第12話
「全然そんな事無いから気にしないで! 寧ろ普通に生活してたら絶対に聞けない話を聞けたし、凄く面白かったよ!」
司の言葉に氷雨は救われたかのような気持ちになった。
「本当ですか? ありがとうございます。司くんがそう思ってくれるなら私も話して良かったです」
「まぁでも、やっぱり氷雨は誰かに授業してる時が一番キラキラしてるな。にしても何で開花適応の話になったのか……うーん、思い出せん」
「シアさんの能力を伝える時に、あなたが開花適応って口にしたからですよ」
「ああ、そうだったな。俺たちWPUや界庭羅船はその開花適応って現象を経験して、絶大な來冥力を獲得してるんだ。ま、全力の内の何パー使えるかに関しては、氷雨が言った通り各世界における來冥漂渦次第だけどな」
圧倒的な來冥力の正体。それは開花適応を引き起こし、自身の來冥力の上限を突破して来た結果だった。場合によっては複数回覚醒する事でその來冥力を大幅に更新しているのだろう。
その事実を知った司はふと思う。もしも自分が彼らと同じラインまで到達するとしたらどれだけの才能に恵まれ、どれだけの努力をしなければいけないのかと。
世界は広いとよく耳にするが、彼らのような存在を目の当たりにすると、自分がいかに小さな存在なのか思い知らされる。來冥力には多少なりと自信があったが故にリバーシ加入試験に挑戦しようとしているが所詮は井の中の蛙なのだと実感した。
「……。いや、待て。違う違う。何か良い感じに話が終わろうとしてるけどさ、開花適応の授業をする為に俺らは司に会いに来たんじゃないんだよ」
「まぁ……そうですね。すみません、私のせいで……」
「悪いな。試験そろそろか? モヤモヤさせた状態でお前を送り出す事はしたくないんだが、さすがに引き止める事はしないから、そこは安心してくれ」
「え? あ、別に大丈夫だよ。多分僕早く来すぎちゃったみたいで。時間に余裕はあると思うから落ち着いて本題に入って良いよ。何でWPUの人間が僕に会いに来たのか普通に知りたいし」
最初はシアの能力で無理やり司を落ち着かせたみたいだが、会話を挟んだ事により本当の意味で彼は平常心を取り戻したようだ。
そう考えると氷雨先生による開花適応に関する授業も知識提供以外のメリットがあったのかも知れない。
「お、そうか。分かった。それじゃあ気を取り直して話すぞ。まずはこれを見て欲しい」
シュレフォルンはタブレット端末を無の空間から出現させる。
どうやらアルカナ・ヘヴン内で使用されている情報端末機『ノア』とは異なる代物のようだ。住む世界が違えば使用する機器も異なるという事だろう。
シュレフォルンは端末を操作し、とある画像を画面に映した状態で司に見せた。
そこに映し出されていたのは一人の男だった。オールバックの黒髪に、整えられた口髭とあご髭をした30代後半程の男性だ。
真正面を向き、上半身しか映っていない。
その人物を見た司は驚きで目を丸くする。その人物は司にとって最も身近で、そしてある意味で遠い人物だったのだ。
「……っ……と、父さん……!」
その男は紛れも無く司の父親だった。
何故シュレフォルンが司の父親に関するデータを所持しているのか、司は当然分からない。もしや犯罪者として追われていて、息子である司に色々と聞き込みをするべく彼らは来たのかと嫌でも考えてしまう。
彼のそんな不安を察したのか余計な考えを与える前にシュレフォルンが事情を説明していく。
「天賀谷仁。お前にとっては父親という存在で、そして俺らにとっては……」
一拍間を空けたシュレフォルンは、実の息子である司ですら知らなった衝撃の事実を口にした。
「WPUの頼れる仲間ってところだ」




