第100話
「なるほどな。まとめるとテトラがゲーテの部屋に連れ込まれ、彼女から抵抗の2文字を取り除いた奴は我々が行っている監視を止めるよう要求……その後テトラが急に奴の部屋から放り投げ出され、その後彼女は走り去って司が待っているレストランに向かったと。これで合ってるか?」
シュレフォルンから聞いた話を整理したレギュラオンは、1人で居る時でも変わらない鋭い目つきを虚空へと向ける。
「ああ。さすがにゲーテの部屋に連れ込まれた後は気が気じゃなかったぜ。……最悪の事態にならなくて本当に良かった」
シュレフォルンは心から安心しきった声を出す。
女の子が口を塞がれて男性の部屋に無理やり連れ込まれたのだ。彼が言う最悪の事態の思考に至らない方が無理があるというものだろう。
「そうですね……。改めてこれの利便性には感謝といったところです。調節すれば周囲の音も拾えるのですから。この機能を状況に応じてオンにした上で連携を取り合うようにしたのは正解だったようですね」
氷雨の言っているこれとは、レギュラオンたちが今この瞬間も連絡を取り合う為の手段として利用しているワイヤレスイヤホン型の機器の事だ。
「相手の声だけを乗せる事もできれば、今回みたいに周囲の音や人の声を拾う事もできるしね」
どうやら会話内容から察するに、この機器のおかげでシュレフォルンたちは音だけの情報とはなってしまうが、テトラの身に何があったのか、そしてゲーテの発言内容に至るまで大体把握する事ができているみたいだ。
ゲーテにバレないようにテトラはこの機器を耳に装着する事なく、隠し持つようにして身に着けていた。そのおかげで彼に気付かれる事なく状況をシュレフォルンたちに送り届ける事ができたという訳だ。
「取り敢えずゲーテによってテトラが奴の部屋に押し込まれた時、よく理性を保って即部屋に突入しなかったな。その点は素直に褒めておこう。もしもお前らがテトラを助けに突入していたら全てが終わっていたかも知れないからな」
レギュラオンが人を褒める事は滅多に無い。それだけ彼らの判断は生か死かに関わるレベルのものだったのだろう。
「ゲーテが本気でテトラさんに手を出そうとしていた場合は理性を保つなどできそうにありませんがね」
氷雨の声からは冗談でも何でもなく、私は本気だという気概が感じられた。
「そうなった時は私が出撃する。お前らが試験会場や参加者の命運を左右するような行動を取る必要は無い。お前らは今私の駒なんだ。今回の件含め、いざという時は私に全てを委ねろ」
「……どこか釈然としませんが、取り敢えず分かりましたとだけ言っておきます」
駒扱いされる点は納得いかないが緊急時にはレギュラオンが出向いてくれる安心感は半端ではない。つくづくレギュラオンという女性は、実力と過去の実績で全てを黙らせる強さがあるのだと思わせてくる。
「それにしてもさぁ! ゲーテとかいう人、本当にキモいよね! 正直あいつの部屋のドア突き破ってそのままボコしてやろうかって何回思ったか分かんないよ」
「その点に関しては私も同意だ。そんな下劣な男がエンペル・ギアに潜んでいたなど反吐が出る。とは言え、今はその事について話していても仕方あるまい。ゲーテがテトラにしてきた要求は1つ……お前らの監視を外す事だったな」
時間は有限だ。ゲーテの人間性やテトラにした仕打ちについてあれやこれや言い合っている余裕など無い。今話し合うべき事はゲーテの要求に対してどう動くべきかだ。
「どうするよ、レギュラオンさん。レイクネスが背後に居る以上、ここでゲーテの野郎にそれはできないって言っちまったら終わりだぞ」
「ですが言う通りにすれば最後まで会場内の人には一切手を出さない……というのも信じられません」
「一旦監視は外すけど、何か別の策を用意しておいた方が良いって事かな?」
3人が好き勝手に意見を言う中、レギュラオンは1人考え込み、ついに決断を下した。
「そうだな。まず今ここでゲーテの要求を断るという選択は論外だ。それは受け入れ、そして実際に行動に移して証明する必要がある。だが氷雨の言う通り奴らが最後の最後まで何も手を出してこないというのも簡単には信じられん。そこでだ――」
そしてレギュラオンはこれから取るべき行動を3人に伝えた。




