第110話
司の気持ちを察した上でそう言ったのかどうかまでは分からないが、彼女を前にしていると毎回毎回先を読まれていそうな感覚に陥ってしまう。
「つまり我々に協力してくれる事には感謝するが、それとリバーシ加入試験の合格はまた別という事だ。異論はあるまい?」
「はい! 寧ろ僕専用の試験を用意して頂けて感謝しています」
「そうか」
「あー、ちょっと良いか? そんで結局、司とテトラはいつ地下に行くんだ? 今日会場に戻ったらすぐか?」
作戦の内容はある程度把握できたが、開始タイミングまでは明確化されていない。シュレフォルンは最後にハッキリさせるべき部分としてその事を質問した。
彼の質問にレギュラオンは即答する。
「いや。早すぎると逆に疑われる可能性がある。従って今日中は避けるべきだ。それに先ほどお前らに伝えた通り、そもそも参加者たちの部屋から転移装置が設置された4階へ行く為には一定数の残高が必要だ。その残高数は『1000』……ギャンブラーとしての才能と豪運を併せ持っているのであれば一晩で稼げるかも知れないが、さすがに厳しいはずだ。実際のところ、お前らは2人ともその残高には達していないだろう?」
レギュラオンは参加者1人1人の残高など当然把握していない。そもそも試験本番の運用に関しても本来携わる事が無いポジションの人間なのだ。
彼女が関わっているのは試験の内容決めのみ。試験が開始されている今、こうして内容について思考を巡らせるなどこれまでの歴史を振り返っても今回が初だろう。
司とテトラは昨夜自分たちが稼いだ残高を思い出し、レギュラオンにそれぞれ伝える。
「はい。僕は『250』です」
「私は……えっと、『550』? だったかな」
全プレイヤーの残高のスタートが『100』であった事を考えると司は『150』、テトラは『450』稼いだ訳だ。つまり単純計算でいけば司は後5回、テトラは後1回カジノを乗り越えれば目標に達するが、さすがにその計算方法は頭が悪すぎるやり方である。
運が悪ければ最悪今日の勝負でゼロになる未来も十分に有り得るだろう。
一番怖いのはテトラだ。運というものが収束していく概念であるならば、昨日豪運を発揮した以上今日の勝負でボロ負けする恐れはある。
「うわぁ……『1000』は程遠いね。レギュ姉、ちょっと難易度調整ミスったんじゃないの?」
「リバーシをナメるなよ? 現にテトラは昨日と同じ数だけ稼げば今日中には達するではないか。この世界の事を知る良い機会だから覚えておけ、シア。1人でも試練を通過する人が現れた時点で難易度は適切だ。少なくともリバーシではな」
無知であるが故の発言と捉えたレギュラオンは、目で射殺すかの如くシアを睨みつけながら怒気を孕んだ声を上げる。
「はいはい、分かった分かったよ! 分かったからそんな睨まないでよ。怖いなーもう。そんな表情ばっかりしてたらシワが増えるよ! レギュ姉、超美人さんなんだから気を付けなきゃ!」
今のを教訓にしたシアは、レギュラオンの前でリバーシ加入試験について意見を述べる事は二度としてはいけない事を学んだ。
「うるさい。大きなお世話だ」
「つっても俺らの作戦じゃあ司とテトラが地下に行かなきゃ始まんないだろ? どうするんだよ、その残高とかいうシステム。まさか裏で手を回してカサ増しする感じか?」
話が脱線しそうな雰囲気を感じ取ったシュレフォルンは、今回の試験第1の壁の乗り越え方を質問する事で軌道を元に戻そうとした。
真面目に『1000』を稼ぐとなれば時間が掛かるだけでなく、何より運否天賦に結局発展してしまうのが痛いところだ。
作戦を実行に移すのであれば確実に残高を目標値に到達させる必要がある訳だが、運の女神に見捨てられてしまえば正直作戦実行どころではなくなるだろう。
だがこの点に関して何も対策を講じていないレギュラオンではなかった。
「ゲーテがエンペル・ギアの人間である事を忘れるな。裏で手を回してゲーテに気付かれたらどうする。そんな危険な事をせずとも残高回りに関しては考えがあるから安心しろ」




