第二十九話 なんじゃこれ……?
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号外!! リリス皇女に付き従う少年の正体が判明?!!
「我々取材班は混乱を極める銀河帝国内部で情報を集め、昨日現れた悪の組織の美少年について、信頼できる筋から話を聞くことが出来た。その際立つ容姿、そして行使している力から、リリス皇女(7)の婚約者であるルシアン・シュカ・ディルク・ラスシェングレ公爵(11)で間違いないと思われる。その血筋と能力を買われて、リリス皇女が生まれた瞬間から結ばれた婚約であるという。リリス皇女が行方不明になる直前まで、二人は公式な婚約者として扱われていたが、まだごく幼く、婚姻も先の話であることから、周囲は微笑ましく見守っていたようだ。
婚約者であるルシアン公が付き従っているという事実、そして黒髪の少女を守るような行動を見せているという事実は、この少女こそリリス皇女であるという情報を裏付けるものである。」
雅仁様のコメント「婚約者? 確かにいたが、あまり深い関わり合いは無かった印象だ。二人とも子供なのだし、政略的なものなのだから当然だろう。それより、悪の組織で妹はさぞかし苦労して、辛い思いをしているだろうと思う。無事に取り戻すことが出来たら、遥か先の婚姻のことなど考えず、平穏な暮らしを送らせてやりたい」
悪の組織の無名さん(26)のコメント「私は反対ですね。そもそも婚姻を決めるような歳ではありませんし、彼女の婚約者としては力不足なのでは。もっと頼りになる、私が認めた相手でなければ、嫁にやることはできません」
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くっきりとした高画質で、ルシアンの顔を斜めから撮った写真が大きく掲載されている。新聞社としては、確実に売れる号外として、なんとしてもルシアンを取り上げたかったのであろう。それは分かる。分からないのは、
「……なあ、なんでお主が取材を受けているのじゃ? しかも頑固親父の立場でコメントを出しおって」
この男に取材した報道陣は何を考えているのじゃ?
突っ込みたいところは沢山あるのじゃが、かろうじて妾はそうとだけ言って、ギギ、と機械的にエルド教官の顔を見上げた。
いつもの通り、何を考えているか分からぬ細面じゃ。その目に巻かれた包帯が外される様子もなく、その唇に浮かんだうっそりとした笑みが消えることもない。
(よく取材したのう、こんな怪しい男に)
「別の番組の取材がありましたからね、そのついでです」
「別の番組?」
「あれですよ」
エルド教官の指し示す先、スクリーンの中で、番組は新たな展開を見せていた。
レポーターのお姉さんが、スタジオに現れたゲストにマイクを突き付けている。
それは……とても見慣れたゲストであった。
「いらっしゃいませ~! なんと、本日は、悪の組織の一員である無名さんをお呼びしました。無名さん、早速ですが、無名というのは名前なんですか?」
「本名ではありませんが、そう呼んで下さって結構ですよ。悪の組織はそう簡単に名を明かすものではありませんので」
「なるほど、かっこいいですね~」
……登場の度に大声で名乗っておる妾に対する挑戦かのう?
「無名さんは、リリス皇女と看做されている少女と一緒にいるんですよね。一体どんな関係なんですか?」
「そうですね、保護者のようなものですね」
「リリス皇女を守っているんですね! なお、無名さんは謎の剣豪に加え、雅仁様をボコボコにしていたようですが……」
「それはまあ、敵同士ですので仕方ありません。それが戦場の習いというか。ヒーローたちのファンには申し訳ないですが、弱ければ淘汰されるだけですから」
「わー、無慈悲ですね!」
……なんじゃろうな、このノリ。
妾がちらりと視線を向けると、ルシアンも同じように死んだような目で画面を見ていた。この状況で、さっきまでの怒りを持続できなかったようじゃ。妾もその気持ちは分かる。
番組は謎の明るさで進行し、エルド教官が大量の的を全て投擲武器で射抜いたり、絶対破られないと評判の強化盾を粉々にしてみせたり、空中に浮かせたウインナーを一閃でタコさんウインナーにして見せたりしていた。
「彼女の好物なんですよ、タコさんウインナー」
「わあ、皇女様なのに庶民的なんですね。親近感持っちゃいます」
スタジオが賑やかに盛り上がる一方で、
「……そうなんですか?」
「いや、そんな覚えはないが……」
ルシアンと妾はぼそぼそと会話を交わしていた。
エルド教官がやけにタコさんウインナーを勧めてくるなとは思っていたのじゃが、妾の好物だと思われていたとは知らなんだ。
(一体どこ情報なのじゃ?)
眉根を寄せる妾には全く関わりなく、賑やかな話は続く。
「やはり、彼女の将来の結婚相手には、このぐらいのことは出来て欲しいですね。顔がいいとか、地位と身分が高いとか、そんなことではなく、愛情を持って栄養管理をしてくれる、細かいところまで気配りが行き届く、そういうことが大切です。挑戦する意気込みは買いますので、いつでも私の屍を乗り越えていけ、そう言いたいですね」
「いや、なぜ、お主の屍を乗り越えねばならんのじゃ……」
妾、そう呟いてしまったのも仕方がないことだと思うのじゃ。




