第六話 無差別攻撃
巨大な黒い蟷螂の前を歩いていた男女の体が、突如バラバラに切り裂かれた。血飛沫と内臓と肉片が周囲に飛び散る。一呼吸あって『人間がバラバラになった』という事態を認識した人々が悲鳴を上げた。だが、悲鳴を上げた女性の一人がまたもバラバラに切り裂かれた。南雲の足元にその女性の手首が転がってくる。南雲が悲鳴を上げて下がった。
「みんな逃げて!こっちに逃げてください!早く!」
タツが慌てて叫ぶ。みんな巨大な蟷螂が見えていない。それぞれ血塗れで訳もわからず発狂して逃げ惑っているのだ。一面、血の海で肉片や内臓が転がっている。慌てているので血で滑ったりしている。
「こっち!こっちに逃げて!」
天音も大声で人々を誘導する。そしてまた一人の若い男性がバラバラにされた。スマホを見ながらイヤホンをしていたので、周りの状況がわからなかったのだ。
「‥くっ!」
タツが蟷螂の前に立つと、両手から黒い蛇を出そうとする。逃げ遅れた人を引っ張る為だ。
「だめ!タツ君!そこら中に防犯カメラやスマホ持ってる奴らがいる!黒い蛇で誰かを引き寄せたりしたら、蛇は見えなくても超能力者扱いされてネットで晒しモンになっちゃうよ!」
淤加美がタツを嗜める。見ると少し離れた所で、スマホで動画撮影してる人達が何人もいる。
「‥!‥何やってんだよ?人が何人も死んでるんだぞ?それどころじゃないだろ?」
タツがそれを見て愕然とする。だが、そんなやりとりをしてる内に、また何人かが犠牲になった。
「そんな事言ったって、どうすりゃいいのよ!このままじゃ‥‥」
天音が叫んだ瞬間
「危ない!避けて!」
奈美ちゃんが叫ぶ。淤加美がすかさず見えない力で、タツと南雲を同じ方向に吹き飛ばした。その瞬間、タツ達が立っていた場所の地面が粉々になって弾け飛ぶ。巨大な蟷螂の前足の攻撃だ。鋭い鎌がある前足で人間を切り刻んでいるのだ。その破壊力はコンクリートの地面も粉々に破壊するほどだ。天音と奈美ちゃんは、タツ達と逆方向になんとか避けたようだ。
「天音ちゃん、みんなを引き続き避難させて!奈美ちゃんは天音ちゃんから離れないで!」
淤加美が天音と奈美ちゃんに叫ぶ。そして
「タツ君、今から微弱な結界を張るから!微弱だから姿が見えなくなるだけで、後は現実世界と変わらないの!そしたら黒い蛇を使って、蟷螂の近くの人達を安全な場所まで引っ張って!」
とタツに言うと地面に左手を当てる。
「‥そ、そうか!結界の中なら‥」
タツが身構えると、淤加美はブツブツと何かを唱え始める。そして唱えきった淤加美が両手を地面に当てた。
「結界空間、急速展開!」
ドドン!
