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第七話 貴重な女子を賑やかしに使うでないぞ!

「み、皆! 避けてえぇ!」


 戦場に、あざとい系ピンク(※変身カラー)女子の叫び声が響き渡る。


 一歩退いた位置で、ごく冷静な声で、カチャリと眼鏡のずれを直しながら告げるのは水色女子。


「雅仁様の必殺技が完成し発動するまで、あと五分掛かります。理論上、間に合いません」

「こ、ここは私に任せなさい」


 決め台詞と共に、進み出てきたのは紫スーツの女子じゃ。


 見事な凹凸にくびれた体型、緩やかに巻かれた豊かな髪を靡かせたグラマラスな美人。

 じゃが、強気な語調に反して、あからさまに分かるほど自信なさげに手が震えておる。


「ち、地球防衛軍の天才児と謳われた私に掛かれば、こんな雑魚の百や二百、造作もなく蹴散らせ……蹴散らせますわ! ……っ、きゃあっ」

「危ない、ゆかりちゃん!」


 勢い良くピンク女子が飛び付いて、紫女子と絡まり合うようにごろごろと地面を転がった。


 さっきまで彼女が立っていた位置に、鋭い光のビームがカッ! カッ! と突き刺さる。

 砕け散った地面が細かな飛沫を撒き散らして、周囲にもうもうと煙が立ち込めた。


「な、何よ! わ、私のことなんか放っておきなさいな!」

「駄目だよ、ゆかりちゃん」

「は、放しなさい! 私なら一人で十分戦えるんだから……きゃあっ」


 再び悲鳴が上がった。


 ピカッ! と稲妻が輝いて、二人の前に進み出てきたのは……


「ヒャーヒャッヒャ! この地は悪の組織ジャンガリアンが占拠した! 正義を名乗る愚か者どもめ、ここで引導を渡してやろう!」


 何がモチーフなのかさっぱり分からん怪人じゃ!







「…………」


(何じゃ、あれは)


 全体的にもさもさした怪人。


 獣のように毛足は長く、ボロ切れのようなものを纏いつかせ、その合間から数本の触手めいたものを蠢かしておる。どこに口が隠れておるのかさっぱり分からんが、声はやたらキンキンと響く。何か機械のようなものも露出しておるから、どこかに拡声器が付属しておるのか?


「なあ、ジョーカー。本日の怪人のコンセプトは何なのじゃ」


 素朴な疑問を抑え切れなくなった妾は、腕の中の参謀を見下ろしながら訊ねた。


 ジョーカーが、短い前足をクッ! と動かした。


「あり合わせ、だそうです」

「は?」


 あり合わせ?


 悪の組織の怪人と言ったら、ただヒーローたちに倒されるためだけに存在する気の毒な生き物ではあるが、少なくとも、何かのモチーフで統一感を出してあったりするものじゃ。妾はそう思っていたのじゃが……


「金がありません。昨今、デザイン料も高騰していますので」

「……そうなのか」


 世知辛い世の中じゃのう。


「金がない? それは不思議ですね……どうやったら枯渇するんですか?」


 生まれて初めて聞く概念ですね、という顔をしておるのはルシアンじゃ。


 これまで見たこともないような純粋な驚きの表情を浮かべておるのが腹が立つのう。


「……それで、我々はいつまでここで待機しているのだ?」


 唸るように問いかけてくるセイラン。


「それは……」


 それはな……


 妾だって知りたいわ!


 ここは、戦場から少し離れたところにある高いビルディングの屋上じゃ。本日の戦場は都心真っ只中、しかも通勤ラッシュの時間帯。破壊されまくっておる山手線は、定刻より5分の遅れで済んでいるらしい。見下ろす地上は阿鼻叫喚じゃが、それでも真面目に出社する人々が半数、遅刻してでもヒーローたちの戦いを撮影してネットに投下している連中が半数。


 妾たちは高所におるので、にわかパパラッチ共には気付かれておらぬ。独占的に撮影されて、地上波に流されるというわけじゃ……この世界の設定、やはり何か「変」じゃの?


 そう、これは世界の強制力のようなもので、妾たちは「今日の放送枠」に縛られておる。今、妾たちに与えられている「枠」はほんの少し。具体的に言うと、ヒーローたちの戦いが終わった後、最後の最後で大写しになり、意味深な表情で意味深に「ふ……見せてもらったぞ、ヒーローたちよ」「楽しみにしておるぞ……」と呟いて去るだけの出番である。


(虚しいのう……)


「何故、俺に斬らせぬのだ……」


 カチャリ、と剣の柄を鳴らしながら、セイランが唸る。


 うむ、全くじゃな!


「妾たちが出たら、ヒーローたちが負けて話が終わってしまうから駄目なのではないか?」

「……それで問題ないのではないか?」

「そうじゃのう……」


 妾、遠い目をするしかない。


 本日の天気は曇り。頭上には、妾の心境を表すかのような曇天が広がっておる。風は強め、空に浮かぶ雲はぐんぐんと流れ去り、地上の争いで湧き起こった煙を含む空気が、時折こちらまで流れてくる。



「雅仁様は、私がお守りする!!」



 おお……


 怪人の前に走り出てきた青色の人影が、巨大な防御盾を展開したようじゃ。


 この高所から見下ろしていても分かる。青というより藍に近い、深い紺青色。黒髪、長身の青年は、雅仁の従者兼幼馴染(念のために言っておくが、公式で恋人とは明言されておらぬ。確実に出来ておると誰もが思っているだけじゃ)、吉影守じゃな。


 攻撃技はたいして持ち合わせておらんため、戦闘力としては「幼少期から剣道を嗜んだ、一般人より多少強い高校生」レベルでしかない。セイラン辺りと打ち合ったら瞬殺されるであろう。じゃが、彼の技能は防御技に全振りされており、その防御盾は最終的に隕石やジェット機が落ちてきても防ぎ切るほどの鉄壁さを誇る……らしい。マジか。


 今はまだ物語の序盤ゆえ、守の防御力もそこまで高くはないのじゃが、そこは主、雅仁を想う心で耐え、耐えに耐えて、毎回の怪人どもの攻撃を凌いでいるうちにレベルアップしていく。


(さっきも、「雅仁様はお守りする!」と言っておったな)


 女子組全無視か。


 さっきまで前面に出て、わちゃわちゃ、ころころしていた女子どもは何だったのじゃ。賑やかしか?


 五人いるヒーロー枠のうち、三人分を女子に割いておいて、いざ出番となるとこの仕打ち。いずれもタイプの違う可愛らしいおなごじゃというのに、この扱いは何じゃ。勿体ないにも程があるのではないか?



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