがあったせいで不合格になったって話を私は聞いた事があるから。あ、知り合いにね? 居るんだ。エンペル・ギアの関係者が。『それ』が原因でリバーシの試験に落ちた人が居るって話をその時に聞いたの。それで、今回も同じなんじゃないかって思った」
「 (エンペル・ギアの関係者に知り合いが居たとして、普通そんな情報漏らすかな?) 」
司の中で更なる疑問が沸き上がった後、テトラはようやく司の耳元から口を離した。司との距離が近すぎる所は変わらずだが。
「えっと、つまりね? 今回のこの試験で大切なのは信頼できる人を見極める力だと思うの。確かに自分だけの力で突き進んだ方が安全だし、騙されるリスクも無い。でも協力関係を結んだ人たちを相手に、個人の力で立ち向かうには限界があるでしょ?」
テトラは至近距離じゃないと聞こえないレベルの小声で話を続けた。
「それはそうだけど……」
テトラは簡単に言うが信頼できる人を見極める力が自分にあるかどうかなんて、分かるはずもない。
自分に近付いてきた人物や自分から近付こうと思った人物が、エンペル・ギアが用意した内通者であるかどうかなんて判断のしようがないのだ。
リスクを考えればこのままテトラとの関わりも避けて己の力のみで建物脱出を試みた方が賢明だ。しかしもしも他受験者が二人、あるいは三人で協力していて、かつその中に内通者が居なかった場合は司が圧倒的に不利となる。
ヘタしたら五人チームを組んでいた一つのグループが、そのまま先着五名の合格者になる可能性だってある。
そう思った司はどちらを取るべきか悩んでいた。そして案の定と言うべきか、テトラはただでさえ頭を悩ませている司を更に悩ませるが如く一つの提案をしてきた。
「ねぇ、お願い! 司くん、私と一緒に組んで! 絶対に二人で一緒にこの建物から脱出して合格しようよ!」
「 (そのセリフ、死亡フラグだって……) いや、急にそんな事言われても……」
今司の中にある迷いはただ一つ。
このテトラという少女は信頼に値する人か否か。




