第十一話 襲撃
武藤将吾はお昼過ぎの谷川総合医療センターの一階ロビーを歩いていた。谷川総合医療センターは病院というより、ショッピングモールのような巨大な複合施設のような感じだ。ロビーもかなり広い。知っている病院のレベルじゃない。今日は菅野真道と一緒に、八千代市に黄泉国について色々と調べに来た。陰陽神社についての詳しい文献などを探して、市立図書館に行ったが目ぼしい物は見つからなかった。と言うか、黄泉国に関する記述も少ない。とりあえず再度、陰陽神社で話しを聞こうと向かったが、途中で谷川総合医療センターの看板が目に止まったのだ。先日、陰陽神社で話しをした時に、岬天音が谷川総合医療センターの看護師をしていると言っていたのを思い出し、先に岬天音からも話しを聞こうと菅野が言い出したのだ。そして二人は谷川総合医療センターに再度訪れてみたのだが‥
「‥確か、小児科って言ってたな」
菅野が呟きながら小児科を探す。大き過ぎて小児科を探しだすのも一苦労の広さだ。
「向こうですかね‥?」
将吾がロビーの奥を指差す。二人はキョロキョロと探しながら歩き出した。
その頃、天音はお昼休憩を終えて三階の廊下を歩いていた。従業員用の休憩室が三階にあるのだ。先日の陰陽神社での話し合いの後、淤加美からは『くれぐれも気をつけて』と言われていた。神主がこの周辺のどこかに潜んでいるかも知れないのだ。目的はわからないが、三度も問答無用で襲いかかってきている。奈美ちゃんの時は夜の公園という事もあり、一般の人を巻き込む事はなかったが、千本町と陰陽神社近くの襲撃は一般人を巻き込んでいる。千本町では複数の犠牲者も出た。もし赤口焔や大和田夏海、大山積次郎を見かけたら、迷わず『身を守る最善の方法を取れ』と言われている。それだけ危険なのだろう。すると廊下の向こうから、同僚の看護師の女性二人組が来る。
「あ、天音。なんか今一階で、男の人二人組に天音の事を聞かれたんだけど‥‥知り合い?」
二人は天音に近づくと、そう言った。
「‥どんな人達?」
天音が二人に聞くと、二人が男性二人組の特徴を言う。
「‥‥もしかして‥?」
天音が菅野と将吾の特徴を二人に伝えると
「‥あ、そうそう。多分、そう」
「知らない人だと怖いからさ‥一応、『わからない』って言っておいたからね」
と二人が顔を見合わせた時だった。
ガシャアァァァン!
ガラスが割れるような大きな音が響いた。近くの病室からのようだ。
「‥!‥何?何!」
驚いて飛び上がる二人の看護師を後にして、天音が走り出す。急いで音がしたと思われる病室に飛び込んだ。そこは空いている個室の病室だった。窓ガラスが全部割れている。そして窓から風が吹き込む中、黒い巨大な蜘蛛が赤い目を光らせて待ち構えていたのだ。足を伸ばせば病室の天井より高いだろう。
「‥え?」
天音はあまりに唐突な鉢合わせに一瞬固まる。蟷螂、百足と来て今度は蜘蛛‥?すると
「どうしたんだ?何の音だ?」
男性の医師が天音の後ろから部屋を覗き込もうとする。
「‥ダメ!下がってぇ!」
天音が叫んで男性の医師を追い返そうとした瞬間、男性医師の右腕が弾け飛んだ。血飛沫が上がり、近くにいた先ほどの二人の看護師が悲鳴をあげる。天音の体にも大量の血がかかった。その瞬間、天音の体が光に包まれた。天之手力男の力が発動して天音に宿ったのだ。
「‥‥ふっざけんなぁぁぁ!」
天音が振り向きざまに病室のベッドを蹴り飛ばす。キャスター付きのベッドは、巨大な蜘蛛目掛けてすっ飛んでいく。だがぶつかる直前で巨大な蜘蛛は飛び上がり、天井に逆さに張り付く。
「くっ‥‥こいつ‥‥」
天音が呼吸を整えながら、武心流空手の構えをとる。
シュパッ!
