第十三話 天照
キィン!キィン!キィン!
斎藤の電磁警棒と、瑞波の妖刀村雨が激しくぶつかり合う音が響く。斎藤も剣術に関しては相当な腕前だ。警察官同士の剣道大会で女性の部で優勝した事もある。だが、あくまで剣道。真剣での斬り合いなど初めてだ。瑞波の妖刀村雨が斎藤の鼻先を掠めていく。当たれば大怪我では済まない。日本刀の切れ味は一太刀で頭蓋骨に深く食い込むほどだという。間違いなく即死だろう。それに瑞波は実戦的な剣術だ。体術も織り交ぜ、人を倒す為の剣術。どちらかと言えば、暗殺術に近い。鍔迫り合いになると、斎藤の足を引っ掛けてきた。バランスを崩す斎藤を蹴り飛ばす。地面に転がる斎藤に、瑞波の飛び込みながらの縦斬り。だが、土方が横から体当たりして瑞波を吹っ飛ばす。
「斎藤さん、大丈夫ですか?」
土方が言いながら警棒を両手で持って構える。まるで竹刀のようだ。斎藤が起き上がると、瑞波も構え直していた。すると土方が
「‥これはあまりやりたくないのですが‥」
と言いながらメガネを外してポケットにしまった。‥裸眼で見えるのか?そう斎藤が思った瞬間、土方がとんでもないスピードで打ち込んだ。瑞波が慌てて避ける。続けて連続しての横斬り。瑞波は避けるので精一杯だ。呆気に取られていた斎藤だったが、すぐに我に返る。瑞波が避けた先に回り込み、土方と挟み込む形で攻撃を仕掛けた。
「‥くっ!阿鬼鮫!」
瑞波の苦し紛れだが強烈な一撃。斎藤と土方は防御して、後方へ退がり距離をとった。
「‥メガネがスイッチになってるとはな‥」
斎藤が土方に言う。土方は顰めっ面で警棒を両手で構えながら
「見えづらくなって集中力が増すみたいです‥。メガネを外せば、剣道で全国制覇も夢じゃない、って言われてました。外さなかったので、地区大会どまりでしたが‥‥。顰めっ面になるし、やりたくないんですよぉ‥‥」
と言った。二人と対峙する瑞波は、チラリと蜘蛛の方を見る。少し離れた所で、タツの八岐大蛇と巨大な蜘蛛が戦いを繰り広げていた。これでは援軍は望めない‥。酒木の奴は一体何をしているのか‥?そう瑞波が思った時、瑞波の背後で凄まじい音がした。何かが壁を突き破ってきて、近くの壁に食い込んだのだ。瑞波が振り向いて見ると、酒木荊羅と茨木童子が壁にめり込んでいた。まさか‥?酒木の奴、遊んでいるのか?すると蜘蛛の大きな呻き声が響き渡る。声がした方を見ると、蜘蛛が八本の足を八匹の大蛇に噛みつかれ、空中に宙吊りにされていたのだ。予想していなかった光景に瑞波が絶句する。
「‥お前もここまでだ」
斎藤が右手で警棒を構えながら、距離をジリジリと詰めてきた。隣には顰めっ面の土方も、両手で警棒を構えている。バカな‥。たかが数人の援軍で、ここまで一気に形勢が変わってしまうとは‥。個々の能力が高い‥予想以上だ‥。瑞波は少しづつ退がっていく。すると背後に気配を感じた。振り向くと、将吾が布都御魂を構えていた。
「‥逃すわけにはいかない‥」
将吾が言うと、通路の方からクッキー達が現れた。
「タツ、終わったか?」
クッキーが言うとタツが敬礼して見せた。クッキーが天音を両手で抱えている。
「早く天音を病院に連れてくぞ」
と、クッキーが言うと
「病院はここですよ」
奈美ちゃんが笑顔で突っ込む。二人はしばらく見つめ合っていた。
「‥抵抗はやめろ。もう勝ち目はないし、逃げられんぞ‥‥」
近藤が腰から手錠を出しながら瑞波に近づく。斎藤と土方、近藤と将吾で瑞波を取り囲む形だ。瑞波が溜息をつきながら妖刀村雨を鞘にしまう。ついに観念したのか‥?近藤が手錠をかけようと近づいたその時、瑞波の周りに突然巨大な火柱が立った。
「‥!‥うおっ!」
近藤が慌てて飛び退く。凄まじい熱気だ。
「‥瑞波さんが付いていながら、この醜態はなんです?ただの戦力調査だと聞いていたんですがね‥?」
いつの間にか瑞波の隣には赤口焔が立っていた。
