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第六話:この世の地獄

 翌日、いつもの時間に、俺は学校にやってきた。

 相変わらず、教室に白崎の姿はない。

 

「おはよー」


 先週の内は、白崎が不在な状況に、クラスメイトの皆が不安そうな様子だったが、週も明けるとすっかり現状に慣れ始めたようだった。

 朝のショートホームルームが始まるまでの間、俺はスマホでSNSを眺めていた。


 白崎のアカウントは、例の炎上騒動に繋がった投稿以降、一度たりとも投稿がなされた形跡がない。

 しかし、例の炎上騒動を起こした投稿は、昨日に比べていいねやフォローの数が増していることが確認出来た。

 どうやらまだ、世間は白崎の炎上騒動に興味関心を示しているようだ。


 ……でも、昨日よりはいいねやフォローの伸びも緩やかになってきている。


 昨晩、ネットで炎上時の対応について調べてみたが……鉄則として、感情的な反応を示すことはNGらしい。

 今回の炎上は、白崎に一切の非がないとはいえ……有名人である彼女がネットで現状に対するお気持ちを表明したら、賛同してくれる人も中にはいるだろうが、反感を示す人もいるに違いない。

 どういうわけかネットでは……投稿者が悪いか否かも度外視にして、感情的なお気持ちを表明した人間に厳しい目を向ける奴が一定数いるのだ。


 そして今は、そういう反感を示す人……敵を一人でも多く作らないことが、白崎には必要なはずだ。


 そういう点では、あの炎上以降、新たなメッセージを投稿しない白崎の対応は正解のような気がした。

 ……ただ、白崎もこの先ずっと、今のように無言を貫き続けることは不可能だ。


『ねえ、倉本君。あたし、どうしたらいいと思う……?』


 昨日、少しの間彼女と話して思ったが……多分、彼女はファッション系インフルエンサーとしての活動をまだ辞める気はなさそうだ。

 もしまだ、彼女がインフルエンサーとしての活動を続ける気なら……当然、再びSNSを通じてメッセージを発信しないといけなくなる。


 その時、世間は彼女に……個人情報が流出してしまった彼女に、どんな反応を示すのだろう?


 ……白崎の件で頭を悩ませていたら、一日の授業が終わっていた。

 まったく、無駄なことに脳のリソースを割いてしまった。

 炎上騒動に対して、俺はまったくの素人。そんな俺が白崎の今後をどうするべきかなんてことを考えたって、碌な妙案が浮かぶはずはないのに……本当、一日を無駄にした気分だった。


「じゃあ倉本さん、今日もよろしく」

「はいはい」


 職員室、先生から白崎宛のプリントの束を受け取った。


 校庭の方からサッカー部の元気な声。

 校舎からは吹奏楽部の演奏の音色。


 そんな同世代の若人が快活に部活動に勤しむ声を聞きながら、俺は白崎家へと向かった。


 そして、今日も不審者等に出会うことなく、無事に白崎家に到着した。


 今日こそプリントをポストに突っ込んで帰ってやる……!


 俺の中に、謎の反骨精神が芽生え始めていた。

 周囲をキョロキョロ伺いながら、俺はポストにプリントを収めようとした……。


「倉本君」


 背後から急に声をかけられ、俺はびくっと体を揺すった。

 ゆっくりと声をかけられた方を見れば……そこにいたのは、帽子にサングラスを被った女性が立っていた。


 間違いない。

 変質者だ……っ!


「なんでスマホを手に取ってんの、倉本君」

「……その声、お前、白崎か」


 帽子を目深に被り、サングラスをかけた女性の声は……よく聞くと白崎の声と瓜二つだった。


「え、もしかして今、あたしのこと変質者だと思ってた?」

「思うだろ」

「……君、中々酷いこと言うね」


 白崎の声は、少しだけ怒っていた。

 というか、この前まであまり話したことがなかったからわからなかったが、この女、意外と冗談が通じないな。


「……家に籠りっぱなしだと、ストレス溜まるじゃない。だから、たまには散歩でもしようと思ったの。でも、顔を晒すのは怖いから……この格好ってわけ」


 なるほど。納得の理由だ。


「……今日もありがと。プリント」

「ん。ああ、まあ……大丈夫だ」

「……お茶飲んでく?」

「いや、帰る」


 と言ったのだが、俺は何故か、白崎に手首を掴まれた。


「……何?」

「相談」

「……相談するようなことないだろ?」


 今朝、SNSを見た限りだと、白崎の炎上騒動はまだ延焼しているものの、収束の気配は見せつつある。

 このままいけば、来月にも学校に戻れるのではないか、とぼんやりと思っていたくらいだ。


 そんな状況にも関わらず、一体、今度は何を相談したいと言うのだ。


「……これ」


 白崎は、自分のスマホの画面を俺に見せてきた。

 白崎のスマホの画面は、例のSNSが開かれていた。

 この女、炎上させられたにも関わらず、まだこのSNSを開いているのか。

 中々の強心臓ぶりだ。


「……はぁ」


 俺はため息を吐いて、白崎に促されるまま、SNSのメッセージを読んだ。


『【この世の地獄】フォロワー数十万人超え大物JKインフルエンサー、フェミニストに炎上させられた挙句、実名が流出させられる』


 白崎が見せてきたものは、所謂暴露系インフルエンサーの投稿。

 そして、暴露系インフルエンサーが投稿した内容は……まさしく、今回の白崎の一連の炎上騒動のことだった。


「……うわぁ」


 中々最悪なタイミングでの投稿に、俺は思わず苦虫を嚙み潰したような顔を作った。

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