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第9話

「……」


「ふふ……落ち着いたかにゃ~? 司くん」


 良きタイミングでシアは司から猫耳を離し、そのまま下から見上げる形で司の顔を凝視する。


「えっと……?」


「うん! 効果あり! これで進行しやすくなったでしょ? シュレくん!」


「まぁ強引ではあるが助かった。一応説明しておくと、シアの耳はな、來冥者の來冥力と共鳴して、対象の負の感情を消し去る事ができるんだ。まぁこいつのその能力は開花適応とは無関係の力だがな」


「開花適応……?」


 シュレフォルンが何を言っているのか分からず、司はオウム返しをする。來冥力には単純な戦闘火力以外にも様々な使い道がある事は知っていたが、そんな用途も存在していたとは初耳だった。


 おまけに謎の新ワードの登場でハテナマークだらけだ。そんな司の反応を見て彼がピンと来ていない事を察したのか、氷雨が口を開く。


「司くん。來冥力の強さと言うのは生まれつきのものがありますけど、例えば界庭羅船や私たちWPUの來冥者は、そんな生まれ持っての才能だけでは説明ができない程の強烈な來冥力を宿しています。では私たちはどうやって『それ』を手にしたか分かりますか?」


「え……いや、分からないよ。そんな事考えた事も無かったから」


 こういう時は何かしら答えを返した方が良かったかも知れないが、司にはその予想すら厳しいレベルで知識も情報も持ち合わせていなかったのだ。少し味気無い返しになったと自覚しつつも、司はそう口にした。


 だが氷雨は彼のその返しには特に不満を見せる事無く、寧ろ当然そうだろうという顔つきになる。


「ええ。そうでしょう。それが普通です。では正解を教えましょう。そのキーワードこそ先程彼が口にした『開花適応』です」


「……」


 この頃の司はまだ開花適応という言葉を知らない。


 もしリバーシとして活躍していくのであれば、來冥力に関する知識はあって損は無いはずだ。司はこれも勉強だと思って氷雨の言葉に耳を傾ける。


「分かりやすく言えば來冥力のレベルアップとでも思っていただけると。これは『比較的強い來冥力を元から有している來冥者』であれば、全員に共通して引き起こせる現象です。名前の由来は『才能を開花させて環境に適応する』……という所からきています」


「な、なるほど……? うーん、あ、でも……才能開花って言うのは、何となくイメージつくんだけど、『環境に適応』って言うのは?」


「あなたが普段居る世界『アルカナ・ヘヴン』や、今現在あなたが居るこの世界……他にも、無数の世界はこの世に存在していますけど、全世界において來冥漂渦と呼ばれる不可視な物質が存在しているのですよ。この物質はですね……」


 人に授業をするのが好きなのか、氷雨はテンションが上がり若干早口にもなる。心なしか眼鏡がキラッと光ったような気もした。


「ふわ~ぁ。ねぇひぃちゃん! そのつまんない話まだ続けるの~? 私座学嫌いなんだけど~」


「眠いなら寝て頂いて結構です」


「そうする~」


 そう言ってシアは正座状態の氷雨の太ももの上に頭を乗せてから、体を丸めた。


「あの。何当たり前のように人の膝の上に頭乗せているんですか?」


「ん~! ひぃちゃんの膝枕最高~!」


「はぁ……本っ当にこの子は…… (こんな私なんかのどこが好きなんだか……) えっと、どこまで話しましたっけ? ああ、來冥漂渦についてですね」


 シアの相手をまともにするのが馬鹿らしくなったのか、氷雨は諦めたように続きを話した。

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