第八話 蛇の正体
将吾が剣を構え直す。同時にバラバラに切り裂かれた小型の百足の肉片が地面に落ちた。肉片は紫の煙を上げて消えていった。その隙に斎藤が男の子を起こし、後方へ退がらせる。
「お、お前、その剣は?」
驚きながら菅野が将吾に聞いた。
「‥すいません。死んだお袋との約束で言ってませんでした。俺、小さい頃から不思議な力が使えるんです。お袋から『人前で絶対に使うな』と言われていて‥。だから、言ってなかったんです‥」
将吾が菅野に申し訳なさそうに答える。すると百足が雄叫びを上げ、その隣に大山が立った。
「小僧、建御雷神が守神だな?‥面白い。このサンプルを見られたからには全員、生きては帰せないのでな。全力で参るぞ!出でよ、鴉天狗!」
大山が叫ぶ。すると大山の後方にあるトンネルから何かが飛んできたのだ。鳥の翼が背中に生えていて人間の姿をしている。首に数珠のような首飾りを着けていて、山伏や修験者のような格好だ。
これが鴉天狗なのか?そしてバサバサと羽ばたきながら、両手で長い錫杖を振り回す。
「‥どうやら神主はお主だけのようじゃな?‥これ以上、目撃者が増えると消すのに一苦労じゃ。すまんが、手早く済ませるぞ」
大山がいい終わらない内に、鴉天狗が錫杖で将吾に襲いかかった。連続した素早い突き。将吾が剣で受け流していく。早い!堪らず後方へ下がる将吾に、鴉天狗が追撃してくる。上段から下段への流れるような横斬りに、突きと縦斬りを織り交ぜてくる。将吾は必死に避けたり剣で防御したりするが、手数で圧倒されている。鴉天狗は錫杖による棒術も凄いが、体術にも長けている。鮮やかな身のこなしで将吾に攻撃を仕掛けていった。将吾も負けじと応戦する。
「布都御魂!卯の刻!」
剣を素早く上から振り下ろすと、続けて下から斬り上げる。上下の連続斬りを前に出ながら何回も繰り出した。鴉天狗は素早く避ける。両者、互角の戦いだ。すると
「くそ!来るんじゃねぇ!」
と、菅野の叫び声がした。将吾が声のした方を見ると、子供達やタクシーの運転手を、あの小型の百足が数匹で取り囲んでいたのだ。百足の前には菅野と斎藤が立ちはだかり、木の枝などで応戦しているが時間の問題だろう。
「くっ‥‥!」
将吾が助けに向かおうとするが、鴉天狗がさせない。素早い連続攻撃で、将吾はまた防戦一方になってしまった。すると、大きな百足がゆっくりと菅野達に向かっていくのが見えた。
「‥くそっ!みんな逃げろ!逃げろぉぉ!」
将吾が剣を振り回しながら叫んだ。
「‥ようやくじゃな。とっとと済ませい」
大山が言うと大きな百足が菅野達に襲いかかった。
「あれ?クッキーじゃん?」
天音が八千代駅の駅前を歩いているクッキーを見つけて声をかけた。八千代駅は複数の沿線が止まる、かなり大きな駅だ。駅ビルも併設されていて、大きなデパートなどが入っている。駅前のロータリーも大きくて、すぐ目の前に繁華街が広がり無数の飲食店などが立ち並ぶ。夕方に差し掛かり、人も沢山歩いていた。
「‥今、仕事帰りか?」
クッキーが天音に聞くと
「そう。今から陰陽神社に行くとこ」
天音が答える。
「どうだった?大丈夫だったの?」
天音が聞くとクッキーが頷く。
「‥あぁ、今の所はな。だが、『用心しとけ』と言っといた」
クッキーは自分が風俗店から連れ出した女性達の様子を見に、地方へ行っていたのだ。どうやら今の所は安全だったようだ。だが、クッキーと対立していた五島達が躍起になって探している。油断は出来ないのだ。
