第十話 キイロノイズミ
アキ君が話し終えると一息つく。そんな過去があった事など、淤加美以外は誰も知らなかった。すると斎藤が
「‥あの当時は黄泉国だの鬼だの、俄には信じられなかった‥。だが今日、あの百足や鴉天狗を目の当たりにして、ようやく君が言う事が本当の事だとわかった。信じてあげれなくて、すまなかった‥」
と、言いながらアキ君に頭を下げた。アキ君はしばらく黙っていたが
「‥もう止めてください‥‥突拍子もない話しだし、信じてもらえないのはわかっていました。弁護士の方も、少しでも僕の刑が軽くなるように尽力してくれました‥‥でも僕は自分の刑など、どうでもよかった‥‥。妹を殺人鬼として片付けて欲しくなかっただけなんです‥。どうしても鬼のせいだとわかってもらえず、貴方に辛く当たってしまいました‥‥こちらこそ、すいませんでした‥‥」
と言ってアキ君も頭を下げた。しばらくの間、居間に沈黙が流れる。するとクッキーが
「‥アキ、もし今後そんな大変な事があったなら、必ず言えよな‥」
と言うと
「‥すいません‥‥正当防衛とはいえ妹を手にかけてしまったのは事実です。なので殺人の前科がある、なんて聞くと怖がられたり、変に思われるかなぁと思いまして‥」
アキ君が少し俯きながら言う。クッキーに、と言うよりタツや天音や双葉に対しての事だろう。
「何言ってんの?どんな過去があろうと、アキ君はアキ君じゃん?」
と天音が言うと
「色々な過去があって今のアキ君がある‥。僕らは今のアキ君を見ているつもりですよ」
とタツも言う。
「‥私もアキ君なら怖いとは思いません」
双葉が言うと奈美ちゃんもニッコリ微笑んだ。
「アキは、真面目で優しくて芯が強い、仲間や家族想いのイイ奴。それ以上でもそれ以下でもねぇよ。それにな‥自分の事を話すって言う事は、内容がたとえどんな内容でも自分の力になる‥。自分の心内を明かす事で、聞いてる人を自分の味方にする事が出来るチャンスなんだよ‥」
とクッキーが言うと
「‥そうですね‥‥皆さん、ありがとうございます」
とアキ君が少し照れくさそうに後頭部をかいた。すると
「‥所で百足ってなんだ?」
と、クッキーが思い出したように聞いてくる。そこでタツと淤加美がクッキーと天音に今日の出来事を報告する。アキ君と奈美ちゃんにも話してなかったので、二度手間にならず丁度よかった。そして斎藤や将吾達にもこれまでの経緯を話し、クッキーには千本町の事件の事も話した。すると斎藤が
「‥ちょっと待て‥‥千本町の事件も化け物が関係してるのか?」
と驚く。
「‥『黒い蟷螂の仕業』と言うのは間違いないんですが‥今日居た人達は見かけてません。ですが、神主が関係している事は、ほぼ間違いないだろうと‥」
とタツが答える。と、天音が
「‥!‥そういえば、ウチらも!‥‥」
と言って駅ビルでの一件の話しをする。
「‥なるほど‥‥そいつが火之迦具土だとすると、だいぶ前からウチらはマークされてた‥という事か‥」
と淤加美が呟くと、縁側のガラス戸をノックする音が聞こえた。そしてガラガラとガラス戸が開くと、雪女の小雪と冬美が現れた。
「‥失礼します。保安局からの書類をお持ちしました‥」
と小雪が言いながら淤加美に巻物を渡す。神谷が言っていた物だろう。
「‥こちらの情報も根こそぎ、持って行きましたが‥」
と、冬美が皮肉っぽく言うと
「‥最初から、それが目的だろうからね‥」
淤加美が巻物を広げ、ホログラフで空中に浮かぶ文字に目を通しながら言う。
