第114話
エンペル・ギア内のレギュラオンの執務室で作戦会議を終えた司とテトラは、リバーシ試験会場へと戻った。
とにもかくにもカジノが始まらないと残高は貯められない。もどかしい時間が大半を占める事になりそうだが、今は夜になるのを待つしかないだろう。
しかしだからと言って夜まで何もしないで待ち続けるのも試験参加者として不自然な行動だ。ここは表面上でも試験会場からの脱出を目的とした調査行動に出て時間を潰すのが得策と言える。
2人はまず各自室へと戻り、ベッドを動かす事でその下に隠された4階へ通じるルートの確認を行った。レギュラオンの話を信じていない訳ではないし、彼女が嘘を吐く理由も無いのは十分に理解しているが、実際どんな感じになっているのかと確認はしておくべきだろう。
そこにあったのは床下収納を彷彿とさせるような黒い枠と凹型取っ手、そして40ミリ×厚さ3ミリの円形状の窪みが1つだった。
窪みの形状と大きさ、そして深さを見た司とテトラは、その場所にチップを嵌め込む事で解錠する仕掛けなのだと察する。だが当然今嵌め込んでもロックは解除されない。恐らくレギュラオンが言っていた目標残高に達した状態でないと反応しないのだろう。
試しに取っ手に指を食い込ませて上へ力を加えたが開く様子は皆無だ。
レギュラオンから教えられなければすぐに気付く事はできなかっただろう。明るい内は全て調査時間に費やしている為いつかは自室を調べ忘れていた事に気付いて発見に至るかも知れないが、こんなに早く見つけられる事は無かったはずだ。
一体何人の参加者がこのルートに気付けるのか疑問である。
自室から4階へ通じる抜け道を見つけた2人はベッドの位置を戻してから合流する。お互いにレギュラオンの言っていたルートが実在した事を確認し合うと、形だけの調査をその後開始した。
この時に有り難かったのはゲーテが姿を見せてくれていた事だ。つまり司たちはゲーテの行動を割と簡単に把握できるようになり、これは嬉しい誤算と言える。
彼もまた内通者として振る舞う必要があり、自由気ままに動ける訳では無いようだ。テトラには正体がバレていると認識してはいるようだが、現時点ではあくまでもエンペル・ギア側の人間として行動する必要があるという事なのだろう。
だがテトラにとっては良い事ばかりでは無かった。ゲーテはテトラの以降の行動が気になるのか、明らかに彼女が自分の視界に入る事を意識しているように見えるのだ。それは最早ストーカーの領域であり、偶然にも目が合うと意味ありげに微笑み、その度にテトラは鳥肌が立った。
「 (もう……本当にキモいんだけど。絶対モテないでしょ、あの人……) 」
なるべくゲーテと目を合わせないようにしながらテトラは司と試験会場内を歩く。そんな明らかにテンションが落ちている彼女に気付いた司は、彼女の方を見て歩きながら話し掛けた。
「テトラ? どうかした?」
「う~……私にとっては司くんが本当に癒しだよ~」
「え? 急にどうしたの」
「何でもない何でもない! ほら! 次は1階を調査しよっか!」
ただでさえ慣れていない事に挑戦しようとしている司に、これ以上余計な事を考えさせてはいけない。そう考えたテトラは気持ちを切り替えて彼に笑顔を向けた。
「……? まぁ何でもないなら別に良いけど。うん、分かったよ」
司とテトラがセレーナへと戻り、シュレフォルンたちもレギュラオンの執務室から出て行った後の事である。
執務室に1人となったレギュラオンは、先ほどの作戦会議中にテトラから聞いたとある発言について思考を巡らせていた。
『昨日の夜は、えっと、多分同じ内通者の仲間の女の人と一緒に行動してて、カジノに参加とかしてたし』
『まぁ勝負後はゲーテさんと一緒には行動してなかったから、多分勝負の時限定で偶然を装って共闘するって感じだと思うけど……』
「……」