「なんか差し入れを買っていこうと思ってさ‥。みんなで飲み食い出来るヤツ。何がいい?」
天音が駅ビル内のスーパーに向かいながら聞く。
「‥そうだな‥‥」
クッキーが言いながら駅ビルの入り口から中に入ろうとした時だった。天音が突然、立ち止まる。クッキーが天音を見ると前方を見つめている。クッキーが天音の見ている方を見ると、そこには黒いスーツ姿の赤口と夏海が立っていたのだ。二人もこちらに気づき、立ち止まっている。クッキーは再度、天音を見る。
「‥どうした?」
と、天音に聞くと天音が
「‥‥あの人‥‥‥火事の現場で見た‥‥黒いスーツの‥‥」
と言った。クッキーが慌てて振り向く。だが、いつの間にかクッキーのすぐ目の前に赤口と夏海が立っていたのだ。クッキーが天音の方を見ている瞬間に、素早く間合いを詰めていたのだ。
「‥まさかこんな所でやり合うつもりじゃないでしょうね?時量師神よ‥‥」
赤口が不敵な笑みを浮かべる。
「ウチらとここでやり合ったら、どれだけの犠牲が出るか‥‥試してみる?」
夏海も余裕の笑みを浮かべながら言う。
「‥‥テメェら‥‥ナニモンだ?‥‥何でオレ達の事を知ってる?‥‥‥一体、何が目的だ?」
クッキーが赤口と顔がくっつきそうな距離まで近づき、メンチを切る。天音も武心流空手の構えをとった。まさに一触即発。一瞬、緊張が走る。
「答える必要はありません‥時量師神。時がくれば必然と知る事になりますから‥。行きましょう、夏海さん‥‥」
赤口が言うと二人はクッキー達とすれ違い、駅ビルの外へ出ていく。
「待てコラァ!」
クッキーが振り向きながら叫ぶ。すると夏海が
「‥早まんなくても、いずれやり合う事になるよ‥‥」
と言い振り向く。そして不気味な笑みを浮かべ
「その時は躊躇なく殺してやるよ」
と低い声で言った。クッキーと天音が追いかけようとした瞬間、クッキーの足元から炎が上がった。腰の高さほどの炎が、何もない床から立ち上ったのだ。
「キャーーーーッ!」
周りにいた人達が悲鳴を上げ、場が騒然となる。だが、すぐに火は消えた。クッキーがハッとして赤口と夏美の行方を目で追うが、二人の姿はもう見えなかった。
大きな百足が菅野達に襲いかかったの見て、将吾は後悔していた。鴉天狗の相手をせずに、みんなを連れてすぐに逃げればよかった。そうすれば、みんなは助かったかもしれないのに‥‥。将吾が絶望に暮れた瞬間、大きな百足が叫び声を上げた。見ると黒い蛇が何匹も百足に巻き付いている。百足が苦しそうな叫び声を上げているのだ。
「早く!みんな逃げて!」
タツが叫ぶ。淤加美が小型の百足を見えない力で弾き飛ばした。そして斎藤と菅野が子供達を連れて移動していくのが見えた。よかった!助かった!将吾が弾き飛ばされた小型の百足を斬り倒していく。
「あ、あんた達は?」
将吾が一通り百足を斬り倒すと淤加美達に聞く。
「説明は後!まずはコイツらをなんとかしないと!」
淤加美が身構えながら叫ぶ。淤加美達は買い物に行く為に陰陽神社から歩いてきた。丘を下ってきてトンネルに差し掛かると、淤加美が何かの異変に気づいたのだ。そして走ってトンネルを抜けると、大きな百足が菅野達に襲いかかっている瞬間だったのだ。
「‥なんと、淤加美神か?それに神主の増援か?」
大山が呟くと
「‥鴉天狗を従えている?‥‥大山津見神か‥‥?」
淤加美が大山と鴉天狗を見て言う。大きな百足は黒い蛇に巻きつかれ、のたうち回っている。そして長い体を生かして黒い蛇に何度も噛みついていく。堪らず黒い蛇の巻きつきが弱くなった。すかさず百足が全身を動かし、渾身の力で黒い蛇達を払いのける。