「いなくなったのは、火之迦具土。こちらでは赤口焔と言う人物の守神になったようです。それと大綿津見神。こちらでは大和田夏海の守神に。そして大山津見神。こちらでは大山摘次郎の守神となりました」
小雪が巻物の内容を読み上げる。
「‥大山は、あの鴉天狗使いだね‥」
タツが淤加美と双葉に言うと、二人が頷いた。
「‥赤口焔と大和田夏海は、駅ビルの二人か‥?」
クッキーが言いながら天音を見ると
「‥だね‥‥確か『夏海さん』って呼ばれてたもん‥」
と天音が頷く。
「‥あと、罔象女神も来ているかもしれない‥」
淤加美が小雪と冬美に言うと
「‥確認されているのはこの三名ですが、他にも来ている可能性は充分考えられます。この他にも保安局がマークしている神主もいるようですし、罔象女神については調べてみます‥」
と、冬美が答えた。すると斎藤が
「‥あの保安局だか何だかの男が、『魔月妃が』とか何とか言っていたが誰の事だ?」
と淤加美達に聞く。小雪と冬美は顔を見合わせてから、淤加美を見る。
「‥魔月妃もアタシや神谷と同じ神人。神様だけど人と同じ容姿をしていて、黄泉国で霊体と同じように暮らし、黄泉国の管理などを任されている‥。魔月妃も黄泉国から姿を消したようだし、何か企んでいるのかも‥」
と、淤加美が斎藤に言う。
「‥なるほど。神人ねぇ‥」
菅野が呟く。菅野はこまめにメモをしながら、熱心に聞いている。その隣で将吾が
「‥菅野さん‥‥次元が違いすぎて、記事には出来ませんよ‥」
と呟いた。クッキーがその様子を見て
「‥で?こいつらは‥?」
と将吾達を見ながら言う。
「‥彼が物凄い剣の使い手なんです。神主のようだし‥どこであの力を?」
とタツが将吾に尋ねる。
「‥物心ついた頃には使えました。お袋からは『気味悪がられるから、人前で絶対に使うな』と教えられてきたんで‥」
将吾が答えると双葉が
「‥確かお母さんが『ゲートの守人』をしていたって‥。それってアキ君と同じ‥?」
と聞く。将吾がアキ君を見ながら
「‥さっきの話しを聞く限り、同じだと思う‥」
と答えた。すると菅野が
「‥ちょっと待ってくれ‥。将吾は生まれつきあの力があって、アンタ達はその黄泉くじとやらで力を得たんだろ?じゃあ、あの鴉天狗の爺さん達はどうやって力を得たんだ?アイツらも全員、生まれつきか?」
と聞く。
「‥力を得た、と言うより引き寄せたって言った方が近いかな‥みんな元々の守神を、黄泉くじによって黄泉国より引き寄せたって感じ‥‥。黄泉くじを使っての神主化は閻魔省の特権なのよ。閻魔省の調査員が認めた者だけ、黄泉くじを引いて神主になる事が出来る。でもそれ以外の神主化は、生まれつきじゃない限り、黄泉国の条例で認められていないの。現世と黄泉国は原則『お互いに干渉しない』って言う決まりがあるからね。今日の大山や罔象女神は黄泉くじによる神主ではない。どうやって神主になったのか‥?それに、クッキー達とは何かが違うんだよね‥‥上手く言えないけど、何かが違う気がする‥」
と、淤加美が考え込むと
「‥それについては保安局も調査しているようです。今の時点では、魔月妃がこちらの世界で、何らかの方法で神主を作り出し何かを企んでいる、と言う事しかわかりません‥」
と冬美が答えた。
「整理すると、赤口と言う火之迦具土の神主が火事を起こして魂、つまり霊体を集めていた‥‥。そして奈美ちゃんの事件と黒い蟷螂の事件。いずれも呪力を付加された霊体によるもの‥‥呪力を付加させた何者かがいる‥‥そして今回の大山と百足の事件。百足も呪力を付加された霊体と見られる‥‥て事は、これら全ての事件は一つの事件の可能性が高い‥‥」
と、タツが言うと
