第20話
他受験者たちとの試験開始タイミングを合わせる為に司は質疑応答タイムを終えた後も説明部屋兼、試験中の司の宿部屋で待機を命じられた。
当然ながらE5との会話はなく痛いほどの静寂が訪れていたが、頭の中で今回の試験について改めて整理をしていた司にとってその時間は苦では無かった。寧ろ静かな方が思考の海に潜りやすくなるので助かっていた。
やがてそんな待機時間は終わりを告げ、全受験者にとって最初で最後のリバーシ加入試験は幕を開けた。正直始まった実感は湧かないが、これから徐々に湧いてくるのだろうと思うとワクワクしてくるのだから不思議である。
「 (さて。取り敢えず外に出てはみたけど……まず何をすれば良いんだ?) 」
E5がリバーシ加入試験開始と同時に520号室から出て行き、それを合図にして司も同様に様子見も兼ねて部屋から出てみる事に。
分かっているのは自分が今居る場所が五階であるという事。そして辺りを見渡しても窓の類は一切なく外の様子を知る事は不可能である事。最後に五階より上の階層への階段は立ち入り禁止のテープによって進入が許されていない事。この三つのみだ。
情報ゼロのまま放り投げられた状態であり、どんな行動が最適解になるのかまるで分からない。
「 (まぁ取り敢えず一階に行ってみよっかな。無駄だとは思うけどこの建物の入口の場所くらいは把握しておきたいし) 」
そう考えた司は階段を使って一階へ向かおうとする。せっかくであれば三階や二階がどうなっているのかも見ておきたいと思ったからだ。
他受験者と思われる姿を何人か視界に入れつつも、一旦は五階~一階の観察に注力しようと思った司は気にせず足を動かす。
「 (取り敢えずこれまで見て来た階層を整理すると……) 」
サラッとレベルではあるが五階~一階がどんなフロアになっているかを観察しながら降りて行った司は、頭の中で各階の特徴をまとめる。
五階はホテルの客室やマンションの住人の部屋があるフロアのように、個室のドアが左右に並んでいるだけであった。脱出の糸口に繋がるような手掛かりや、警戒しなければいけない罠などは存在せず、シンプルに各受験者の憩いの間という認識で問題無さそうだ。
四階は司が転移させられた場所であり、試験説明を受けるまで待機させられた所でもある。薄暗く、最低限の明かりしか灯っていない。直方体形状の小さな部屋が所狭しと並んでいる様はまるで太い箱形状の柱が何本も聳え立っているようだ。部屋を囲う壁は床から天井までの高さとなっており、外から中の様子を確認する事はできない。
三階は驚く事にカジノになっていた。ルーレット、バカラ、ブラックジャック、ポーカー、ダイスなど、カジノをイメージするようなゲームは一通り揃っている。息抜き用に夜はここで遊ぶのも一つの選択肢かも知れない。
二階は宴会場のレストランといった感じだ。大きな丸テーブルにテーブルクロスが掛けられ、天井からは豪華で煌びやかなシャンデリアが吊り下げられていた。恐らく要望すれば個室で食べる事もできるかも知れないが、基本はここで食事するのだろう。
そして一階。ここは会社やホテルのフロントを彷彿とさせた。受付となるカウンターが存在し、辺りを見渡すと座り心地抜群そうな巨大ソファや透明なガラステーブルがいくつも置かれている。
各階に共通していたのが、オシャレなジャズ系の音楽が流れていた事。その結果静寂には包まれていない状況になっている。
「……! あれかな?」
まるで金庫扉のような重々しい鉄の扉が、カウンター側から見て正面の位置にあった。
絶対にこの建物からは虫一匹逃さないという強い意思を感じさせるそれに、司はゆっくりと近付く。




