第103話
「司くん。気にしないで。レギュラオンさんっていつもこんなだから。こればかりは慣れるしかないよ。あ、でもそれが一番難しいか……」
せめて精神面で少しフォローできればと思ったテトラは、司に近付いてから小声で彼にそんな事を言った。
「う、うん……」
「聞こえてるぞテトラ。こんなで悪かったな」
「ひぃっ……す、すみません!」
「まぁ良い。司にテトラ……これから話す事をよく聞け。此度のリバーシ加入試験が安全に終われるかどうかはお前ら2人の動きにかかっていると言っても過言じゃないからな」
初っ端から特大プレッシャーを与えてくるレギュラオンは、それを皮切りに2人に対して以降の動き――具体的にはゲーテの要求にどう動くべきかを伝えた。
「まず大前提としてゲーテの監視は取り止めとするが、それはあくまでシュレフォルン、氷雨、シアに限定した話だ。奴の動向に注意し、意識を向ける点は引き続き継続していく必要がある。そして3人の代わりにその役目を担う適任者が司とテトラ……お前ら2人という訳だ」
「「……!」」
既にレギュラオンから話を聞いているシュレフォルンたち3人は、2回目となるが故に特に驚いた反応を示さない。だが司とテトラは衝撃的なその指示を聞いて2人同時に息を呑んだ。
テトラだけがその役目を引き受けるとなればここまでの驚きは無かったのかも知れないが、司までもが組み込まれている事実には動揺せざるを得ない。
「ちょ、ちょっと待って! どうして司くんを……」
「それをこれから説明するんだ。少しは落ち着いて話を聞く事を覚えろ」
「うぅ……」
ド正論を言われたテトラは気まずそうに引っ込む。彼女が静かになったのを確認したレギュラオンは話を続けた。
「今回のミッションの要となる人物……それがお前だ。天賀谷司」
「え……ぼ、僕? で、ですか?」
急展開に思わず敬語を付け忘れた司は、慌てて取って付けたように丁寧語を付け足して返す。
「ああ。先ほど3人の役目を代行するのはお前とテトラの2人と言ったが、メインは司であり、お前をサポートするのがテトラという事だな。司……お前はゲーテを警戒する上で非常に都合の良い存在だ」
レギュラオンは当然のように言うが、冷静に考えてWPUの人間でも無ければ開花適応すらまだしていない司に対してこんな危険な役目を担わせるのはあまりにも不自然だ。
だがそれでもレギュラオンは司を直々に指名した。そこには当然理由がある。
「都合の良い存在……どういう意味ですか?」
心当たりが全く無かった司はゲーテの動向に注目する任務において、レギュラオンの駒になれるだけの価値が自分にあるとは到底思えなかった。
そんな彼に対してレギュラオンは、今彼女たちが最も欲する人物の条件を司が完璧に満たしている事を話した。
「ゲーテの視点に立って考えてみろ。奴はWPUの監視には敏感だが、条件さえ満たせば動向を警戒されてもスルーしてしまう人物像が存在する」
そう言ってレギュラオンはその条件を列挙した。
「リバーシ加入試験の正式な参加者である事。ゲーテと接触済みであり、かつ試験における奴の役割がその人物には把握されていると向こうが知っている事。事情を知っているはずのテトラと行動を共にしていても、疑われない事」
「……」
条件を聞いた司は無言でレギュラオンを見つめる。確かにこうして聞けば自分こそゲーテの隙を突ける人物なのだと彼は理解した。
「これらの条件を満たしている人物は天賀谷司……お前以外に存在しない。リバーシ加入試験の参加者であるお前であれば、内通者であるゲーテを警戒するのは至極当然の事だ。奴が試験の内通者であると司にバレてしまった……と向こうが把握しているのであれば尚更な。お前がゲーテの動向を注意深く観察したとしても何も違和感は無いだろう。更に初日からリバーシ加入試験を共に乗り越える仲間としてテトラと行動していたとなれば、彼女と以降も一緒に行動でき、我々と連携しやすくなる。加えてテトラに関しても、ゲーテを内通者として警戒する司の側で彼を見守っているだけという大義名分の元、奴の行動を近くで把握可能という訳だ」




