第十一話:友達
翌日、学校に着いた俺は、教室で騒がしいクラスメイト達の様子を観察していた。
昨日思ったことだが、白崎のインフルエンサーの活動再開に一番必要なことは、多分クラスメイト達からの同意である。
果たしてクラスメイト達は、白崎が活動を再開することをどう思っているのか。
なんとかしてそれを確かめる術はないか。
それを探りたいと思っていた。
しかし、生憎俺はこのクラス内に友達がいない身。
探りを入れるにも、普通に話しかけたら引かれることは目に見えている。
だから、観察だ。
話しかけるのではなく、観察するだけなら、いくらやっていても周囲から引かれることはないだろう。
俺はクラスメイト達の様子をチラチラと観察した。
これは全て白崎が活動再開するための行為。
真っ当な理由の行為……!
いくらやっても、引かれるはずは絶対にない!
「ねえ、なんだか倉本君から視線を感じない?」
「ね。なんか怖い……」
普通に引かれた。
おいおい、嘘だろ……。
陰キャは視線を送っただけで引かれるのかよ……。
自分の陰キャとしての能力の高さに激しく嫉妬しそう。
多分、そんなことを言っている場合ではない。
……困った。
どうしよう。
これじゃあ、白崎の活動再開の機をうかがうどころか、クラス内で俺が浮いてしまう。
……あ、もう浮いているか(笑)。
そんなこんなで、気付いたら放課後。
「それじゃあ、倉本君は後で職員室に来るように」
帰りのショートホームルーム。
いつも通り俺は、担任の先生に職員室に寄ってから帰るように指示された。
……今日も、白崎家に行かないといけないのか。
少しだけ気が重かった。
……白崎家に行くということはつまり、今日もあの単独ファッションショーに付き合わさせられるということなのだから。
「ふう……」
「倉本君、ちょっといい?」
この後待ち受ける過酷展開にため息を吐いている俺に、声をかけてくる人が一人。
声の方に振り返ると、そこにいたのはクラスメイトの一人。
名前は確か……梶谷だったか。
「なんだ。俺、これから用事あるんだけど」
その用事が長引きそうだから、さっさと行きたいんだけど……。
本当、気が重い。
「……ごめん」
ぞんざいな言い方だったせいか、謝罪をされてしまった。
「あ、いやその……すまん。言い方が悪かった」
「……」
「……」
気まずい。
なんだこの雰囲気。
「倉本君、最近ずっと職員室に呼び出されてるね」
しばらくして、梶谷が言った。
「ん? ああ、まあ……色々あってだな」
「そうなんだ」
「……おう」
「……白崎さん関連のこと?」
ぎくっ。
「合ってるんだ」
「……お前、どうしてそれを?」
「クラス中の噂だよ」
「噂になってるのか」
「うん」
梶谷は頷いた。
「白崎さんの個人情報を流出させたのが、倉本君なんじゃないかって」
……梶谷の発言を、俺は中々飲み込むことが出来なかった。
白崎の個人情報を流出させたのが俺……?
まったくの濡れ衣だ。
一体、どうしてそんな謂れのない罪を被せさせられないといけないんだ。
「違うの?」
「当たり前だろ」
「そうなんだ」
梶谷は納得した様子だが、本心はどう思っているか、読み取れない。
「なんでそんな話になってんの?」
「……なんでって、最近の倉本君、随分と動き回っているからだと思うよ」
「動き回ってる……?」
「先生に毎日職員室に呼ばれたり。白崎さんの個人情報がバレた次の日くらいに、朝のショートホームルームがなくなったと思ったら、君が職員室に呼ばれたり。そういうの」
俺が毎日職員室に行っているのは、白崎にプリントを届けるため。
白崎の個人情報が流出した翌日、職員室に呼ばれたのも……白崎親子から謝罪を受けたため。
ただまあ……部外者から見たら、確かに最近の俺周りの行動は怪しく見えるか。
高校生なんて、職員室に一度でも呼ばれる時点で異常事態だもんな。
「……ねえ、本当に君は白崎さんの個人情報をばらしてないの?」
「そんなこと、俺がすると思うか?」
「……ごめん」
思われてた。
ちょっとだけ悲しかった。
「わかった。じゃあハッキリ言う。俺は白崎の個人情報を流出させた犯人ではない。毎日職員室に呼ばれているのは、白崎に宿題を届けるため。そして、白崎の個人情報がバレた次の日、俺が職員室に呼ばれたのは……前夜、あいつの家に入った不審者を捕まえたからだ」
「……にわかには信じがたい」
「だろうなぁ」
いきなりこんな話を信じろ、と言っても……普通は信じられるものじゃないだろう。
さて、どうしたものか。
……白崎家に一緒に行くか?
と聞きたくなったが……住所を教える行為自体がリスクか。
何故か今俺は梶谷に個人情報流出の犯人と疑われているが……正直俺も、梶谷が今回の犯人ではないと信頼しきっているわけではない。
仮に梶谷が個人情報流出の犯人ではないとしても、梶谷に白崎家の住所を伝えることで、梶谷がまた別の人間に白崎家の住所を伝え……最終的に、犯人に伝わってしまう可能性だってある。
「……お前、白崎の電話番号とか知らないの?」
「え?」
「俺の言葉は信用出来ないなら、直接本人に聞いてくれよ」
結局、それが一番話が早そうだ。
しかし、梶谷は俯き、微妙な顔をしていた。
「……迷惑じゃないかな?」
「迷惑?」
「……今、白崎さん、人間不信になってるんじゃないかなって。炎上騒動も個人情報の流出も、彼女何も悪くないじゃない。……真面目に活動していたら他人に貶められて、誰も信用出来なくなっていてもおかしくないでしょ?」
……まあ、そう思うよな。
「大丈夫だ」
「本当?」
「ああ、多分あいつ、友達と久しぶりに話したいと思っているから」
「……わかった」
「じゃあ、俺は行くから」
梶谷を置いて、俺は教室を後にした。