「‥考えられるね‥‥そしてその背後に魔月妃がいる可能性がある‥‥目的はなんだ?」
と淤加美が考え込んだ。するとクッキーが
「‥戦争でもする気なんじゃねぇか?」
と呟く。一同が顔を見合わせた。
「‥‥神主を戦力として考えたら、とんでもない強さだ。それに蟷螂や百足は知らねぇが、霊体が強かったらどんな国にでも勝てんじゃねぇか?霊体なら核兵器だって怖くねぇからなぁ」
クッキーが続ける。するとアキ君が
「意外と一理あるかもしれませんね‥。それなら神主や霊体を集めていた理由もわかります‥‥最初は呪力を与えた神主の大量生産をやろうとしてた‥‥だけど神主を一人作り出すのに、人選やら適正やらで結構な時間と労力が掛かる‥‥だから手っ取り早く戦力増強する為に、魂に呪力だけ与えた化け物の生産に切り替えた‥‥それが松田って人や奈美ちゃんだった‥‥」
と淤加美が言う。途端に奈美ちゃんが
「‥そんな?‥‥危うく殺戮兵器にされる所だったの‥?」
と言って青ざめた。すると
「‥保安局と協力してその線でも調べてみます。では、我々はそろそろ調査に戻ります」
冬美が淤加美に言うと、小雪と冬美は戻って行った。時計を見ると、すでに遅い時間になっていた。とりあえず今日はここまでとして、解散する事となった。斎藤と菅野は都心の方まで戻らないとならない。将吾は八千代駅の近くに住んでいるそうだ。そしてみんなはそれぞれ、家路へとついたのだった。
都心にある高層ビルの地下駐車場。まばらに車が止まっている。そこを瑞波奈緒恵は一人で歩いていた。そして、とある車の前まで来る。黒いセダンタイプの車で窓ガラスにはスモークが貼られており、銀色に光り輝くアルミホイールを履いている。瑞波はその車の助手席に乗り込む。運転席には若い男性がすでに座っていた。金髪のオールバックで背が高く黒いスーツ姿だ。ネクタイはしておらず、胸元を開けている。鋭い目つきで瞳が赤い。二十代後半ぐらいで、かなりガラが悪そうだ。
「‥で?俺に何しろと?」
男がぶっきらぼうに言う。
「‥戦力調査だ。好きにつついてみろ、との事だ‥‥やり方は任せる‥‥あと、コレの使用許可も出た‥‥」
瑞波が答えながら、小さな箱のような物を男に渡す。箱の蓋には蜘蛛の絵が描かれている。男は箱を受け取ると、ニヤリと笑い
「‥いいのか?‥俺の酒呑童子と茨木童子は加減を知らねぇぞ?」
と言い、車のエンジンをかけた。車のマフラーから爆音が響く。
「‥酒木‥‥やり方は任せるが、くれぐれもやり過ぎるなよ‥‥あくまで戦力調査だ‥」
と、瑞波が釘を刺す。酒木と呼ばれた運転席の男は、答えずにシフトギアを一速に入れた。そしてキュキュキュとタイヤを鳴らしながら、車はどこかへ走り去ったのだった。
斎藤一美は都内のマンションに住んでいた。あの百足事件の次の日の朝、斎藤が出勤しようと自宅マンションを出ると、マンションの前に黒いワンボックスタイプの大型車が止まっていた。そして運転席と助手席のドアが開き、スーツ姿の男性が二人降りてきた。助手席の男性が後部座席のスライドドアを開けながら
「警視庁捜査一課の斎藤一美警部ですね?黄泉国保安局から連絡を受け、昨日の事件についてご説明したい事がありまして‥。少しご同行願えますか?」
と言う。斎藤が黙ったまま二人を交互に見る。すると助手席側の男性が
「ちなみに、貴方に断る選択肢はありませんよ。貴方の上司の許可は得ていますので‥」
と言う。斎藤は溜息をつくと、後部座席に乗り込んだ。後部座席にはスーツ姿の女性が座っていて、斎藤にアイマスクを差し出し
「機密保持の為、ご協力ください。それとスマートフォンもお預かりします」