すると、何か空気を切り裂くような音が聞こえた。何かが天音目掛けて、物凄い速さで飛んでくる。天音は背後にあった病室のドアを片手で無理矢理剥ぎ取ると、飛んでくる物をはたき落とした。病室のドアは真っ二つになって弾け飛ぶ。天音が持つドアの残骸には、蜘蛛の糸が付いていた。どうやら巨大な蜘蛛は、尻から糸を物凄い速さで射出しているようだ。その威力は、人間の腕を一瞬で切り落とし、病室のドアを真っ二つにするほどだ。すると、二人組の看護師が悲鳴を上げながら逃げて行った。一瞬、天音が看護師達の方に気を取られた隙に、蜘蛛は病室の窓から外へ出てしまった。
「しまった!」
天音が慌てて窓に近づき、顔を出して蜘蛛の行方を探す。だがその一瞬で、蜘蛛は姿を隠してしまったのだった。
その頃、一階ロビーではまだ誰もそんな騒動に気づいていなかった。
「‥結局‥戻ってくるまで待たねぇといけねぇのか‥‥」
菅野が溜息をつく。
「‥連絡先、聞いとけばよかったですね‥‥まぁ、言われた通り、ここで待ちましょう‥」
将吾がソファに腰掛けながら言う。なんとか小児科を見つけたはいいが、天音は不在だったのだ。しばらくすれば戻ってくるとの事なので、小児科の待合室で待たせてもらう事にしたのだ。すると菅野が、近づいてくる小さな影に気づいた。
「‥あれぇ?ひーちゃんじゃねぇか?」
近づいてきた小さな影は、蛯原妃瑠子、ひーちゃんだった。
「どこか具合が悪いのか?」
菅野が聞くと、ひーちゃんは首を横に振る。
「お姉ちゃん達に会いにきたの‥」
どうやら、ひーちゃんも岬天音を訪ねてきたようだ。あの日、ひーちゃんは家に帰されたので、詳しい事情を知らない。子供なりに気になったのだろう。
「‥一人で来たのか?」
将吾が尋ねると、ひーちゃんは頷いた。こんな大きな病院に小学生がたった一人で来たようだ‥。かなりたくましい子だ。すると、ひーちゃんが将吾に近づいて来て
「‥あのね‥‥逃げた方がいいかも‥‥」
と言う。将吾はひーちゃんの言ってる意味がわからなかった。だが、将吾にはひーちゃんに対して気になる事があった。そう‥‥ちょっとした違和感‥。
「‥‥ひーちゃんさぁ‥‥ひょっとして‥?」
将吾が言いかけたその時、遠くでキャーと悲鳴が上がった。
「‥なんだぁ?」
菅野が立ち上がる。将吾と菅野はひーちゃんを連れて、声がした方へ歩き出す。小児科の待合室から、声が聞こえたロビーの方へ移動していくと、人々が悲鳴を上げながら逃げていくのが見えた。
「なんだよ?何があったんだ?」
驚く菅野を後にして、将吾が走り出す。そして
「菅野さんはひーちゃんと一緒にいてください!俺が見てきます!」
と叫びながらロビーへ向かった。将吾がロビー付近まで行くと、正面ロビーの真ん中に、若い男が立っていた。黒いスーツ姿の金髪のオールバック。酒木荊羅だ。酒木の隣には、頭に四本の角を生やした鬼のような姿をした者が、血まみれの警備員の頭を掴んで宙吊りにしていた。周りにいる大勢の人々は悲鳴を上げて逃げ惑っている。
「テメェらは人質だ。奴らを誘き出すためのなぁ‥」
酒木が呟く。その後ろには瑞波が立っていた。
「‥こんな事をしてどうする?目的は戦力調査のはずだが‥?」
瑞波が淡々と言う。
「んなこたぁ、わかってんよ。派手に暴れてれば奴らの方から寄ってくるだろ?探す手間が省ける。それに、一度にまとめて調査すりゃあ、メンドくさくねぇだろう?」
酒木が答えると
「お前の茨木童子は普通の人間には見えない。派手に暴れれば、お前がこの事件の犯人として警察に追われる事になる。それはそれで面倒くさい事なのだが?それにまとめて神主を相手にすればリスクも高くなる」
瑞波は感情を出さずに皮肉を言う。そこへ将吾が逃げる人達をかき分けて現れた。
「‥!‥お前はこの前の?」
と、将吾が瑞波を見て叫ぶと酒木が