突然、和太鼓のような音が響く。黒い空間が広がっていき、タツと巨大な蟷螂の周辺が結界に包まれた。これでタツは他の人から見えなくなり、撮影もされないはずだ。
「‥でも突然、目の前の僕が消えたら、それこそネットで大騒ぎになるんじゃないのかな?動画撮影している人が何人かいた訳だし‥‥」
とタツが淤加美に聞く。すると
「‥結界が展開する瞬間、強烈な磁場が発生するの。数秒間、周辺の撮影機器に障害が出ていて、録画が出来てないはず」
と淤加美が返す。なるほど。それならば問題ないはずだ‥。周りもだいぶ混乱しているし、タツが消えた事など気にしてない可能性もある。タツはすぐに黒い蛇を両手から出し、巨大な蟷螂の近くの人を引き寄せた。その人は凄まじい勢いで引っ張られた事に驚いているが、タツの姿は見えていないようだ。この調子で避難させよう‥。手応えを感じたタツが黒い蛇を再度出そうとすると、淤加美が
「アタシはこの場から動けないからね。この結界の効果範囲は精々数メートルだから、あまり離れるないで!それと、双葉ちゃん!これを!」
と言い、南雲に例の『黄泉くじ』を投げて渡した。南雲は慌ててキャッチすると、怪訝な顔で淤加美とタツを見る。結界の中には南雲双葉も入っていたのだ。だが、少し離れたとこにいる天音と奈美ちゃんは入っていなかった。
「‥それ、『黄泉くじ』って言うんだ!南雲さんも引いてみて!僕のような力が手に入るから!」
タツが南雲に叫ぶ。そう。南雲双葉には巨大な蟷螂が見えていたのである。そしてタツの手から伸びる黒い蛇も‥。南雲はタツを見て一瞬間を置く。だが、瞬時に状況を理解したようだ。意を決して黄泉くじを引いた。
「‥二番‥‥です‥」
南雲が恐る恐る言う。これから何が起こるかわからないからだろう。だが次の瞬間
「タツ君!どこ見てんの!危ないっ!」
タツは淤加美の言葉に驚いて蟷螂の方を見る。蟷螂は前足を振り上げ、タツに向かって突進して来たのだ。タツは南雲の方を見ていて気づかなかったのだ。しまった!蟷螂はタツのもう目の前まで迫っていた。タツが慌てて左手を伸ばすが、とてもじゃないが間に合わない!思わず淤加美が目を背けた瞬間
ズドオォォォン!
耳をつんざく轟音と眩しい光が蟷螂に直撃した。タツは両手両足から黒い蛇を出してガードするが、衝撃で後方へ吹き飛んだ。だがその直後、タツの両肩からも黒い蛇が出てきて地面に噛みついたのだ。タツは空中でバランスを整えると、南雲の隣へ着地した。タツが南雲を見る。南雲の前には何者かが立ち、蟷螂と対峙していたのである。角のような物が何本も生えていて、目が赤く光って牙を剥き出している。まるで鬼のような様相だ。
「‥天音ちゃんに続いて双葉ちゃんも大当たり。そいつ、『雷神』だよ‥」
淤加美がニヤリと笑う。
「‥雷‥神?」
当の南雲が一番驚いているようだ。まぁ、無理もない。みんな最初はそうだ。と、言うことはさっきの轟音と光は、どうやら落雷のようだ。あの巨大な蟷螂に雷が落ちたのだ。雷神の体の周りには、バチバチと無数の電気が走っている。すると蟷螂がゆっくりと体を起こす。まだ動けるようだ。それを見た雷神が、左手を挙げ掌を天に向ける。すると雷神の体の周りの電気がどんどん大きくなっていき、バチバチと音を立てて電気が天に登っていく。タツの黒い蛇は、タツが自由に操ったり時には自動で動いてくれる。天音の天之手力男は天音自身に力を与え、天音が怪力の持ち主になる。そして南雲の雷神は、どうやら雷神が自分の意思を持ち勝手に戦ってくれるようだ。蟷螂が身体中から焦げた黒い煙を上げながら、ヨロヨロと立ち上がる。その瞬間
ズドオォォォン!