「うわぁぁ!」
タツと黒い蛇達は吹き飛ばされた。そして大きな百足が体制を整え咆哮を上げると、無数の小型の百足が地面から現れたのだ。優に三十匹はいる。そして一斉にタツに襲いかかったのだ。
「布都御魂!子の刻」
すかさず将吾が、素早い連続斬りで百足を斬り捨てていく。タツも負けじと黒い蛇で百足達を弾き飛ばす。だがその時、大きな百足が凄まじい勢いで、タツ目掛けて突進してきたのだ。
「しまった!」
タツが六匹の黒い蛇でガードするが、百足は構わず突進して喰らいつく。タツは百足の勢いを殺しきれずに、物凄いスピードで崖に向かって押されていった。このままではガードレールを突き破り、崖から下に落ちてしまう。
「うおぉぉぉぉ!」
ガードしながらタツが叫んだ瞬間、タツの背中からさらに二本の黒い蛇が現れた。合計八匹の大蛇が一斉に百足に噛み付く。百足が苦痛の雄叫びを上げて仰け反った。
「‥むぅ‥あれは‥?」
大山がその様子を見て唸る。
「‥八岐大蛇‥‥タツ君が手にした守神の正体‥‥」
淤加美が百足に噛み付く八匹の大蛇を見て呟いた。
八匹の大蛇は、体が一つだが八匹の蛇の頭を持つ八岐大蛇だったのだ。その八匹の蛇の頭が次々と連続で百足に噛みついていく。噛みつかれた所から、紫色の体液のような物が吹き出していた。百足が苦痛でのたうち回る。
「‥!‥いかん!貴重なサンプルを、これ以上失う訳には‥‥!」
大山が慌てて百足の助けに入ろうとする。が、その前に南雲双葉が立ちはだかった。
夕方に差し掛かった陰陽神社。とても静かで人気はない。サァっと静かに風が吹くと心地がいい。アキ君は神社の境内を箒で掃いていた。だが、ふと手を止めて遠くを見つめる。奈美ちゃんがそんなアキ君の隣に来た。
「‥どうかしましたか?」
奈美ちゃんが聞くと
「‥‥なんだか騒がしい気がして‥‥うまく言えませんが、至る所で騒がしい空気を感じる、というか‥」
とアキ君が遠くを見ながら言う。
「‥陰陽師の勘‥‥ですか?」
奈美ちゃんがニッコリ微笑む。
「‥いやぁ‥そんなものないですよ‥‥それに僕は陰陽師ではないですし」
アキ君が少し照れたように返すと、奈美ちゃんが
「‥アキ君は、いつ頃から守神の力を?」
と聞く。アキ君は少し考えた後
「‥‥十年ぐらい前からです。‥‥僕が妹を殺した日から‥‥です‥‥」
と答えた。
「ええい!邪魔をするな、小娘ぇ!」
大山が叫ぶと鴉天狗が南雲に襲いかかる。南雲は立ったまま右手を上げた。
「‥‥みんなを守って‥‥」
南雲が呟くと風が吹き始めた。
「‥ふん!子供騙しか?」
大山が叫ぶと、鴉天狗は構わず南雲に錫杖を振り下ろした。だが風は瞬く間に激しくなり、激しい突風となったのだ。空を飛ぶ鴉天狗は体勢を維持する事が出来ない。
「くっ!なんだ?この風は?」
大山が風を堪えながら呟く。まるで竜巻のようだ。いつの間にか南雲の隣には、女性の姿をした精霊のような者が立っていた。長い髪で頭に角のような髪飾りをつけている。丈の長いドレスのような服を着て、腕には甲冑の小手のような防具をつけている。
「‥雷神と対なす者‥‥風神か‥‥まさか一人で二体の守神を使うなんて‥‥」
淤加美が呟くと、風神が右手を前に出す。すると凄まじい突風が渦を巻いて大山と鴉天狗に襲いかかったのだ。
「ぐうぅぅぅぅ‥‥」
大山は防御しながら風で押されていく。全く身動きが取れない状態だ。それを見た将吾が剣を構える。
「布都御魂!」
将吾が叫びながら大山に斬り込んだ。
キイィィン!