「‥‥すまない‥。奴らを侮っていたようだ‥。引き際を間違えてしまった‥」
瑞波が赤口に言う。その背後では、壁にめり込んだ酒木を大和田夏海が引っ張り出していた。八岐大蛇はいつの間にか現れた巨大な龍に噛みつかれ、蜘蛛を離してしまった。
「さぁかきぃぃ!ザマぁ!」
意識のない酒木に夏海が笑顔で中指を立てる。
「‥夏海さん。みっともないですよ」
赤口が夏海に言うと、クッキー達の方を見る。
「今日の所は退きます。ですが、次はお手合わせ願いますよ‥」
と、赤口が言うと一段と炎が大きくなった。
「夜刀、帰るよ!」
夏海が酒木の体を引きずり、巨大な龍の尻尾に乗せながら言う。炎の勢いに思わず斎藤や土方も後退りする。すると炎は突然消え、赤口達は全員姿を消していたのだった。
すぐに黄泉国保安局の応援が駆けつけた。神谷局長も出てきている。黄泉国保安局の者が総勢三十七人、酒木と茨木童子により死亡、つまり滅却となったそうだ。黄泉国では、近年稀に見る大事件のようだ。もうすぐ天岩戸隠れが解消される。その前に現場検証を行い、赤口達の足どりを追いたいそうだ。だが当然、奴らも痕跡など残すヘマはしていない。
「みんな、大丈夫?」
淤加美も連絡を受けて、陰陽神社から慌てて駆けつけた。隣にはアキ君の姿もある。
「‥‥酒呑童子がいたって言うのは本当ですか‥?」
アキ君がクッキー達に尋ねる。いつになく真剣な眼差しだ。
「‥酒呑童子かはわからねぇが、鬼みたいな奴はいた‥。天音がそいつにやられた‥」
クッキーが答えると、奈美ちゃんが
「‥確か『茨木童子』って叫んでたと思います‥」
と付け加える。
「酒木荊羅‥‥酒呑童子の神主だ。部下の茨木童子を引き連れている。それと女性の方は瑞波奈緒恵。罔象女神の神主だ」
神谷の説明だ。
「‥‥それで?‥‥酒木荊羅は‥?」
アキ君が恐る恐る聞く。クッキーが
「‥あと少しだったんだがな‥‥残念ながら、逃げられた‥‥」
と答えると
「‥‥そう‥‥ですか‥」
アキ君はなんとも言えない、複雑な表情をした。アキ君の家族を死に追いやったのは、酒木荊羅ではなく酒呑童子そのものだろう。封印が解けた酒呑童子が、アキ君の妹に取り憑きアキ君の両親を殺したのだろう。その後どういう訳か酒木荊羅の守神となったようだ。酒木荊羅にはなんの恨みもない。アキ君としては、なんとも言えない思いなのだろう。天音は谷川総合医療センターではなく、警察病院の方へ運ばれたらしい。その方が何かと都合が良いそうだ。顔面が腫れ上がっていたが、骨などに異常は無さそうだった。意識もあったし、きっと大丈夫だろう。将吾は保安局の救護班から手当てを受けていた。切り傷がほとんどで、大した事はないようだ。菅野やひーちゃん、斎藤と土方も簡単な治療を受けている。そんなひーちゃんを奈美ちゃんが見つめていた。
「‥‥どうした?」
クッキーが奈美ちゃんに聞くと、奈美ちゃんが笑顔で
「‥ううん‥」
と答えた。クッキーは奈美ちゃんとひーちゃんを交互に見る。すると
「そう言えば、クッキー達はよく天岩戸隠れの中に入れたね?」
淤加美が不思議そうに尋ねると
「最初、近くを歩いている時に、奈美さんが病院の様子がおかしいって言い出したんです。なのでみんなで病院の近くまで様子を見に来たら、時空が揺らいでいるような感じになってたんです。そしたら光に包まれて、気づいたら誰もいない病院の中にいました‥」
と、タツが説明する。
「‥歩いている時、ボーッと病院の方を見ていたら、建物が突然、蜃気楼のように揺らぎだしたんです。なので、なんかおかしいなって思って‥」
奈美ちゃんが言う。ちょうど天岩戸隠れが始まった時だったのだろう。タイミングも相まって、上手く入れたのかもしれない。キイロノイズミからは藤堂も駆けつけていた。
「状況は?」
藤堂が腕の治療を受けている近藤に聞いている。背が高く三十代後半ぐらいだろう。髪は真ん中分けで、痩せ型だ。少し疲れたような表情の会社員と言った感じだ。