もう一度、天から雷が蟷螂を直撃した。地面のコンクリートも砕け散り、凄まじい衝撃だ。そして巨大な蟷螂は、まるで蒸発するように煙になり消えていったのであった。
「‥雷神かよ?‥やるじゃん、あいつら」
夏海が咥えていた飴を出して言う。二人はさっきのビルの屋上から見ていたのである。
「‥新顔ですね‥‥雷神‥‥またの名を火雷大神。公園の時は天之手力男と得体の知れない蛇を使う者‥それと時量師神だったかと‥」
赤口がメガネをずり上げながら言う。
「‥で、結果は?」
夏海が聞くと
「あの短時間で八人を殺害してます。あの神主達の邪魔が入らなければ、あの場のほぼ全員を殺害出来たはず。‥まぁ、初テストにしてはまずまずって所じゃないでしょうかね‥」
赤口が満足そうに言うと、夏海が
「‥‥問題なのは、そこまで強力なテスト個体を、いとも簡単に倒してくれたアイツらって事よね‥」
と言う。
「‥確かに。何らかの対策を打たねばならないでしょうね‥」
赤口が眉を顰める。そして二人は屋上から去っていったのであった。
タツ達は八千代市に戻ってきていた。あの後、現場は騒然となった。普通の人からみれば、突然、人が何人もバラバラになって、その後、雷が二発も目の前に落ちたのである。救急車やパトカーのサイレンが鳴り響き、怒号が飛び交っていた。タツ達はあの後、すぐにあの場を離れたのだ。警察に説明しろと言われても説明のしようがないし、何より信じてはもらえないだろう‥。蟷螂がいた所には男性の遺体が倒れていたそうだ。たぶん、松田さんの遺体だろう。わずか数分の出来事だったが、とんでもなく長く感じた。一体、あの短時間で何人が亡くなったのだろう‥。天音は医療従事者として病院で働いているせいか、人の死はそこまで珍しい事ではなかった。だが流石に、目の前で人がバラバラになるのは精神的にドギツいようだ。タツと天音と南雲は、憔悴しきって電車に揺られて帰ってきた。誰も口を開かなかった。淤加美と奈美ちゃんは松田さんの魂がどうなったか、閻魔省に確認しに行った。とりあえず三人は、誰が言う訳でもなくフラフラと陰陽神社に向かっていた。南雲は今日も会社を休む事にしたのだ。会社の目の前であんな事件があったのだ。ショックで動けない、と電話で説明をする事にした。南雲に電話してもらい、スマホの音声をスピーカーにしてタツと天音も聞いていた。だがそれでも会社に来い、と上司に言われていたのだ。とにかく顔だけでも出せ、と。そして極めつけの一言。
「お前なんか社会のクズなんだから‥‥」
それを聞いたタツは何かが切れる音がした。南雲からスマホを取ると
「いい加減にしろ!社会のクズなんて人間はこの世にいない!それに、人が目の前で大勢死んでるんだぞ!仕事なんて出来るか!」
と叫んで電話を切った。その直後、タツは我に帰ったようだ。
「‥‥あ‥‥ご、ごめん‥‥切っちゃった‥‥」
あまりにも理不尽な態度に、思わずブチギレてしまったようだ。すると南雲が
「‥‥いえ‥‥ありがとうございます‥‥。思っていても、言えなかった事を代弁してくれて‥‥」
と軽く微笑んだ。それを見た天音が
「‥もう辞めちゃいな?あんな会社‥。仕事は一つじゃないし‥。仕事って自分を潤す為の物でしょ?自分の身を削っちゃダメだよ‥。人の命に関わる仕事なら別だけどさ‥」
と言いながら南雲さんの肩を叩く。そして
「アンタはついさっき、何人もの人間の命を救ったんだよ?アンタがあの蟷螂を倒さなかったら、被害はもっと拡大してた。それだけで今日の仕事は充分だよ。そう思わない?アタシには双葉ちゃんが、社会のクズどころか世界の英雄に見えるよ」
と続けた。そう。まさにその通りだ。その後、三人は無言のまま陰陽神社に着いた。するとアキ君が庭を箒で履いている所だった。アキ君は、まだ千本町の事件の事を知らないだろう。
「‥‥あれぇ‥早かったですねぇ‥」
アキ君は三人に気づくと和かに笑う。思わず天音が溜息をつく。ようやく三人は心が落ち着いたような気がしたのだった‥。