高い金属音がして将吾は弾き飛ばされた。将吾が体勢を整え構え直すと、黒いスーツ姿の女性が立っていた。肩までの黒髪でスラリとした長身の女性だ。瞳が赤く、手には日本刀のような刀を持っている。
「‥大山さん、ここは退きましょう」
女性が大山に言う。
「‥瑞波か?すまんな‥。この大山積次郎、一世一代の不覚じゃ‥」
大山が唸ると、瑞波と呼ばれた女性がチラリと将吾を見る。
「布都御魂の剣‥。いずれ我が妖刀村雨と、どちらが上か決着をつけたい所だな‥」
と言い刀を構えた。
「‥五月雨‥」
瑞波が呟き、刀を横一文字に振るった。すると激しい豪雨のような大量の水が降りかかったのである。思わず全員が防御する。激しい豪雨が止むと、瑞波と大山の姿は無く大きな百足と鴉天狗も消えていた。
「‥この力‥‥まさか‥‥罔象女神‥?」
静けさを取り戻し夕日が眩しく差し込む中、淤加美が呟いたのだった。
「貴方達、千本町の現場にもいたよね?これは一体、どういう事か説明してもらえる?」
斎藤が警察手帳を見せ、淤加美達に詰め寄る。菅野は腕組みをして将吾の前に仁王立ちだ。将吾がチラリと淤加美達を見る。
「‥あちゃ‥‥こりゃマズいね‥。大量に放出された瘴気のおかげで、アタシの姿も丸見えみたいだし‥」
淤加美が苦笑いするが、タツと南雲は心配そうにオロオロしていた。さっきまで毅然と戦っていた二人には見えない。子供達はひーちゃん以外、全員泣いている。大人の女性とタクシーの運転手が子供達を宥めながら、それぞれ警察と消防に通報を始めた。
「悪いけど全員、署まで来てもらうよ」
と斎藤が言うと淤加美が
「ん〜‥それはこれからのお話し合いで‥」
とお茶を濁す。斎藤が怪訝な顔をすると、突然周りが騒がしくなった。どこからともなく大勢のスーツ姿の男女が現れ、淤加美達と斎藤達を取り囲んだのだ。タツが周りを見ると、いつの間にか周りにはあの黒い空間が広がっている。見覚えのある黒い空間。そう。大きな結界がいつの間にか、周りに張られていたのだ。百メートル四方はあろうか。つまりこの場の全員が誰にも見られない空間の中にいるのだ。するとスーツ姿の男達をかき分けて、一人の中年男性が前に出てきた。坊主頭にスーツ姿で屈強そうな体格をしている。
「黄泉国保安局だ。そちらの国との提携条約により、閻魔省の調査員を取り調べる事は出来ない。お引き取り願おう」
坊主頭の男性が斎藤に伝える。すかさず斎藤が
「黄泉国保安局だと?聞いた事もない。どこの組織だ?どこの国が関与している?それに一体、何の権限でそんな事を言っているんだ?」
と言い返す。
「‥黄泉国保安局‥‥。黄泉国の警察みたいなもん。今、話してるのが局長の神直毘神。アタシと同じく神人。こっちでは神谷直人と名乗っているわ」
淤加美がタツ達に小声で説明してくれる。
「詳しい事は後日、貴方の上司から直接説明があるはずだ。とりあえず、今日の所はお引き取りを。それと先ほどの警察と消防への通報は履歴もろとも消させてもらったので悪しからず‥」
神谷が斎藤に伝えると、今度は淤加美の方を向いて
「淤加美神‥。やっかいな事になってきたな‥。事態は一層深刻になりつつある。こちらでまとめた情報を、お前の部下に資料として渡してある。後で見ておけ」
と言った。淤加美は両手を腰に当てて
「‥単刀直入に聞くけど‥‥何が起こってるの?‥‥誰の仕業?‥‥大体の目星はついてるんでしょ?」
と叫んだ。神谷は淤加美を見つめ少しの間の後
「‥‥火之迦具土や大山津見神など他数名が黄泉国より消えた。こちらで神主となっている可能性が高い。そして神人の魔月妃が同時期に姿を消した。天照は魔月妃つまり禍津日神が何か企んでいると踏んでおられるようだ‥‥ただ、目的まではまだ掴めていない‥」
と言った。そして右手を挙げ誰かに合図する。
「‥魔月妃が?‥‥まさか?‥‥」
神谷の言葉にブツブツと呟く淤加美。すると神谷の背後から、一匹の大型犬を連れた女性が現れた。犬種はセントバーナードのようだ。淤加美がそれを見て
「‥‥雲寄か‥」
と呟いた。
「‥雲寄って?」
南雲が小声で淤加美に聞く。
「‥忘却の神‥‥人の記憶の一部を食べる神だ‥」
