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第二十八話 なんじゃこれ

「前から思っていたんですが、レジーナの婿は、誰よりも強く、心がけも立派な、親孝行な青年であるべきです。おいそれと、その辺の馬の骨にやるわけにはいきませんね」

「……へえ。馬の骨、ですか。この僕が……?」


 すごい。


 あのルシアンを一瞬で激怒させたぞ、エルド教官が。


 ルシアンも温厚な人柄というわけではない、むしろ短気な方だと思うのじゃが、それを傍目には隠し通すのが彼の流儀である。だというのに今、ルシアンの足元はピシピシと細かなひび割れが出来ておるし、金色の殺気が抑え切れず溢れ出ておる。


(「馬の骨」とか言われたこと無さそうだものな)


「……なあ、妾、まだ幼女じゃし、婿の条件など考えたこともないのじゃが……?」

「レジーナ、これは貴女の意思とは関わりのないことです」

「姫は口を差し挟まないで下さい」


 一斉に拒否された。


「な……」


 絶句する妾の前で、エルド教官が挑発的にふふ、と笑ってみせる。


「せっかくですから、今ここで、皆にも見てもらいましょう。昨日収録したばかりなのですが、ちょうど今、この時間に放映されるそうなので」


 この研究所は奥に行くほどごちゃごちゃと物が積み重なって、熟知した者でなければ無事には歩けまい、という惨状なのじゃが、我々がいるのは敷居を跨いだばかりの入り口付近である。


 いささか殺風景なほど片付けられて、片側の壁がぽっかりと空いていた。そこに巨大スクリーンが下りてきて、映像が形を結ぶ。


 そして、上映会が始まったのであった。






(なんじゃこれ)


 始まったものの、気もそぞろ、目も虚ろで、妾はなかなか映像に集中できなかった。


(何が始まったのじゃ……?)


 セイランが暴れていた時のように、妾の部下同士、身内同士でいきなり斬り合いが始まらなかったのは良かった。良かったのじゃが、代わりに始まったのはMHCみんなのヒーローチャンネルである。


 この状況に、思考がついていけない。



「皆、元気かな~?! 今日もMHC! 皆の! ヒーローチャンネル!!」



(元気じゃのう……レポーターのお姉さんが……)



「昨夜から繰り返し速報をお伝えしていますが、ここでもう一回、昨日の大事件を振り返ってみましょう! ダイジェストでお送りします! まずはこれ!」



 画面いっぱいに映し出されたのは、昨日の戦闘現場を真上から捉えた光景である。瓦礫の間からもうもうと砂埃が上がり、もはや大災害レベルとしか思えぬ崩落がぽっかりと口を広げている中、その縁にはしきりとそれを覗き込もうとする野次馬どもの頭がひしめきあう。ちなみに、昨日の今日で、この崩落部分はきっちり修繕されて、そこで事件があった痕跡すら見えなくなっているらしい。この世界の公共事業のレベル、高すぎぬか……?


(本当に、ヒーローたちの破壊活動が経済を回す世界なのじゃな……)


 妾の感慨はともかく、次々と画面が映し出されては移り変わっていく。必殺技を撃ち出すセイラン、金色の光を迸らせながら冷たく睥睨するルシアン、戦う女子組に、ぬいぐるみを抱えた妾。


 颯爽と現れた雅仁がピンチのいちかを救う場面では、番組のスタジオから歓声が上がった。流石はヒーロー、不動の人気である。


「守と雅仁様の合体技です! なお、有識者によれば、これは記念すべき二十一回目の合体技だそうです」


 何の有識者じゃ。


(それに、なんとも中途半端な回数じゃのう)


 確かにあの時、いちかを救ったのは二人分の攻撃であった。正直、あの時はそれどころではなかったので言及はせなんだが。


 合体技というのは、好感度に左右されるものらしい。雅仁と守は積極的に使っておるが、女子組とは一回も使ったことがない。……もはやこれ以上の解説は不要であろう。


 そして、雅仁が妾を「リリス」と呼び、そこにエルド教官が割って入る光景が映し出された。再び番組の解説が入る。



「銀河帝国皇女のリリス殿下というのは、どんな方なんですかぁ~?」

「そう訊かれると思って、写真を用意しました。六歳の誕生日に撮影されたものだそうです」



 輝くような笑顔を浮かべた幼女の写真が映し出される。ふんわりした金髪はところところ花のピンで留められているが、そのまま梳き流されて、後光のようにその身を覆っている。目を細めて笑っているためよく分からぬが、瞳の色は紫……?



「……妾、可愛いではないか」


 妾、もはや完全に他人事のような気分である。目の前の「甘ロリ」と、今の「ゴスロリ」である自分がどうにも結び付かないのじゃ。


「そうですよ、この姿のレジーナも可愛いんです。新聞の方にも、一面に写真が出ていますよ。皆見たかったんでしょうね。私も保存版として確保しました。ほら」


 エルド教官がひらひらと見せびらかしてくる紙面を、妾は無言で眺めた。



───



号外! 離れ離れの兄妹、引き裂かれた悲運の再会か?!



雅仁様語る「間違いない、俺がリリスを見間違えるはずがない」


吉影守氏のコメント「雅仁様の妹君ならば、俺にとっても妹です」


「銀河帝国皇女殿下は、首都陥落の少し前から行方知れずになっているという。長らく安否が危ぶまれ、関係者の落涙を誘っていたが、この度、衝撃的な登場を果たした悪の組織の幹部、黒髪の少女が、なんと、そのリリス皇女だというのだ!! これが真実だとしたら、誘拐されて後、皇女殿下の身に一体何が起こったのか。極悪非道の悪の組織が、いたいけな皇女を洗脳して戦わせているのか?! 実の妹と敵対することとなった雅仁様の心痛やいかに」



───


(……洗脳したのは妾の方じゃがな)


 こうやって、妾の罪科は更に積み上がっていくのであろうか。妾、溜息が出そうである。


「ん? もう一枚、別の号外が出ているのじゃな」


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