千本町はいまだサイレンが鳴り響き騒然としていた。上空にはヘリもひっきりなしに飛んでいる。
「マスコミ、下がらせろ!」
「ダメダメダメダメ!下がって!」
警官達が叫んで野次馬を下がらせている。ブルーシートで至る所を隠して見えないようにしている。それだけ凄惨な現場なのだ。そんな千本町の事件現場近くに一台のタクシーが止まった。
「‥お客さん、これ以上は近づけないみたいですよ」
タクシーの運転手が客に言う。客は長い髪の三十代ぐらいのスタイルのいい女性だった。パンツスタイルのスーツ姿でネクタイはしていない。首のワイシャツのボタンをはずして少し胸元を見せているせいか、大人の色気が漂う女性だ。
「‥じゃあ、ここでいいです」
女性はそう言うとお金を払ってタクシーを降りた。女性は大勢の野次馬をかき分け、事件現場へと進んでいく。黄色い規制線のテープが貼られた所まで来ると、野次馬を下がらせている制服の警官に、懐から出した警察手帳を見せる。制服の警官が女性に敬礼すると、女性は規制線の黄色いテープを潜って中へと入った。
「あ、斎藤さん!こっちです!」
若いスーツ姿の男性が女性に気づき叫ぶ。斎藤と呼ばれた女性は、両足の靴にビニールを被せ白い手袋をつけながら男性のもとへと向かう。
「‥島田、お疲れ。で、何があったの?」
斎藤が若い刑事に聞く。
「突然、人がバラバラに切り裂かれたそうです。それも連続で八人も。その後、落雷が二度、あったそうです」
島田と呼ばれた若い刑事が、メモを見ながら斎藤に報告する。二十代後半くらいだろう。真面目そうな若者だ。斎藤は周りを見渡しながら眉を顰め
「‥これは酷いね‥‥身元の確認だけで一苦労だな。でもこれだけの目撃者がいて、犯人の目撃はないんでしょ?通り魔やテロじゃなさそうだし、自然災害の類じゃないの?」
と言う。島田は
「どうなんですかね?雷で人がバラバラになる、なんて聞いた事ないですし‥。とにかく周辺の防犯カメラの映像の確認っすね。動画の撮影をしてた人もいるみたいなんで、映像の提出をお願いしときます」
と言いその場から離れて行った。すると少し離れた所にも鑑識が集まっているのが見えた。斎藤はそちらの方に近づく。
「山さん、そっちは何?」
鑑識の一人が振り向く。五十代ぐらいの白髪の年配の男性だ。年季の入ったベテラン鑑識官、といった感じだ。ネームプレートに山南と書かれている。
「‥おう。こっちにもご遺体があるんだがな。こっちは原型を留めていて、死後数日経ってるようなんだよなぁ‥」
山さんと呼ばれた男性が答える。
「死後数日?それは変ね‥」
斎藤が山さんの隣に来る。地面のコンクリートが粉々に砕け、黒く焼け焦げたような所に男性の遺体が倒れていた。明らかに他の被害者とは違う。詳しい事は司法解剖後になりそうだ。
「‥‥厄介な事件になりそうだな」
斎藤が呟くと
「主任、千田谷南署に特捜が設置されました。一係と二係も来ます」
と別の若い刑事が伝えにきた。
「‥これだけの大きな事件となると、沖田班と永倉班も出てくるか‥」
斎藤があからさまに嫌な顔をする。そして
「‥はぁ‥ちょっと防犯カメラのチェックしてくる」
とため息まじりに山さんに言い、その場から立ち去った。
千田谷南警察署は普段の平日より多くの人で溢れていた。すぐ近くで、八人の人間が突然身体がバラバラになると言う凄惨な事件が起きたのだ。マスコミや警察関係者らしき人々が、沢山見受けられる。特別捜査本部がこの署に設置されたからだろう。その警察署の一階ロビーに一人の中年男性がいた。白髪頭のオールバックで立派な髭を生やしている。茶色のトレンチコートを羽織っていて、かなりダンディな風貌だ。
「菅野さん」
不意に呼ばれ男性が振り向く。そこにはサラサラの髪を分けた若い男性が立っていた。背が高くガッチリした体格で、端正な顔の二十代ぐらいのイケメンだ。茶色のジャケットに白いTシャツを着ている。
「おう。来たか、将吾」
菅野と呼ばれた中年男性が若い男性に言う。将吾と呼ばれた若い男性が
