第99話
「そう? それなら良かった……」
「みっともない姿見せちゃったよね。えっと、びっくり……しちゃったでしょ?」
とにかく温もりと安心感を得たかったテトラだったが、今は落ち着きを取り戻して来たのか申し訳無い気持ちと自分が情けない気持ちが混在しているようだ。
「まぁびっくりはしたけど……。でもテトラだってWPUである前に1人の女の子なんだし、みっともないとか思わなくて良いから」
「うん! えへへ……そんな事言われたら甘えたくなっちゃうけど、ダメだよね! 私の方がお姉ちゃんなんだから、これを最後にしないと!」
指で涙を拭いながらそう言ったテトラは己に活を入れる。
歳上として、そして何よりWPUの1人として、これ以上司の前で弱い姿や取り乱した様子を見せてはいけないと彼女は強く誓った。
「それにしても、私を受け入れてくれた司くん……何て言うか、その……凄く温かったよ! えっと……温度的な意味でも優しさ的な意味でも!」
頬を朱色に染めながらも笑顔を司に向けたままテトラは、彼にそう告げる。
「え!? あ、そ、そう……」
ストレートにそんな言葉を投げられた司は、恥ずかしさからどう反応して良いか分からず気の利いた返答ができなかった。
何か良い返しをしたいと思った司はどんな言葉を送るべきかと頭を悩ませるが、なかなか出て来ない。そんな中テトラは司の両肩に手を置き、彼の目を真っ直ぐ見据える。
「とにかくさ! これからはなるべく情けない姿は見せないようにするから! あ……で、でもね? もしもの時は、えっと……さっきみたいに甘えても良い……かな……?」
「っ……!」
「わ、分かってるよ? そんな弱気な事言ってるようじゃ先が思いやられるって。でもでも! ……ん? 司くん、どうかした? えっと、顔赤いよ?」
「……! そそ、そんな事無いでしょ! 気のせいだよ気のせい! (どうしたんだろう、僕……。正直テトラにドキドキさせられる事ってこれが初めてじゃないのに……何か今までとは違うような……) 」
必死に心臓の鼓動の高鳴りと格闘する司であったが、変な所で鈍い彼はこの感情の正体に気付く事はなく、テトラから目を逸らす事で精一杯になるのであった。
その頃、レギュラオンは自宅でシュレフォルンたちから報告を受けていた。
アルカナ・ヘヴンは早朝と呼べる時間になっており、本来であればこんな時間に連絡や報告など非常識であろう。だが時間帯を気にせず連絡しろと言っていたレギュラオンは嫌な顔をせず彼らからの報告に耳を傾けていた。
さすがのレギュラオンも人間である為睡眠無しで乗り切るなど不可能な話であり、睡眠中だけは彼らの連携から一旦外れていたのだろう。そして今、こうして起床したレギュラオンは自分が寝ている間に何があったのか、その報告を受けているといったところだ。
「――て感じで、報告は以上だ」
シュレフォルンたちはセレーナに居たままレギュラオンに報告をし、そして今終わったようだ。
彼らからの報告をレギュラオンは、アルカナ・ヘヴンで流通している情報・通信端末機器であるノアではなく、WPU内で使用している機器を耳に装着して聞いていた。
その見た目はワイヤレスイヤホンのようなものであった。数年後に転生協会に侵入したエマが連絡を取る時に使用していたものと全く同じな代物に見える。
イメージ的にはインカムが最も近しい存在だろう。
どうやらこの機器を用いると同じ世界内に居る人とは当然として、異世界に居る人とも連絡が取りあえるようだ。世界地図保有者にとっては珍しくも無いアイテムなのかも知れない。
こうして見ると彼らは直接会わずとも連絡は取れるようだ。シアの件の時は確実に取り合う為に直に会いに向かったシュレフォルンだったが、基本的に世界地図保有者が異世界に居る人間と連絡をする時はこのようにして済ませるのだろう。




