第108話
「今回の任務に関わる部分だけを抜粋して話すとしよう。全てを話す意味は無いのでな」
そう言ってレギュラオンは司にとっては史上最大規模のネタバレになる話を躊躇いもなく口にした。何と彼女は今回のリバーシ加入試験の答えとも言える内容を口にしたのだ。
どうやら司たちが昨夜参加したカジノで金やチップの役割を果たしていた残高を一定数集めると、各参加者の自室内に置かれているベッドの下に隠された下の階へと続く抜け穴のロックを解除可能な仕組みになっているとの事。
灯台下暗しとはまさにこの事で、建物内を隅々まで調べる事はしても意外と自室を調べる者は現れない。現に初日の段階では下の階へと続くその抜け穴の存在に気付けた参加者はゼロとの事らしい。
ここで重要なのは抜け穴を使って下の階へ降りた場合にどこに辿り着くのか、その一点だ。結論から言えば降りた先に待っている場所は、司たち参加者が待機部屋として使用していたあの小さな部屋である。
調査時に司とテトラは4階にある各小部屋に再度入室を試みたりもしたのだが、鍵がかかっていてどの小部屋にも入れなかったのだ。まさかあの部屋が脱出の手掛かりに繋がる場所として設定され、かつ自室から向かえる事実を知った司とテトラは参加者の1人としてシンプルに驚いていた。
建物の構造的には各参加者の自室の真下がそれぞれ待機部屋として使用していた小部屋になっているという訳だ。
小部屋の中には転移装置が置かれており、それを活用するとその者はとある場所へと転移する仕組みが取られている。その場所はこの建物の地下空間だ。
どうやら試験会場の舞台となっているあの建物の地下には、巨大な空間が広がっているみたいだ。ホラーゲームのように暗い場所となっており、方向感覚を失いやすい。もしも方向音痴が歩こうものなら一瞬で迷子になるだろう。
おまけに『アンデッド』と呼ばれている死後彷徨う亡霊が地下空間に居るとの事。
セレーナという世界において死者の魂は地下へ還るとされ、異形の生命体として生まれ変わる事が認知されている。その正体は來冥力の凝縮体であり、攻撃的な一面も持ち合わせている生物だ。
原異生物と異なる点としてはコミュニケーションが取れない所にあるだろう。参加者たちは1人の例外もなくこの言葉が通じない未知に立ち向かう必要性が発生している。
アルカナ・ヘヴンでは聞き馴染みが無いどころか存在すらしていない生命体であり、まさに異世界ならではと言ったところだ。
今回のリバーシ加入試験では、カジノで勝ち越す→地下空間へ行く為のルートを発見する→完全初見の生命体となるアンデッドと戦いながら地上を目指すという3重の壁が立ちはだかっていた訳だ。
ここまで話したレギュラオンは、この一連の流れにおいてゲーテの行動が比較的読みやすいタイミングがいつなのかを司たちに続けて教えた。
それこそまさに最後の壁として聳え立つ、地下空間から地上を目指す時であった。
アンデッドの地下空間内での動きはある程度誘導できるらしい。ゲーテら内通者は参加者が地下空間に辿り着いた際にその連絡を受け、同様にその場所へと向かい、なるべく参加者の近くにアンデッドが集まるように仕向けるのだ。
つまり司とテトラが地下空間へと辿り着けば逆にゲーテを誘き出す事が可能になる。複数名居る内通者の中の誰が向かうかはその時の状況次第で変わってくるが、レギュラオンはゲーテであれば寧ろ自分が行くと立候補するに違いないと読んでいた。
いくらテトラがゲーテの要求を受け入れると彼に伝えても、それだけでゲーテが完全に安心しきるとは思えない。可能なら余計な動きや怪しい挙動を見せないか、定期的に確認したい気持ちが湧くのが自然だろう。
おまけに地下空間に入ってしまえば後は地上に戻るまで試験会場内部とは繋がりを絶つ事になる。自分の目が届かない場所で何かされる可能性はあると考えたゲーテが、司とテトラを逆に監視してやろうと意気込んで自らやって来る展開は十分に考えられるのである。
もしもレギュラオンの読み通りゲーテが現れたらこちらのものだ。未知の生命体が蠢く危険エリアで内通者を発見した場合、その者を常に警戒しながら行動しても何も違和感は無いだろう。




