第10話
「來冥漂渦はその世界の環境を決定付ける物質です。その量は、世界によって異なります。量が多ければ多い程『使用可能な來冥力の上限値』が引き上げられるんですよ」
「使用可能な來冥力の上限値……? ……あ。もしかして、アルカナ・ヘヴン内で來冥力が使えないのって……」
そこまで言うと氷雨は驚いたような表情になった。今の説明だけでその結論に達した司の思考力に感心したのだ。
「來冥漂渦の量がかなり少ないから……?」
「司くんは賢いですね。その通りです。來冥漂渦の量が一定のラインを下回ると來冥力は使えない『環境』という事になります」
氷雨の言葉を聞き自分の推測が間違っていなかった事を知ると、司はホッとした。
氷雨のような学者を思わせる人物を前にすると、「分かりません」だけではやはり申し訳無い気持ちが少し湧いてしまうからだ。
「さて。『使用可能な來冥力の上限値』についてもう少し解説しましょうか。実は來冥力と言うのは元々100%出せるようにはなっていません。普通の人は自分が普段出せる全力が、そのままイコール自分の全力だと思うかも知れませんが、それは誤りです。來冥漂渦の量が多い程、100%に近い数値で來冥力を出せる訳ですね。ふふ、司くんも別世界に行けば、今の二倍近い強さを発揮できるかも知れませんよ」
「え!? そ、そうなの? (それ結構ワクワクするかも) 」
「まぁそれは司くんに限った話ではありませんけどね。とにかく來冥漂渦はその人の全力に近い來冥力を引き出す為に必要な物質なのです。そして開花適応と言うのは、その全力を出した時の來冥力の限界値上限を引き上げる覚醒の事です。例えば司くんの限界値を100として、世界Aでは50%の來冥力を、世界Bでは70%出せるとしましょう」
先程の説明を聞いたからか、氷雨が口にした例もスッと頭に入ってきた。世界Bの方が世界Aよりも來冥漂渦の量が多く、その分全力に近い來冥力を放出可能という事だろう。
「この時世界A、Bではそのまま50、70の來冥力を出せます。ところが開花適応を果たすと、先程言った限界値100が、200になったりします。するとどうでしょう。世界A、Bで扱える來冥力の数値がそれぞれ100、140になります。開花適応前の世界Bで出せる全力を超える強さを、世界Aで発揮できるようになる……ということです。自身の限界値突破……これが開花適応ですね。ちなみに開花適応は最大五回可能です。便宜上有識者は開花適応を一回以上果たした人を開花適応レベル一、レベル二のように呼んでいます」
氷雨の説明を受けて司は少し引っ掛かる所があったのか、相槌やリアクションも忘れて考え込んでしまった。
「……。……あれ? ねぇもしかしてだけど、元々の來冥力の値がより高ければ、例えば開花適応レベル二の人をレベル一の人が上回るなんて事もあるの?」
「そうですね。確かに理論上は可能です。先程私は司くんの今の限界値を100としましたが、同じレベル帯でもこの潜在能力部分だけは異なりますからね。最初から250を有している人が居たら、司くんが開花適応して200になっても來冥力の方はまだ向こうが上という状況も有り得ます。ですが私はその例を聞いた事がありません。開花適応のレベルを見れば負けているのに、來冥力では勝っているなど、その者が相当な潜在能力を宿していないとまず有り得ないでしょう。不可能な話ではありませんが、かなり珍しいかと」
「うーん、そっか……」
いわゆる下剋上展開も可能なのではと内心ワクワクしていた司は、現実を知って少し残念そうだ。
「はい。この開花適応は來冥漂渦の量によって覚醒可能かどうかも決まってきます。各世界には『世界レベル』という概念があるんですけど、來冥漂渦の量においてこの量からこの量まではこの世界レベルといった具合に、全世界を合計七種類に分類する事ができるんですよ。例えばゲームなどでも一位~三位の人はプラチナ帯、四位~十位の人はゴールド帯、11位~50位の人はシルバー帯……のように、順位は違えど一つのグループで括られる事がありますよね。それと一緒です。來冥漂渦の量は全世界で異なりますが、それぞれを七つの枠に収めているという事です」
身近なゲームで例えられた事で司はイメージがしやすかった。
氷雨は司が納得していそうな表情をしている事を確認してから、続きを話した。