「‥ほらみろ!早速、かかったぞ」
と得意げに瑞波に言う。瑞波は溜息をつくと妖刀村雨を鞘から抜いた。将吾も慌てて建御雷神の力を宿し布都御魂を鞘から抜く。だが次の瞬間、将吾達の周りに何処からともなくスーツ姿の男女が大勢現れ、酒木と瑞波を取り囲んだのだ。全員、両手で小銃のような物を持ち、酒木と瑞波に向けて構えている。
「黄泉国保安局だ!酒呑童子並びに茨木童子、そして罔象女神!両国の規定により身柄を拘束する!」
将吾の背後から現れた中年の男性が叫んだ。神谷の姿は見当たらない。局長が自ら現場に足を運ぶ事自体、稀なケースなのだろう。すると酒木がニヤリと笑い
「雑魚が群れやがって‥‥まぁいい。群れた雑魚を無双するのはサイコーだからなぁ‥」
と言った。
「動くな!下手な真似すれば発砲する!これは警告‥‥」
叫んでいる中年男性の首が吹き飛ぶ。いつの間にかロビーの天井には巨大な黒い蜘蛛が貼り付いていて、尻から糸を吐き出したのだ。その糸は凄まじい速さで一直線に中年男性に飛んでいき、男性の首を刎ねたのだ。男性の首が地面を転がる中、血飛沫を上げて男性の首のない体が地面に倒れる。その瞬間、複数の発砲音が響きわたった。保安局員達が一斉に酒木や蜘蛛に向かって発砲したのだ。だが酒木は素早く避けてかわすと
「茨木童子!」
と叫んだ。すると先程、警備員を宙吊りにしていた四本角の鬼が、物凄い速さで保安局員達を片手で叩き潰していく。風船が弾けるように血や肉片が飛び散っていった。酒木が
「茨木童子は素早さに特化してる。そしてパワーに特化してんのが‥この酒呑童子だ!」
と、言うと酒木の体が筋肉で膨れ上がった。酒木の背後には頭に二本の角を生やした鬼の姿が浮かび上がった。そう。陰陽神社でアキ君の妹、晴香に取り憑いたあの鬼だ。酒木は雄叫びを上げると、両手を振り上げ地面に叩きつけた。すると凄まじい衝撃と共に広範囲の床が砕け散った。そして空中に飛び上がった瓦礫を、茨木童子が素早く何個も蹴り飛ばしていく。飛んできた瓦礫に保安局員が次々と潰されていった。酒木は近くにいた保安局員を掴むと、両手で雑巾を絞るかのように捻り殺し、その体を固まっている保安局員達に向かって放り投げた。大きくて綺麗な病院のロビーは、血塗れの惨劇の場と化していった。そしてその頃、将吾は瑞波と激しく斬り合いを繰り広げていた。キィンキィンと金属がぶつかり合う音が響く。
「‥さすが、布都御魂だ!我が妖刀村雨と互角に張り合うとはな!」
瑞波が村雨で斬り掛かりながら嬉しそうに叫んだ。将吾は瑞波の攻撃を必死に捌いていく。瑞波は相当な剣の使い手だ。しかも体術も盛り込んだ、人を殺める為の剣術。型や形式に捉われない、殺害だけを目的とした殺人術だ。容赦がない。将吾は距離を詰めて、鍔迫り合いの状態になった。すると天井から何か気配がする。
「‥まずい!」
将吾は叫ぶと力で瑞波を押し返し、素早く地面に転がった。その将吾を狙って、蜘蛛が天井から糸を撃ち出す。将吾が転がった所を糸が次々と貫いていった。
「布都御魂ぁ!亥の刻!」
将吾が転がり終えた瞬間に剣を振るう。すると大きな衝撃波のような物が、将吾の剣から瑞波に向かって飛び出した。瑞波が防御するが威力を抑えきれずに弾け飛ぶ。
「‥!‥くっ‥!」
瑞波は空中で後転して着地する。将吾は追い討ちをかけるように
「子の刻!」
と叫び、素早く細かい連続した突きを繰り出した。瑞波は攻撃を捌きながら退がる。
「戌の刻!」
最後に将吾が強烈な突きを繰り出し、瑞波は防御したまま後ろに吹っ飛んだ。吹っ飛ぶ瑞波と入れ替わるように、酒木が前へ飛び出してきた。
「よぉ、イケメン兄ちゃん!遊ぼぉぜぇ!」
酒木が将吾に殴りかかる。速い!避けきれない!だが次の瞬間、巨大な蜘蛛が空から降ってきたのだ。慌てて将吾と酒木が蜘蛛の落下地点より横っ飛びで逃げる。
ズウゥン!
