第15話
シュレフォルンはビビらずにと言ったが、そんなの無理な話だ。WPUですら手が届いていない世界最大の犯罪組織が、セレーナに居るかも知れない。その事実は一般人の司を震え上がらせるには十分であった。
「か、界庭羅船のメンバーが、こ、この世界に……?」
「もう~シュレくん、怖がらせちゃダメでしょ? 大丈夫? 司くん。もし良かったらお姉ちゃんが抱き締めてあげよっか? 少しは落ち着くかも知れないよ!」
「あなたは少し黙っててください。司くん、怖がる必要はありません。界庭羅船とリバーシ加入試験が関わる事は無いですからね。司くんや他受験者が彼らに接触する機会は訪れないと言って良いでしょう」
氷雨は冷静に言い放つ。実際界庭羅船の目的にリバーシ加入試験は含まれていない。彼女の言う通り、界庭羅船がこの世界に居るとは言え過剰に怯える必要は無いのである。
しかしそれはWPUのように常人離れした來冥者だからこそ持てる心構えだ。司のような普通の來冥者からすれば、自分が居る世界に界庭羅船のメンバーが訪れているだけでも不安になってしまう。
「そ、そうだとしても……! やっぱり怖いものは怖いって言うか……しかも、ええと、クオリネ? って人は特に強い來冥者なんでしょ? 本当に大丈夫なの?」
司の表情と声には明らかに動揺が混じっている。WPUで活動し続けると感覚が麻痺してくるがこれが正常な反応だ。
「ははは。大丈夫な訳あるかよ」
回答の内容とは裏腹にシュレフォルンはケタケタ笑っている。
「え?」
大体この手の質問は相手にどう返して欲しいか質問者の中では決まっているものだ。今回も例外ではなく、司は彼に大丈夫だから心配するなと言われたかった。
だがシュレフォルンはそんな淡い期待を簡単に裏切る。
「いいか、司。俺らが相手にするのはあの界庭羅船なんだ。ここで大丈夫って自信満々に言えたら奴らはとっくに監獄異世界行きになってるって」
「 (監獄異世界なんてあるんだ。) ……やっぱりWPUと言えど界庭羅船には勝てない感じなの? さっき氷雨さんが言っていた開花適応の回数は向こうが上って事?」
「結論から言うとそうだ。だがそれだけじゃない。元々の潜在能力も奴らは桁違いに高い事で知られている。氷雨の話の中で話題に出ただろ? 開花適応レベルとしては低くてもそいつの元からの來冥力が高い場合、下剋上展開を起こせるかどうかって。今や奴らは開花適応レベルで見ても上位存在だから、その『開花適応レベルが低い方』には該当しないが、奴らがまだそうだった時代にはもしかしたら有り得たかも知れないな。氷雨の中では机上の空論として扱われているその展開が」
「……!」
シュレフォルンの言葉に司は恐怖を覚える。
開花適応を複数回している点だけ見ても厄介な事この上無いのに、それに加えて潜在能力として備わっている元からの來冥力値も常軌を逸しているとなると、本当に彼らに勝つのは夢物語なのではと思えてくるのだ。
「今シュレくんが言った事に加えてトップ3クラスになると、その異様なまでの來冥力を駆使し、天候や気温、自然現象という意味での環境までも、世界規模で変える事が可能です。莫大な來冥力を解放して局地的に雷雲や嵐を発生させる事が可能な來冥者は居るかも知れませんが、その規模を世界全体にまで拡大させる事が可能な人はまず居ない……今まではそう考えられてきました。ですが界庭羅船トップ3が本気を出せばそれが可能なのです。これが何を意味するか分かりますか?」
氷雨から受けた説明が無ければ恐らくその意味する所が分からなかっただろう。
だが今なら分かる。それがどれほど絶望的な状況なのかを。
「界庭羅船の中には自分たちに有利な環境を作れる人たちも居るって事?」
できれば当たって欲しくなかった司の考えは、シュレフォルンが頷いた事で簡単に正解だと判明した。