と言った。斎藤は黙ってスマホを差し出し、アイマスクを付けた。女性はスマホを黒いケースにしまう。おそらく電波を遮断する装置が付いているのだろう。程なくして車は走り出した。車に揺られながら
「一つだけ聞かせてくれ。アンタらは警察か?それとも国に関連する何かの組織か?」
と斎藤が聞く。すると後部座席の女性が
「どちらかと言えば後者ですが、そのどちらでもありません。キイロノイズミ‥と言えばわかってもらえますよね?」
と、答えた。それを聞いた斎藤は、軽い溜息をついてシートにもたれかかった。キイロノイズミ‥‥聞いた事はある。警察でもなく、国に関する組織でもない、独立した謎の組織があると言う事を‥‥。以前とある疾走事件を担当した事があった。その時、キイロノイズミに所属していると言う男が現れ、事件の事を根掘り葉掘り聞いていった。その直後、捜査の打ち切りが決まった。きっと何かしらの圧力がかかったのだろう。同僚に聞くと、同じような噂を聞いた事があると言う。なんとも胡散臭い組織だ‥‥公安はどこまで把握してるのだろうか?斎藤がそんな事を考えていると、車が止まってドアが開く音が聞こえた。
「もう外して大丈夫です」
と、女性の声がしたので、斎藤はアイマスクを外した。そこは大きな日本家屋のお屋敷の前だった。多分、都内のどこかであるのは間違いないだろう。学校の校門ぐらいの大きさの数寄家門を潜ると大きな日本庭園が広がっていた。手入れがしっかりされている綺麗な庭だ。その広い日本庭園を抜けると、大きな玄関がある。先導してくれているスーツ姿の男性が、玄関の引き戸を開けてくれた。玄関で靴を脱いで長い廊下を抜ける。かなり大きな屋敷だ。何回か廊下を曲がると、広い部屋に通された。外国の貴族が使うような洋風の長いテーブルが置いてある。先導していた男性が、そのテーブルの椅子に座るように指示してくる。斎藤が椅子に座ると、隣の部屋から女性が現れた。真っ白な白髪を後ろで束ねていて、白い着物を着ている。六十代か七十代ぐらいだろうか。姿勢がよく、品がある女性だ。女性はテーブルの上座の位置に座った。
「我々の組織の代表の八尾久仁子室長です」
車の中で後部座席にいた女性が小声で紹介してくれた。
「はじめまして。黄泉国対策組織委員会‥‥通称キイロノイズミの室長の八尾です。組織を代表して私が話しを伺います。貴方が黄泉国の者と接触した警察官、斎藤一美警部ですね?」
上座に座る八尾が静かにそして和かに尋ねる。
「‥はい‥‥」
斎藤が答えると続けて
「貴方と接触したのは黄泉国保安局と閻魔省の調査員、それと神主数名と百足型の霊体。以上で間違いないですか?」
と八尾が聞いてくる。
「‥間違いないです‥‥キイロノイズミとは?」
斎藤が警戒しながら答えると、八尾は真っ直ぐ斎藤を見ながら
「この国には我が国と黄泉国と呼ばれる国があって、両国は隣合わせに存在している。私達はこの国と黄泉国を繋げる橋渡しの役目をしているの。古来より黄泉国と我が国は表裏一体。故にトラブルも付き物。私達がこの国を代表して、黄泉国と良好な関係を築けるよう尽力しているのよ」
と言った。斎藤は頷きながらも、頭の中では色々と考えていた。‥‥黄泉国対策組織委員会‥‥キイロノイズミ‥‥要は黄泉国に関するトラブルを、昨日の黄泉国保安局と一緒に解決していく組織‥って所か。昨日の事件がなければ、とてもじゃないが信じられない話しだが‥‥。もし本当だとしたら、この国の最重要機密事項を扱う組織なのではないのか?するとそんな斎藤の頭の中を覗いたかのように