淤加美が答えると、大型犬を連れた女性が子供達に近づく。すると大型犬が空中の臭いを嗅ぎ始めた。女性が大型犬に何やら耳打ちすると、大型犬が空中で何かを食べる仕草をする。すると子供達が次々と倒れていき、大人の女性とタクシー運転手も倒れた。
「‥!‥何をした?」
斎藤が叫ぶ。
「‥記憶の抹消だ。下手にSNSにでも書き込まれたら、非常に厄介なのでな。心配しなくても、この一時間くらいの記憶がなくなるだけだ。全員、手分けして家に送り届けておくから安心しろ」
神谷が話している間にも、黒い迷彩服に身を包み覆面を被った者達が子供達を運び始めた。その先には黒い大型のバンが用意されていて、次々と乗せられていく。
「‥彼らは後処理班。霊体である彼らは特殊な服を着る事で、実体のある者に触れる事が出来るようになるの‥」
淤加美がタツ達に説明する。なるほど‥。あの黒い迷彩服を着る事で、実体のある者に触れる事が出来るようになるようだ。そして実際の車を運転して、子供達を運んで送り届ける訳か‥。言い方を変えれば、幽霊が服を着て車を運転して人間を運ぶ訳だ‥。よく考えるとなんか怖い‥。
「貴方の職業には両国の条約上、記憶の抹消をする事が出来ない。上からの説明を待て。後は‥‥」
神谷が斎藤に言いながら最後に菅野を見る。慌てて菅野が
「‥!‥ちょ、ちょっと待ってくれ!記憶を消されたんじゃあ、商売上がったりだ!言う事聞くから、それだけは勘弁してくれ!」
と叫んだ。巨大な百足との大立ち回りは、フリーのジャーナリストにとってとんでもない大ネタだ。記憶を消されれば、チャンスを逃す事になると思ったのだろう。
「‥例外はない。やれ」
神谷が言うと、雲寄を連れた女性が菅野に近づく。後退りする菅野だったが、菅野と雲寄の間に将吾が割って入った。
「‥俺のお袋は黄泉国のゲートを守る守人だった。そんなお袋から黄泉国の事を聞かされて育った。そんなお袋が亡くなってから、面倒を見てくれたのが菅野さんだ。俺が責任持って菅野さんを監視します。情報を書いたり売ったりさせません。それじゃあダメですか?」
将吾が神谷に聞く。
「‥貴様‥‥確か建御雷神の神主だったな‥」
神谷が呟く。すると子供達を運んでいた迷彩服姿の職員が神谷の背後から近づき
「‥この子、記憶を無くしていません‥」
と神谷に伝える。職員が手を繋いで連れてきた子はひーちゃんだった。ひーちゃんが真顔で神谷を見つめる。
「‥雲寄が効かないだと?‥‥そんなケース、聞いたことがないぞ‥」
神谷が驚く。そしてひーちゃんが背負っているランドセルに書かれている名札を見る。
「‥蛯原妃瑠子‥八千代市立第二小学校の四年生か‥‥」
神谷が呟くと、タツが
「‥あ、あれ?‥‥ひょっとしてあの時の‥‥?」
とひーちゃんを指差す。すると淤加美が
「‥‥あぁっ!あの火事の時の子?」
と叫んだ。ひーちゃんがタツを見てニッコリ微笑んだ。あの火事の時、頭を打って脳震盪を起こしていたあの女の子だ。すると淤加美が右手を挙げ
「‥わかった!‥‥じゃあさ、その子とこのオジサン達の事はアタシが責任持って監視するから。だからそれでここは何とか‥」
と神谷に言う。神谷はジッと淤加美を見つめ
「‥そうか。ではこの二人と建御雷神は以後、閻魔省の管轄と言う事でいいな?今後、何があってもウチは一切責任を持たん」
と言い放ち
「撤収するぞ!」
と叫ぶと、瞬く間に全員何処かへ消えていったのだった。
<用語辞典>
(神主)
人間などが生まれつきや『黄泉くじ』など、何かしらの方法で守神の力を得た人の事
クッキー、タツ、天音、将吾など
(神人)
黄泉国に住む神様。神様としての名前と、人としての名前を持つ。守神になる事はない。
淤加美、神谷、魔月妃、雲寄など
(守神)
黄泉国にて眠りについている神様。『黄泉くじ』などで呼び起こされると、守神として目覚め力を貸してくれる
時量師神、天之手力男、八岐大蛇など
<人物図鑑>
名前:南雲双葉
別名:南雲さん 双葉 双葉ちゃん
年齢:二十五歳
守神:雷神 火雷大神
風神 志那都比古神
能力:風神と雷神が身を守ってくれる
備考:会社員だったが今は求職中