第115話
該当する発言を脳内で何度も再生させるが、やはり違和感があった。その時は気にするなと伝えて話を先に進めたが、こうして1人になった事で改めて考える時間が生まれたという訳だ。
「やはりおかしいな」
レギュラオンは思わずポツリと呟く。
カジノにおいて内通者たちはイカサマを駆使して勝利をもぎ取っている話が出た時、彼女は司たちに対してこう説明したのだ。
内通者は各ゲームに平等に配置されるように動き、1つのゲームに2人以上固まらないようにしていると。
今回のリバーシ試験におけるこの仕様はテトラが口にした発言と矛盾している。
確かに常に一緒に行動してはいないようだが、正直そんな事は大した問題では無い。大切なのは内通者が同じゲームで勝負していない事。この1点だ。
つまり偶然を装ってなどという小癪な手を使う事自体エンペル・ギア側の意向とズレているのだ。
そもそもプレイヤーDの女性は内通者などではなく、ゲーテと一緒に行動していただけの一般参加者であれば矛盾点は解決されそうだが、それはそれで何故内通者と一緒に行動しているのかという疑問が残る。
ポーカーの席に関してはディーラーと内通者が組む事でイカサマを成立させていた。プレイヤーDの女性が内通者であろうとなかろうと、ゲーテと組んでいる時点でイカサマの仕組みについては知っているだろう。
その時点でプレイヤーDの女性は少なくともゲーテが内通者である事を把握してはいるはずだ。すなわちゲーテが内通者だと知らずに組んでいましたという言い訳も大分苦しいと言うもの。
ゲーテの正体を知る前の司のように、本来参加者は内通者という存在が試験内に潜んでいる事を認識したら彼らを警戒するのが普通だ。仮に何らかの利を見出して一時的に手を組んだとしても、参加者の味方でない以上、いつ裏切られるか分かったものではない。
これらの事を総合して考えるとプレイヤーDの女性はやはり内通者で、何故かゲーテと行動を共にしていたと考えるのが自然だ。
そこまで思考を巡らせたレギュラオンは、エンペル・ギアの内通者ともあろう人たちが同じ勝負の席に着いていた理由以外にも別の謎が存在している事に気付く。
「 (ゲーテと一緒に勝負に参加した謎の女の事も気になるが、エンペル・ギア側の他の人間がその事に対して一切無関心なのもおかしい) 」
エンペル・ギア側の人間が明らかにルール違反しているにも拘らず、彼らはゲーテたちの事を全く咎めようとしていないのだ。
レギュラオンからすればゲーテとプレイヤーDの女性が同じ席で勝負していた事よりも、その状況を良しとしている空気の方が気がかりであった。
最初は小さな違和感止まりであったが、考えれば考えるほどやがてそれは大きなものへと成長していったのだ。
「 (ゲーテを内通者だと知った上で行動を共にする謎の女か。そんな奴、同じく内通者以外に考えられないが、しかし……。……! いや、待てよ? 内通者以外にも存在する……ゲーテと共に行動する理由を持つ者が。) ……これは調べる価値があるな」
確信に近いものを得たレギュラオンはシュレフォルンたちに連絡を取った。アルカナ・ヘヴンの食事を楽しみたいと言った彼らは、この部屋を出て行ってから近くの飲食店へ向かっているはずである。
睡眠は昨夜セレーナの試験会場に潜入した際に交代しながら仮眠を取っていたようで、後は空腹を満たすだけとなっていた。時間的にもモーニングセットを売りにしている喫茶店が賑わう頃合いという事もあり、束の間の休息を堪能するには最適なタイミングだろう。
「シュレフォルン、氷雨、シア。聞こえるか? 飯を食べた後で構わん。お前らに1つ調査して欲しい事がある」
裏でレギュラオンが別問題について動き始めているなど露知らない司とテトラは、以降も調査のフリを続けた。距離を空けてくれているとは言えゲーテに見られながらの調査は気分の良いものでは無かったが、怪しい行動はしていないというアピールを彼の前で行えるのは寧ろ利点だと切り替える事で対処していった。
途中で昼食と夕食を挟み、気付けばセレーナの時刻は夜を迎える。
すなわちカジノ開始時刻であり、テトラに至ってはゲーテの監視を止める要求を呑む事を彼に伝える約束の時間帯だ。