元公安にいたそうだが、確かに公安にいそうなタイプに見える。近藤も腕の骨折だけで、あとは大した事はなさそうだ。すると突然、現場がざわつきだした。保安局の者が慌ただしく動きだしたのだ。そして保安局の人達がサァっと道を開けた。
「‥こんな所へ出て来るとはな‥‥」
神谷が呟くと、淤加美も低い声で
「‥‥天照‥」
と呟く。二人が見ている先から、一人の女性がゆっくりと歩いてきた。長い黒髪を靡かせ、白い着物を着ている。目は赤く輝き、どこか神秘的な雰囲気を持つ女性。小柄だが姿勢良くゆっくりと歩く様は、風格が有り礼儀の正しさを伺えた。女性は神谷と淤加美の前まで来ると
「‥‥淤加美、久しいな。神谷、三十七人も犠牲になったというのは本当か?」
と静かに尋ねた。神谷が敬礼の後、状況の説明を始めた。
「‥今、淤加美ちゃんが『天照』って呟いてたけど、あの人ひょっとして‥‥?」
奈美ちゃんが小声でタツに聞くと
「‥‥うん‥‥多分、天照大神じゃないかな?」
そう‥かの有名な天照大神‥あの人が‥。神谷や淤加美の反応からみて、そうそう人前に出てくる事はないのだろう。すると
「‥!‥ウチのボスもお出ましだ‥」
土方が小声で呟く。斎藤が土方の見ている方を見ると、八尾久仁子が現れたのだ。どうやら藤堂が連れてきたらしい。八尾は天照の前まで歩いていくと、深々とお辞儀をして
「‥お久しぶりでございます、天照‥‥いえ、天野氷美子さんでしたね‥」
と言った。そうか‥天照も神人なのか‥。こちらでは天野氷美子と名乗っているようだ‥。タツは以前、なぜ神人が神様とは別の名前を名乗っているのか、淤加美に聞いた事があった。淤加美いわく、こちらの世界に来る時に素性を隠す為だそうだ。淤加美はなぜ名前を変えないのか聞くと、適当なのが思いつかなかったからだそうだ。淤加美らしいと言えば淤加美らしい‥。
「‥八尾室長‥‥いつぶりだろうか‥?‥お変わりなく‥‥」
天野が表情を変えずに答える。
「今回、キイロノイズミの活躍により、なんとか食い止められたと聞いた‥礼を言う。それと‥‥」
天野がクッキー達を見る。
「‥時量師神、八岐大蛇、建御雷神。これだけの者達が淤加美の元に集まったのか?」
天野が淤加美に尋ねた。見ただけで守神がわかるのか?
「‥あと二人、天之手力男と風神と雷神を引き連れた者もいるけどね‥。普通は名もなき小さな神様がつく事が多いんだけど‥‥まぁ、なんというか‥‥不思議なご縁で‥」
淤加美が答えると
「‥‥ご縁はとても大事だ。人の全てを左右すると言っても過言ではない‥‥これだけの神々が集まったと言う事は、きっと何かあるのだろう‥」
天野が静かに言う。そしてゆっくり歩き出した。天野はひーちゃんの前まで来る。ひーちゃんは少し怯えたような表情で、隣にいた奈美ちゃんの足の後ろに隠れた。
「‥‥そうか‥‥お前は蛭子か‥‥」
天野が呟くと
「‥!‥蛭子?‥ひーちゃんは神主だったの?」
淤加美が驚く。蛭子とは異形の神と言われ、捨てられた神として知られている。とある説では、七福神の恵比寿様の事だとも言われているのだ。天野いわく、ひーちゃんの守神は蛭子なのだと言う。と、言う事は将吾と同じ『生まれつき型』か‥。
「なるほど‥‥神主だから雲寄が効かなかったのか‥」
神谷が頷いた。
「酒呑童子の野郎の動きを止めたんだが、あれは何だ?」
クッキーが淤加美に聞くと
「‥多分、動きを止めたんじゃなくて、戦闘行動を止めたんじゃないかな?‥‥平和と福をもたらす守神だから‥」
と淤加美が答える。なるほど‥言われてみれば‥。酒木と茨木童子の『戦闘行為を止めた』のか。つまり戦闘の意思がなければ、奴らは動けた訳か‥。
「‥‥それに、ひーちゃんは足が不自由なんじゃないかな‥?」
将吾が言うと全員が驚いてひーちゃんを見る。