「‥‥私達の事は、国の重要な閣僚数人しか知らないわ。両国はお互いに干渉しない、と大昔に話しあって取り決めたの。だから何かあった時は、私達がこの国の代表として黄泉国の代表と話し合いをしているのよ。他にも色々な条約が定められているんだけど、ほとんどの国民が貴方のように、黄泉国の存在すら知らされていないのが現状よ。大きな混乱を避ける為にね‥‥」
と八尾が言う。なるほど‥。遥か大昔より、国のトップクラスの人間しか知らない超極秘事項‥‥しかしそんな物、この情報社会でいつまでも極秘で通せる物なのか‥?あの雲寄とか言う、記憶を食べる犬を持ってしても隠しきれなくなるんじゃあ‥?それより何より、コイツらを信じてもいいのか?あの黄泉国保安局の神谷が言ってた『上司からの説明』とは、今のこの状況の事を意味するのだろうか?すると八尾が
「‥‥思う所も色々あると思うけど、貴方には今日を持って警視庁捜査一課から外れてもらいます。心配しなくても、上司やお仲間には私から説明しておくわ。そして今後は私達の組織の一員として動いてもらいます。ですが、警察官でなくなる訳ではありません。警察官として、私達に協力してもらっている、という立場になるわね。詳しい事は、そこの近藤と土方に聞いてくださいね」
と言って、車を運転していたスーツ姿の男性と、後部座席にいた女性を指した。そして八尾は椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。すると斎藤が
「‥私は一体何をすれば?」
と八尾に聞いた。八尾は立ち止まり
「‥黄泉国保安局の神谷局長とは、昨日会いましたね?では、黄泉国保安局と連携を取りながら、昨日の事件の重要参考人、大山積次郎の身柄を確保して下さい。特定の条件化以外での神主化は、両国の条約違反なの。神主のような特殊能力者が、こちらの世界で大量発生したら大変な事になるでしょ?もし他にも神主となってる者がいれば、速やかに身柄の確保をしてください」
と言った。斎藤は椅子から立ち上がると、戸惑いながらも敬礼をする。猟犬となるのはいつもの事だ‥‥だが、私を捜査一課から外す‥?しかも今日付けで‥?そんな荒技が出来る権力があると言うことか‥。すると八尾が
「‥戸惑っているわね‥‥無理もないわ。一昨日まで黄泉国の存在さえ知らなかったんですものね‥。少しゆっくりするといいわ‥‥私は今回の件は何か嫌な予感がするのよ‥‥。我が国と黄泉国の関係は賛否両論‥。肯定的な人もいれば否定的な人もいるから‥」
と言った。
「それにね‥‥貴方がこれから先、何を見て、何を感じ、何を思い、どういう行動を取るか‥。私は楽しみでもあるのよ‥‥私はあまりに長生きをしてしまった‥。それ故に人間の良い部分と悪い部分を沢山見てきたから‥‥」
と八尾が言い、続けて
「‥貴方はご存知かしら?私は八尾比丘尼。古より生きる人間。遥か昔からこの国と黄泉国の行末を案じてきたわ‥」
と言った。八尾比丘尼‥‥聞いた事はある‥。人魚の肉を食べて不老長寿になったと言われる伝説上の人物‥。まさか実在するとは‥‥。古よりこの国の政治の奥深い所に関わって今に至るのだろう。だからとんでもない財力と権力の持ち主なのか‥‥。そして八尾は部屋から出ていきながら
「‥淤加美ちゃんに、よろしく伝えておいてくださる?黄泉くじで生まれた神主達が、両国の今後に大きく関係してくるわ」
