第14話
「仁さんは司くんの事が心配で仕方が無かったんですよ。リバーシ加入試験は危険も伴いますからね」
「……」
氷雨はそう言うがこの時司は仁の行動に違和感を覚えていた。
これまでの話と司の経験談から推測するに、仁は仕事に対して自分の感情を抑え込む事を得意としている。
WPUの人間であるならばその組織力を活かして蒼を殺した犯人を捕らえるべく動いても良かった。だが彼は蒼の死を知った時も涙を見せて犯人を憎む一方でその行動は起こしていない。
これは司の予想だが恐らくは『アルカナ・ヘヴンで死んだ娘の調査はアルカナ・ヘヴンの牢政の仕事』とラインを引き、WPUとしての自分が捜査に加わるのは違うと言い聞かせていたのだろう。本当は自分の手で娘を殺した犯人を捕まえたい気持ちで満たされているにも拘らずだ。
自分の本心を騙す事に長け、仕事に対しては一切の私情を挟まない男が『息子が心配だから』を理由にして、WPUのメンバーを三人も見守り役として送り付けるだろうか。
「それだけ?」
「ん? 何がだ?」
口では司の質問がどういう意味か分かっていない風だが、その表情に疑問は宿っていない。恐らく司が何を言いたいのかを瞬時に察したのだろう。鋭いなとでも言いたげな感じである。
「いや、シュレたちが来た理由だよ。いくら父さんにお願いされたからって、僕の為だけにWPUの人間が三人もそれだけでやって来るなんて有り得ないでしょ? あくまでも僕はついでで、真の目的は別にあるんじゃないの?」
「お。さぁっすがリバーシ受験者だね! その通りだよ! まぁ『司くんに会いに来た』目的は仁さんにお願いされたからだけどね! いい機会だし会ってみよっかなって」
シアの口振りからするに整理すると、セレーナにやって来た真の目的は別にあって、どうせセレーナに行くのであれば息子の様子も見てきて欲しいと仁に頼まれたが故に司の所に足を運んだという事だろう。
「やっぱりそうなんだ。僕に会いに来た理由は分かったから、シュレたちがこの世界に来た元々の理由も訊いて良い? それとも関係者以外には話せない内容?」
正直自分に接触を試みた点さえハッキリさせる事ができれば司的には満足であった為、彼らの真の目的は知れなかったとしても良いと思っていた。
まさか異世界旅行でセレーナを訪れただけというオチでも無いだろう。三人はWPUとして、何かしらの仕事をする為にこの世界にやって来た以外考えられない。
そうであれば彼らにとってはただの異世界人に過ぎない司に対し、真の目的を明かす必要性は一切無い訳だ。
だが司のそんな予想はシュレの言葉によって簡単に裏切られる事になる。
「気になるか? 良いぜ、話してやる。開花適応の話の時から知っている前提で口にしてきたが、司は『界庭羅船』についてどれだけ知ってる?」
「……! 界庭羅船……!」
知っている人が聞けばその名前だけで思わず緊張してしまう。それほどまでに界庭羅船は畏怖の存在として人々に映っていた。
司も例外ではなく界庭羅船の話題になった途端、思わず息を呑んだ。だが目の前に居る訳でも無いのに変に動揺するのもおかしな話だと自分に言い聞かせ、司は心を落ち着かせた後に冷静に答える。
「詳しくは何も。そういう名前の組織だって事と、彼らに護衛を依頼した犯罪者を各世界の警察組織から圧倒的な來冥力で守っているって事しか。構成員の名前とか、何人のチームで活動している組織なのかとかも知らないよ」
「上出来だ。普通の人間であれば知り得る情報はそれくらいだからな。界庭羅船っていう組織名を知っているだけでもニュースとかよく見てるんだなって感じだ」
「何で急に界庭羅船の話題を?」
「はは。ビビらずに聞けよ? 界庭羅船メンバーの内の二人……『レイクネス』と『クオリネ』がこの世界に来ているとの情報が入ったんでな。それで出向いた訳だ。特にクオリネって奴は危険だ。見た目も実年齢もまだ14、5の少女なんだが、來冥者としての実力は界庭羅船の中でもトップ3に入るらしい」