「‥だから火事の時、慌てて逃げようとして転んだのか‥」
タツが呟くと、ひーちゃんが左足を見せる。左足は義足だったのだ。火事の時はズボンだったので気づかなかったのだ。
「なんで言わなかったんだ?」
斎藤が聞くと
「‥‥病院のお姉ちゃんは知ってるから‥‥知ってると思った‥」
と、ひーちゃんが答えた。どうやら天音は知っていたようだ。多分、言ったつもりで言い忘れていたのだろう。天音らしい‥‥。そして天野が奈美ちゃんを見る。奈美ちゃんは目線を落とし、天野とは目を合わせない。しばらく後
「‥‥なるほどな‥‥」
と呟いて天野は踵を返した。
「八尾室長、今回の件は誠に遺憾だ。我々としても早急に肩をつけたい。そこでだ。キイロノイズミと閻魔省の合同捜査という形を取れないだろうか?もちろん、黄泉国保安局も協力するし、そちらの警察にも協力してもらう」
天野が八尾と神谷、淤加美に提案する。
「‥もちろん、君たちにも協力してもらいたいのだが?」
天野がクッキー達にも言う。協力も何もアキ君の事もあるし、天音もこのまま引き下がるとは思えない。蟷螂や百足の時からだから、片足どころか完全に両足を突っ込んでいる状態だ。協力しない訳がない。淤加美の部下になった訳ではないが、気づけば行動を共にしているし、今更他人ヅラも出来ない。クッキー達が顔を見合わせて頷いた。
「‥では、淤加美をリーダーにチームとして協力してもらう。閻魔省の別動隊って所か‥」
天野がみんなを見ながら言うと
「‥‥では、形式的な形だけでも、我々キイロノイズミに加わると言うのは如何でしょう?警察官になる訳にはいきませんが、一般人の協力者と言う形でね‥。ねぇ、淤加美ちゃん?」
八尾の提案だ。淤加美がみんなの顔を見る。たしかにキイロノイズミの力を借りる形にした方が、何かあった時に都合がいいかもしれない。みんなが頷くと
「‥決まりだ。では、キイロノイズミ、黄泉国保安局、それと警察。この三つの組織で魔月妃達を追う」
と、天野がまとめにかかる。こうしてクッキー、天音、タツ、アキ君、奈美ちゃん、将吾と菅野、そしてこの場にいない双葉がキイロノイズミとして行動する事となった。
「‥では、コチラの国のお偉いさんには私から説明しておきますね」
八尾がにこやかに言うと
「我々も全力で捜査する。が、いかんせん現世では我々は動けない。キイロノイズミが頼りだ。もし何かあったら遠慮なく言ってくれ」
と神谷が言う。すると
「‥‥あ、アタシも手伝いたい‥‥」
ひーちゃんが恐る恐る手を上げた。全員が顔を見合わせる。
「‥‥子供には危ないから無理だ、って言いたい所だが‥‥俺は助けられちまってるからなぁ‥‥」
クッキーが頭を掻く。
「‥それに親御さんに黙ってって訳にはいかんだろう。なんて説明したらいいんだか‥」
菅野も困った顔をする。すると天野が
「‥おそらく両親とは血が繋がっていない‥。養子だろう?」
と、ひーちゃんに聞く。ひーちゃんは頷いた。どうやらひーちゃんは元々は施設育ちで、数年前に今の両親に引き取られたようだ。普通の小学生に見えたが、足の事といい色々と抱えているようだ。しばらくの沈黙の後、奈美ちゃんが
「‥‥私が責任持って面倒見ます。危険な目には遭わせません‥‥。だから、簡単なお手伝いだけでも‥」
と言った。
「‥任せる。だが、ご両親には我々の事は秘密にしてくれ。それが条件だ」
天野が言うと、八尾が
「斎藤さん、土方さん。彼女達のサポートをお願いしますね?」
と言った。斎藤と土方がチラリと奈美ちゃんとひーちゃんを見て、八尾に敬礼で返した。サポートと言うより、保護者的な感じだろうな‥‥。
「‥で、今回の事件の事で分かってる事はあるの?酒木達が何でこの病院を狙ったのか?病院を標的にする理由は?またしても無差別殺人なの?」
淤加美が神谷に聞く。すると将吾が
「‥‥確か、調査がどうのって言ったました‥‥。遠くからサイレンが聞こえてきたら、時計を見てブツブツ言ってたし‥」