と言って部屋から出て行ったのだった。八尾が部屋から退席した後、斎藤は再度車に乗せられた。そして都内某所にある、古びた雑居ビルに連れてこられた。狭く暗い階段を登り二階のドアを開くと、そこは小さな事務所のようになっていた。そして、いくつか並んでいるデスクの一つを与えられた。そのデスクの上にはダンボールが何個か積んである。中を見ると捜査一課に置いてあった斎藤の私物だった。昨日の今日でここまでしてあるとは‥。すると、車の後部座席に座っていた女性が近づいてきて
「土方佳乃です。これからよろしくお願いします」
と言った。ショートカットでメガネをかけた真面目そうな女性だ。二十代後半ぐらいで痩せ型だが、どこかおっとりとしているように見える。
「あちらは近藤さんです」
土方が運転してきた男性を指した。近藤と呼ばれた男性は軽く会釈する。彼は近藤勇治と言い、頭は角刈りのような短髪で大柄な体格。きっと元警察か自衛隊関係だろう。こちらも二十代後半ぐらいで、無口な武闘派と言った感じだ。斎藤も会釈で返した。
「助手席にいた人は?」
斎藤が土方に聞くと
「彼は藤堂さんです。藤堂さんもキイロノイズミの一人ですよ。今、別の仕事で外してます」
と土方が答え
「我々も元々は警察官でした。みんな黄泉国の者となんらかの形で関わり、ここに来る事になったんです。ちなみに黄泉国の者と一度でも関わると、霊感体質になります。霊体が見えたり会話が出来るようになるんですよ」
と続けた。なるほど。昨日、淤加美から黄泉国についての一通りの説明は受けてはいるが、それは初耳だ‥。
「他にメンバーは?」
と、斎藤が聞くと
「東京支部はこれだけです」
と、土方が言いながら斎藤のスマホを返してくれた。黄泉国に対する組織がたったの三人?あまりに少なすぎる‥。
「少ない‥って思いましたよね?私も最初はそうでした。でも、黄泉国保安局も協力してくれるし、そこまで大きな事件も今までなかったので、なんとかやっていけてました‥‥つい先日までは‥ですが‥‥」
土方がデスクを整理しながら言う。きっと千本町の事件と先日の百足の事件の事を言いたいのだろう。確かに立て続けに大きな事件が起きている。今まではこういった大きな事件はなかったらしい。斎藤が受け取ったスマホを見ると、島田や同僚から鬼のような着信履歴があった。メールも凄い数が来ている。急に捜査一課を外されたのと、姿を消した事を心配してくれているのだろう。斎藤は溜息をつくと
「‥当然、仕事の内容は他言出来ないよな?」
と確認する。土方は目を見開き、当然だと言う顔をして何度も頷く。斎藤は今受け取ったスマホを土方に渡すと
「‥すまないが頼みがある。コイツを処分しといてくれ。それと新しいスマホが欲しい‥」
と言った。
斎藤がキイロノイズミに加わった数日後、八千代市の街の中を一台の車が走っていた。黒いセダンタイプの車、ホイールが銀色に光輝いている。運転しているのはあのガラの悪そうな若い男、酒木荊羅だ。助手席には瑞波奈緒恵が乗っている。
「‥この辺か?大山の爺さんが神主に遭遇した所って‥」
酒木が瑞波に聞く。
「‥もっと街はずれの方だ。八千代市の市街地を抜けて山の方へ向かった先だ‥」
瑞波が答える。すると酒木が
「じゃあ、奴らの根城はこの辺りじゃねぇのか?」
と言い右側の方を見る。そしてニンマリ笑うと
「‥奴らを誘き出すのに良さげな場所を見つけたぜ‥」
と言う。酒木の見つめる先には、谷川総合医療センターの大きな建物があった。
<人物図鑑>
名前:武藤将吾
別名:将吾 将吾君
年齢:二十六歳
守神:建御雷神
能力:建御雷神による力の増幅
霊剣 布都御魂を使った剣術
備考:フリージャーナリストの菅野のアシスタント
母子家庭で母親が黄泉国のゲートの守人だった
母親の死後、菅野が面倒を見る