「‥で?何があったんです?」
「人が突然バラバラになったらしい。さっきまで動画も上がってたんだがな。あっと言う間に削除されたみたいだ。まぁ、そうなるだろうと思って録画しといたがな。観るか?」
菅野がスマホを片手に答える。将吾は頷くと、菅野からスマホを受け取り動画を見始めた。すると、警察署内を見ていた菅野が誰かに気づく。
「‥斎藤さんじゃねぇか?久しぶりだな」
菅野が警察署の二階から降りてきた斎藤に近づき声を掛けた。斎藤は菅野を見て
「スガさん?」
と言って近づいてきた。
「特捜が出来たって聞いたから、まさかと思ったらやっぱり三係も来てたんだな?」
菅野が近づいてきた斎藤に言う。
「まぁね。スガさんは?取材?」
斎藤が菅野を喫煙所へと促す。二人は喫煙所に入ると、早速タバコに火をつけた。
「‥で?何かわかったのかい?」
菅野が煙を吐き出しながら聞く。
「一通り防犯カメラを見たけど、何がなにやらさっぱりってとこかな‥」
斎藤が灰皿に灰を落としながら答える。
「‥あの子は?」
斎藤が喫煙所の外で動画を観ている将吾を見て聞く。
「武藤将吾って子でな。知り合いの息子なんだ。ちょっと訳ありでな、しばらく俺のアシスタントをやって貰おうと思ってな‥」
菅野が自慢げに言う。
「フリーのジャーナリストにアシスタントなんているの?都合のいいパシリが欲しいだけでしょ?」
斎藤が呆れ顔で菅野に言うと
「バレたか?さすが、捜査一課三係の斎藤班長だ」
菅野がニヤリと笑いながら言い返した。
「‥スガさん、今は班長じゃなくて主任って言うんですよ」
斎藤がドヤ顔で返すと、将吾が喫煙所に入ってきた。
「‥おぉ、将吾。こちら警視庁捜査一課三係の斎藤一美警部補‥‥じゃねぇ、昇進したんだったな?‥斎藤一美警部だ。何かとお世話になるかもしれねぇから、挨拶しとけよ」
菅野が将吾に言うと
「‥どうも」
将吾が愛想なく軽く頭を下げる。そして続けて
「菅野さん、この動画の一瞬だけ途切れてる所なんですけど‥」
とスマホの動画を見せながら言う。菅野のかわりに斎藤が
「‥あぁ。防犯カメラでも途切れている所があったね。雷かなんかの影響らしいが‥」
と答える。将吾が続けて
「その途切れる少し前に、着物姿の女性がしゃがんで何かしてるんですよね‥」
と言った。菅野と斎藤がスマホの動画を覗きこむ。
「ほら、ここです」
将吾が動画の画面を指差す。すると菅野と斎藤が顔を見合わせた。
「‥ここって?誰もいねぇじゃねぇか?」
菅野が言うと将吾は驚いて
「え?いや、ここですよ。ここ」
と、再度画面を指差す。将吾が指を差す画面には、人など映っていなかった。
「‥ここにメガネをかけた男が立ってるわな?隣に髪の長い女もいる‥」
菅野が確認しながら指差す。
「そうです。そしてその隣に黒い着物を着た女性がいるんです」
将吾が少し戸惑いながら言う。どうやら菅野も斎藤も、その女性が見えてないようだ。すると斎藤がタバコの火を消し、真っ直ぐ将吾を見る。そして
「そこに間違いなく女性が映っているんだな?」
と聞いた。将吾が頷くと
「その女性が何をしている?」
斎藤が将吾に聞く。
「‥女性がしゃがんで少しすると、映像が途切れるんです。その後、映像が再会すると、メガネの男性と髪の長い女性がいなくなってるんです」
将吾が言うと菅野が
「画面から見切れただけじゃねぇのか?現場はだいぶ混乱してたみたいだし‥」
と言う。すかさず斎藤が
「防犯カメラの映像を確認してみる」
と言い、足早に喫煙所から出ていった。将吾はスマホの画面を見ながら
「‥‥やっぱり黒い蟷螂も見えてないのか‥」
と小声で呟いた。
<人物図鑑>
名前:相崎奈美
別名:奈美ちゃん 奈美
年齢:享年二十五歳
守神:不明
能力:呪力付与時、黒い棘を飛ばす
備考:霊体
生前、小児科医師の伊坂と付き合っていた
死後、霊体サンプルとして呪力を付与された
ちなみに付与された呪力は蜂
生前の記憶が邪魔をして黒い蜂にはならなかった