蜘蛛はそのまま背中から地面に叩きつけられた。落ちてきた蜘蛛を避けた酒木が
「‥‥テメェがコイツをぶん投げたのか?」
と言う。そこには武心流空手の構えをとる、天音が立っていた。
黒い大型のワンボックス車が、サイレンを鳴らして街中を猛スピードで飛ばしている。
「場所は?」
その車の助手席に座る斎藤が、運転している近藤に聞く。
「八千代市だ。谷川総合医療センター」
近藤がハンドルを捌きながら答えると
「黄泉国保安局は既に現地に入っています。酒木荊羅と言う神主を、以前からマークしていたようですね。我々も保安局と連携をとって速やかに事態の収拾に努めましょう」
後部座席で左右に激しく揺れる土方が言う。
「後これを‥‥」
そう言って土方が斎藤に黒い棒を渡す。工事現場などで警備員が使う赤色誘導灯のような感じだ。
「対霊体用電磁警棒です。非常に強力な電流が発生しますので、取り扱いに注意してください。それとこれが防護用ベストです」
と言って黒いベストも渡してくれた。斎藤は助手席で上着を脱ぐとベストを着用する。
「拳銃はないのか?」
斎藤がベストの上から上着を羽織りながら聞くと
「あります。対霊体用電磁霊銃が配備されてます。ですがまだ試験段階の為、使用許可が降りてません」
土方がノートパソコンのメールを確認しながら言う。斎藤が上着のボタンを停め終える頃、遠くに谷川総合医療センターが見えてきたのだった。
「‥将吾君、大丈夫?」
天音が将吾の隣にきて言うと、将吾は頷いた。
「‥アンタら‥‥何してんのか分かってんの?」
天音が酒木に言う。周りの病院内の白い壁は大量の血で真っ赤に染まり、床には至る所に肉片が散乱している。まさに地獄絵図だ。だが時間が経つと、壁や床の血や肉片は自然と消えていった。黄泉国の保安局員達は実体はなく、皆霊体なのだ。霊体は死ぬと滅却、つまり永遠に消えてなくなってしまうのだ。だが、ロビーにいた大勢の普通の人もいつの間にかいなくなっている。大きなロビーには天音と将吾、それと対峙する酒木と瑞波。そして地面に転がる黒い巨大な蜘蛛だけだった。その様子に酒木も気づく。
「‥ちっ。天照の仕業か‥『天岩戸隠れ』を使いやがったな‥‥」
と、酒木が恨めしそうに言う。天岩戸隠れ‥‥いつの間にか大勢の人がいなくなった事と関係があるのか‥?すると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「‥もう来たか‥。意外と速いな‥」
瑞波が自分の腕時計を見ながら言う。なんだこの余裕は‥?まるで何かを試しているような‥。
「‥どうする?まだ続けるか?」
瑞波が酒木に聞くと
「あたり前ぇだろ?まだ調査の『ちょ』の字もしてねぇんだからよぉ」
酒木がニヤつきながら答える。そして
「俺の相手は‥‥テメェだ!」
と叫んで天音に殴りかかっていく。天音は素早くかわして酒木と対峙した。瑞波は将吾の前までゆっくりと歩いて行き、妖刀村雨を鞘に納め体制を低くする。居合い抜きの構え‥‥剣術でも速さに特化した構えだ。将吾は布都御魂を中段に構える。ひっくり返っていた巨大な蜘蛛は、飛び上って反転すると元の体制に戻った。ダメージはさほどないようだ。そして将吾に向かって糸を何発も連射する。将吾は素早く避けていくが、避けた先に瑞波が待ち構えていた。
「勇太刀!」
瑞波の目にも止まらぬ速さの居合い抜き。将吾は辛うじて防御するが、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。そこへ蜘蛛がまたも糸を射出する。将吾は必死に避けるが、瑞波が回り込んで斬りかかっていく。このままでは将吾の体力が持たない。その頃、天音は酒木と茨木童子の連携攻撃に苦しんでいた。天音の突きや蹴りを酒木はかわしていく。