と言った。
「‥調査?‥‥一体何の調査だ‥?」
神谷が考え込むと
「‥意外と病院は関係ないのかも知れないな。何か大きな企みがあって、色々とテストをしているのかも知れない‥」
天野が遠くを見ながら言った。
「今回の件、魔月妃が関わっている事に間違いはない。彼女の狙いが何なのか分からないが、それも含めて捜査していく。みんなも、くれぐれも気をつけてくれ‥」
天野は全員に言うと、その場から去っていった。途端に周辺の時空が歪んだような感じになる。天岩戸隠れが終わろうとしているようだ。
「撤収!」
神谷が叫ぶと黄泉国保安局の者が一斉に撤収を始めた。
「ウチらも帰ろう‥」
淤加美が言うと地面から大きな扉が現れた。
「ゲートから陰陽神社に戻れるから‥」
淤加美が言いながら扉を開く。扉をくぐるとそこは陰陽神社の大きな蔵の中だった。
都内にある夜の高層ビル群。あのビルの四十五階の一室に、魔月妃が立ったまま窓際で夜景を見下ろしていた。するとノックする音が聞こえ、瑞波が入ってきた。
「‥酒木は大丈夫か?」
瑞波が足音で近づいてくるのを確認して、魔月妃が振り向かずに聞く。
「‥はい。しばらくは動けませんが、命に別状はありません‥」
瑞波が答えると魔月妃が振り向いて椅子に座る。
「‥酒木がそんな状態なら、調査結果は聞かずともわかるな‥」
魔月妃が瑞波を見る。瑞波は目線を落とし
「‥建御雷神、天之手力男、時量師神、八岐大蛇‥。全て予想以上でした。キイロノイズミからの応援もあり、撤退にしくじりました‥」
瑞波が報告すると
「‥天照も本格的に乗り出したようだ。もう、私の事も勘付いているはず‥。酒木の回復もあるし、しばらくは下手に動けんな‥」
魔月妃が淡々と言う。
「‥申し訳ございません‥」
瑞波が深く頭を下げると
「‥良い。動けないなら、今のうちにヤツを探すのも手だ‥」
魔月妃が立ち上がりながら言う。
「‥‥‥禊を起こせる唯一の神ですか‥?」
瑞波が言うと、魔月妃はまた窓の方を向く。
「‥ヤツさえ見つかれば、全ての世界が抹消されるまで、あと少しだ‥‥」
そう呟く魔月妃はどこか悲しそうに見えた。すると
「‥その前にやっておきたい事がある」
と瑞波の背後から声が聞こえた。瑞波が慌てて振り向くと、背の高い黒いスーツ姿の男性が立っていた。三十代ぐらいでサラサラの髪。整った顔立ちで、瞳が赤い。
「須佐野‥‥」
魔月妃が窓ガラスに映った男性を見て、振り向かずに呟く。
「‥奴がいたと聞いた。『俺の物』を取り返しに行きたいのだが?」
須佐野と呼ばれた男性が魔月妃に言う。
「須佐野、聞いていたはずだ。しばらくは動けん、と。酒木の二の舞にでもなったら‥」
瑞波が喋り出した瞬間、瑞波の右肩を大きな剣が貫いた。
「‥!‥ぐぅっ!‥」
瑞波が痛みで悶絶すると
「‥お前‥‥‥誰に口を聞いてる‥‥?」
須佐野が右手に持った大きな剣で、瑞波の肩を貫いたまま言う。
「‥なっ‥‥何を‥‥する‥‥」
瑞波の肩からは夥しい量の血が流れ落ちる。
「‥お前は敗走してきたんだぞ?処刑されても文句は言えないはずだが?このまま、死ぬか?」
須佐野の左手にもう一本、大きな剣が姿を現した。すると
「‥須佐野、もう良い。私が揺動をかけてみろ、と言ったのだ。『お前の物』を取りに行く事を許可する‥‥行け」
と、魔月妃が振り向きながら言った。須佐野はしばらくの間の後、瑞波の肩から剣を引き抜く。瑞波が肩を抑えて蹲った。そして須佐野は無言のまま扉に向かって歩き出す。その顔は目がさらに赤く光り、醜く歪んだ笑いを浮かべていたのだった。
名前:土方佳乃
別名:土方 土方さん 佳乃 佳乃ちゃん
年齢:二十七歳
守神:不明
能力:不明
備考:黄泉国対策組織委員会 通称キイロノイズミの一員
元県警の防犯課に所属
メガネを外すと剣道の腕前が達人級になる




