第六話 虚構の世界、現実BL風味
※この話は脇キャラにBLGL要素が発生します(タグとあらすじに記載)
この世界は、特撮ヒーロー活劇「ファイアリーソウルヒーローズⅡ」の世界じゃ。
我々の世界と似てはいるが、どこか非なる世界。異なる地球。
一番大きな違いは何かというと──この世界の地球には、大量の「銀河帝国人」が住んでおる。
銀河帝国というと、何故か悪のイメージがつきまとうのじゃが、この帝国も、「悪」の帝国じゃ。なにせ、数千年前から地球の侵略を企んでおったらしいからな。分かりやすく、侵略=悪ということじゃな。
しかし、長いこと地球人の振りをして地球に潜伏した結果、奴らはすっかり地球\大好き♡/人種になっておった。ピラミッド内部に怪文書を残して後の大論争のきっかけを作ったり、猫を崇める宗教を広めたり、動物園のシマウマをハート模様にしてみたり、エイプリルフールのガセネタを全て実現させたり、そんなことばかりしてこの数千年を満喫していたらしい。力ある者に、暇と遊び道具を与えるとそんなことになるのじゃな……
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銀河帝国人のあいだで今、最も熱い別荘地、それが地球!!
なんと、銀河帝国の皇子もこっそり地球の高校に留学中!!!
君も地球に進学して、皇子の寵を狙ってみよう!!
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(平和(?)でなによりじゃ)
──じゃが、この平和は長続きしなかった。
時は20××年。銀河帝国の母星にて、叛乱が起きる。台頭してきたのは、早急な地球侵略を訴える一派。
いつまで地球で遊んでおるのか、さっさと侵略せい! ということじゃな。
地球防衛軍のヒーローたち、隠れ潜んでいた地球贔屓の帝国人たち、地球侵略を目指す帝国叛乱軍。この三つの勢力が戦い、協力し、時には恋だの友情だの芽生えちゃったりしながら、最終的には地球を守り抜いた。帝国の皇子はヒーローたちと握手して、「お前たちとの友情は忘れない……!」と誓いながら母星に帰っていったのじゃ。めでたしめでたし(ファイアリーソウルヒーローズⅠ完)
Ⅱの世界は、その二十年後から始まる。
とある地球の高校の入学式。桜舞い散る中、一人の青年が現れた。父親から譲られたという白のブレザーに身を包み(なお、この高校の制服は黒の詰襟である。どういうことなのかさっぱり分からん)、キラッキラの笑顔で全校生徒のみならず教員&保護者を魅了し切った超絶美形。
彼は前作皇子(現銀河帝国皇帝)の息子で、父の想い出の地を好み、幼い頃から乳兄弟(地球人)の家に転がり込んで過ごしていたという。
彼こそが、この物語の主人公じゃ。やがて舞い込む悲報。再び母星が叛乱で陥落、父の皇帝は行方不明!! その報を受け、地球で仲間を集め、協力者たちと共に、新たな祖国奪還の戦いに挑むのじゃが……
深く考えんでも分かると思うが。
この物語には、根本的な欠陥がある。
主人公に共感ができぬ。
いや、善玉には違いないのじゃが、変身もののヒーローといえば、売り出した変身グッズを手に、お子様がたが「変身!」と真似て楽しむまでがお約束。視聴者が共感しやすい、どこか親しみやすい要素があるべきじゃ。
ところが、今作の主人公と来たら……モデル体型のすらりとした長身、容姿端麗なハーフ顔(この時点で、すでに共感のハードルが高い!)、銀河帝国語と地球の主要言語を淀みなく話し、品行方正、頭脳明晰、清廉至極。ついさっきまで新入生だったはずなのに、次に登場したときには生徒会長になっておる(この学校のシステムはどうなっておるのじゃ?)
女子受けはさぞかし良かろう、ならば少女漫画風主人公というべきか? と思えば、あまりの秀麗さに学園中の女子が近付けぬ。毎日の登下校の際には、左右の壁に分かれた生徒が顔も上げず、頭を下げて無言のうちにお見送りするという……もはや新興宗教か何かかの?
そして、彼のヒーロースーツの色はスターシルバー(主人公といえば普通、赤ではないのか?)
名前は雅仁・セイレス・ジェス・アヴァルティーダ。長い。覚えにくい。もはや、児童受けというものを遥か地平の先に投げ捨ててかかっておるな。
女子受けのみを狙ったのか? スポンサーの意向か? それでグッズ売り上げは大丈夫なのか? などと、視聴者の不安と期待を煽りに煽った主人公であったが、その後、残りのヒーロー四名中、女子が三人を占めることが判明した。これは、積極的に女子を登用して新時代のヒーロー像を気取ったのか、それとも、旧来男子向けラブコメのごとく主人公用ハーレムが築かれるのか?
──ほどなく判明した結果じゃが、女子三名を華麗にスルーして、主人公は従者と愛を育んだ。
……念のために言っておくが、従者は男じゃ。
彼の名前は吉影守。生粋の地球人であるが、代々の先祖は地球潜伏中の帝国人に仕え、時には帝国皇族の乳母、お守り役を託されてきたという家柄。表向きは剣道道場を営んでおり、その長男である守も、帝国皇族に対する忠義を心身に叩き込まれて育った。常に雅仁の幼馴染兼乳兄弟兼従者として付き従っており、日常パートではお揃いの紺の着物を纏い、戦闘時には命を賭けて雅仁様をお守りする気迫と覚悟を見せる……
(……それはまあ、一部の者には美味しい設定であったのう)
結局、これで売上の数値が出たのかどうか。恐らく、変身グッズ等はあまり売れなかったであろう、と予測するが、実際のところは良く分からぬ。本当に、何を狙った設定だったのであろうか……まあ、その辺の話はもはや、気にしても仕方がないことではある。
この世界は、妾にとっての「現実」となってしまったのじゃから──
この世界が現実、ということは。
虚構のBLを楽しむ楽しまない、好きか嫌いか、などという次元の話ではないのじゃ。
妾は悪の組織の幹部として出動するたびに、毎回毎回、男子二人の熱いやり取りを特等席(目前)で、現実として見せつけられておるのである。
愛らしいのじゃロリの目も死ぬというものじゃ……