「喧嘩屋をなめんじゃねぇぞ!空手女ぁ!」
酒木の右拳を天音がかわすが、酒木はクルッと回り左拳で裏拳を叩き込んできた。天音が両手で防御した所へ、茨木童子の蹴りと酒木の強烈な頭突きが同時に入る。蹴りはかわしたが、酒木の頭突きが天音の顔面に直撃してしまった。堪らず後ろへ退がる天音の服を酒木が掴み、逃さず拳を叩き込んでいく。天音は防御するが、防戦一方のめった打ち状態だ。鈍い音が何発も響きわたり、天音の顔がみるみる鼻血で真っ赤になる。
「でぇあぁぁぁ!」
天音が力ずくで無理矢理、振り解いて距離を取ろうとする。が、酒木がすぐに距離を詰めてきた。完全に仕留めにきている。両手で防御を固める天音に、酒木は構わず上から拳を叩きつける。そして防御されていない脇腹に拳を叩きつけた。
「‥!‥うぅ‥!」
思わず防御する腕が下がった。そこを逃さず酒木の拳が天音の顔面を捉えた。天音が吹っ飛んで地面に倒れる。完璧に捉えた一撃。天音は完全に意識を失ってしまった。喧嘩慣れしている酒木は、現役から少しブランクのある天音を圧倒してしまったのだ。天音は空手で全国大会に出た事もある。だが、あくまでルールに則った試合。酒木のようなトリッキーな空手にはない動きに対応出来なかったのだ。
「‥あぁ〜あ。こんなイイ女、以前ならたっぷり犯してから殺すんだがなぁ‥。まぁイイか」
酒木がニヤつきながら、天音にトドメを刺しに近づく。すると倒れている天音の前に、小さな影が立ちはだかった。ひーちゃんだった。
「‥!‥おい!ダメだって!」
物陰から菅野が叫ぶ。菅野とひーちゃんは物陰に隠れ、気配を押し殺して戦いを見守っていたのだ。だが天音が倒れると、ひーちゃんが堪らず飛び出したのだ。酒木がひーちゃんを見て
「‥‥どけ、クソガキ。一緒に殺しちまうぞ」
と言い、構わず近づいてくる。するとひーちゃんが両手の掌を開いて前に突き出した。
「‥!‥」
すると、酒木の歩みが止まった。‥‥動けねぇ‥‥このクソガキ‥‥俺になんかしやがったのか‥?‥‥こいつも神主か‥?酒木はそんな事を考えながら、体を動かそうとする。だが、体が動かない。茨木童子も動けないようだ。すると酒木が不気味な笑いを浮かべる。
「‥おもしれぇ!俺と力比べする気か?なら全開でいってやんよ、クソガキぃ!」
酒木が叫ぶと再度、酒呑童子の姿が酒木の背後に浮かび上がり、酒木の全身の筋肉が膨れ上がった。ひーちゃんは震える手で必死に酒木を押さえ込んでいる。大量の汗が滴り落ちる。だが酒木は少しづつ動き出したのだ。
「‥お、おじさん‥‥早く‥‥おねぇちゃんを‥‥」
ひーちゃんが必死に叫ぶ。物陰で一部始終を見ていた菅野が、ハッと我に帰る。そ、そうだ。俺がしっかりしないと‥。菅野は物陰から飛び出し、天音の元へ駆け寄る。
「お、おい!しっかりしろ!このままじゃヤベぇぞ!」
菅野が天音を揺さぶり起こそうとする。だが、天音は気を失ったままだ。酒木がゆっくりだが着実に近づいてくる。
「おい!おいって!起きろ!」
菅野が懸命に天音を揺さぶる。酒木はもうひーちゃんの目の前まで来ていた。
「‥クソガキにしては上出来だよ。だがなぁ、ここまでだ‥」
酒木が恐ろしく冷たい目で、ひーちゃんの胸ぐらを掴んで持ち上げた。
<人物図鑑>
名前:八尾久仁子
別名:八尾比丘尼
年齢:不詳 見た目は六十代ぐらい
守神:なし
能力:不明
備考:黄泉国対策組織委員会 通称キイロノイズミの室長
不老長寿と言われている人間
大昔から国の政治等に深く関わってきた権力者
財力も豊富




