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第二話 最終回間際に裏切りそうな剣豪

「皆の者、集まっておるな?」


 カツカツカツ、と高く靴音を立てながら、妾は控えの間に歩み入った。


 広々とした部屋じゃ。とはいえ、棚や引き出しが無秩序に乱立し、そこここに収まりきらない書類や雑紙が溢れて、もともとの床が見えないくらいに広がっておる。空気は濁っていて埃っぽい。最後に掃除をしたのはいつのことじゃったか……


(悪の組織として、外聞が悪いことじゃのう)


 その壁に、半ば剥がれかけたお知らせの紙が貼ってあった。茶色く煤けて、染みがついているのを見ると、半世紀も前の所産としか思えないのじゃが、実際は二ヶ月ほど前に貼られたものじゃ。今もくっきりとした太い黒文字が読み取れる。





「 ──ようこそ悪の組織へ!──


  クール系幹部を募集します☆


  黒の女王レジーナ様の下で、正義の味方を叩きのめすだけの簡単なお仕事♪


  我こそはと思うクールな貴方は是非ご連絡を☆彡」





(……黒歴史じゃな)


 妾の黒歴史は現在も順調に更新中なので、もはやいちいち頭を抱えて身悶えることもないのじゃが、それでもたまに床に転がって叫びたくなるときはある。無論、実行はせぬぞ。妾は神秘的で可愛らしい「のじゃロリ」であって、あまりにもそこから逸脱した行動は強制力によって封じられておるからな。


(妾はただ、「冷静な思考ができる部下が欲しい」と人事部に掛け合っただけなのじゃが……)


 この狂った状況に、安心して頼れる冷静な補佐が欲しい、と思うのも致し方なかろう。


 妾は安心が欲しかったのじゃ……


(それが、どうしてこうなったのじゃ)


 張り切った職員たちがこの謎ポスターを貼り付けつつ走り回った結果、妾のもとには選び抜かれたクール系幹部四名が集まることになった。いずれも卓越した戦闘能力を持ち、クールな性格をした優れた部下たちである。本当に、いろんな意味でクールな連中なのじゃ……


「セイッ!」


 気迫の篭った掛け声と共に、スパーン!! と何かが断ち切られる音がした。


 ぎょっとしてそちらを見ると、古めかしい鉄製のロッカーボックスが、真ん中の切断線からぱっくりと割れて、ズズズ……と音を立てながら倒れていくのが見えた。詰め込めるだけ詰め込んでいたのであろう、中に入っていた雑多な物が溢れ出して、床に新たな堆積物の山を築く。


「……またつまらぬ物を斬ってしまった」


 その前に佇む大柄な男が、そこはかとなく背中に哀愁を漂わせつつ呟いた。


(……なんじゃこいつ)


 咄嗟に、そう思ってしまったのも仕方がなかろう?


 こやつは、妾の元に馳せ参じたクール系幹部が一人、セイランである。鬼のように盛り上がった筋肉質の体を和装に包んだ、遍歴の剣豪じゃ。


 年齢は三十代、剣士として完成された年頃であろうか。ひたすら剣の道一筋で生きてきた男には、滲み出るような独特の凄みがある。片目は潰れて、その上を眼帯が覆っているのもクールと言えるのじゃろうな……多分。


 彼の愛刀に、斬れぬものはないらしい。そうと分かっているなら何故、ロッカーボックスを試し斬りする必要があるのであろう? 今更すぎぬか? それこそ傍迷惑というものだと思うのじゃが。


「セイラン、何をしておるのじゃ」

「……」

「お主のせいで、ますますこの部屋が荒れ果てたのじゃぞ?! まっとうな理由もなく、何でもかんでも斬るでない!」

「……理由ならば、ある」


 セイランは切れ長の片目をどこか遠くに向け、


「更なる高みを、目指すためだ」

「ロッカーボックスを斬ったところで、高みには登れぬじゃろう!」


 妾の至極当然の突っ込みは無視された。


「……」


 遠い目のまま、セイランは腕組みして虚空を見つめておる。恐らく、最強を目指す遠い道程の果てとか何とか、そんな感じの何かを思って、思考が飛んでいってしまったのであろう。こうなると、何があろうと妾に答えることはないのじゃ……クール系じゃからな。


(クール系って、こんなに話が通じない生き物だったかのう?!)


「最強を目指すことしか頭になく、最終回間際にあっさり裏切りそうなクールな剣豪です」


 人事部が寄越したセイランの書類にはそう書いてあった。


 最終回とは何じゃ?!


 あやつらは一体何を考えているのじゃ?!


 人事部の萌えツボがさっぱり分からないのじゃ……


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