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第十七話 それは自爆スキルではないか?

「わっ! 何これ?! 何か力が漲ってくる感じ!」

「これは……遠隔制御機能が二十パーセントほど向上しました」


 いちかとアキが声を上げる。


「えっ、何……」


 ゆかりは相変わらず状況に乗り遅れて、のたのたしておるが、その動揺の声に鋭い声を被せるように命じたのがジョーカーである。


「葉垣ゆかり。今すぐ地球防衛軍本部に連絡を取り、周囲の観客どもの保護をはかるように」

「えっ? ぬいぐるみが喋って……というか首の長い黒い動物、かつ眼鏡のぬいぐるみって何」

「無駄口を叩くな、さっさとやれ」

「っ、わ、分かったわよ!」


 ぬいぐるみに叱られたゆかりが、割と素直に通信機をどこからか取り出し、どこぞへ連絡を取り始める。


「お父様? ええ、現場にいるわ……そう、守備隊を寄越して欲しいの。このままでは一般人に負傷者が出るわ……ええ、有難う、お願いね、至急よ、お父様」


 ゆかりの言葉の合間、ボソボソと雑音のように、通信機の向こう側にいる誰かの声が洩れ聞こえてくる。


 言っている内容は分からぬが、低音の、どこか重苦しい男の声だ。


(そういえばゆかりは、地球防衛軍の葉垣総司令官の娘、という設定であったな)


 その葉垣司令の手によって、周囲の野次馬たちの身の安全は図られることになったらしい。これで、ルシアンの負担も少しは軽減されるであろうか。


「ジョーカー、お主……敬語キャラだと思っておったが、他人に対してはそれが崩れるのじゃな」

「そんなことを仰っている場合でしょうか、レジーナ様?」

「うむ、すまぬ。それで、『皇女の威光』というのは……」

「共闘関係にある者全ての能力値を一時的に引き上げるスキルです」


 知らぬぞ? 妾、全然知らぬぞ?!


 妾が知らぬうちに持っていたスキルを、何故ジョーカーが把握しておるのか? ジョーカーだからか?


 それに、「皇女」とは……


(妾、何か酷いネタバレを食らっておる気がするが、今はそんなことを考えている暇もない……くっ)


「そして、セイランはレジーナ様の部下ですので、同じように『皇女の威光』が作用します」

「はあっ?!」


 慌ててセイランに顔を振り向けると、セイランがまるで解放された獣のような咆哮を上げていた。無数の傷が刻まれているというのに、未だ有り余る力を誇示するかのようじゃ。


「敵まで強化するとか、それ、自爆スキルではないか?!」

「しかも、肝心のレジーナ様の能力値は上がりません」

「墓穴が深い!」

「全員で掛かれば何とかなる計算です。とりあえず数分間耐えて、足止めして下さい」

「う、うむ……分かった!」


 その数分間で何が変わるのかは知らぬが、ジョーカーには何か考えがあるのであろう。


 妾は声を上げた。


「いちか! アキ、ゆかり! 全員で掛かるぞ!」

「分かりました」

「任せて!」


 軽快な声を上げて、いちかが剣を抜いて掛かっていく。その周囲にパチパチと音を立てて展開されるのは、アキの放ったロボットビットの守護結界らしい。


「鬱陶しい……羽虫か」


 切り捨てようとしたセイランが、俄に動いて飛来する何かを剣の腹で払った。的確に頭部を狙う、正確無比の射撃をゆかりが放っている。それも続けざまに。


 決定的な打撃は加えられておらぬが、向こうの攻撃を封殺するだけの効果はあるようじゃ。


(なるほど、良い連携ではないか)


 未だ力不足ではあるが、今後鍛えられれば良き兵になりそうである。


 そう思いながら、妾は黒薔薇の鞭を振り上げた。


「猛獣は躾をせねばならぬ。暴れた分、痛い目に合ってもらおうか、セイラン!」

「俺より弱い小娘など眼中にない!」

「その小娘に嬲られればよいわ!」


 女子組の援護を受けつつ、セイランの直接攻撃を避けて鞭を振るう。セイランの一撃は重たい。一撃食らえば妾などトマトのようにひしゃげるであろう。とにかく攻撃を避けつつ、隙を狙っていくしかない。


 女子組が予想以上に良い動きをしてくれたため、ほどなく妾の鞭はセイランの片腕を捕らえた。そのまま身に巻き付いて、ぎりぎりと締め上げようとしたが、


「ふんっ」


 セイランが闘気を吐き、その背後にカッと必殺文字が輝いた。



 カグツチ 天鳴



「姫!」


 キン! と音を立ててルシアンの技がセイランの剣を弾き、受け流しつつ軌道をずらした。重たい直撃を受けた壁と天井が大きく崩れ、観衆どもの悲鳴が上がる。爆風が沸き起こって、もうもうと大気を揺らした。あの辺り、数分ほど前に、ゆかりの呼び出した守備隊が軍用ヘリから湧き出すように降りてきて、一帯にガード盾を立てておったはずじゃが……


「下がって下さい! この辺りの地盤が崩れかけています。(きわ)に近付くと危険です」

「ちょっと! 報道陣まで押しやらないでちょうだい! 私たちはMHCよ! 最前線で、この戦いをお茶の間に届ける使命があるんだから!」


 ……怪我人もなく、元気にしておるようじゃ。



「ルシアン」


 妾は庇ってくれたルシアンを見上げた。


 ルシアンは冷たい双眸のまま、こちらを見ずに、ふう、と息を洩らした。やや億劫そうな表情をしておる。


「ご自分の限界を弁えていらっしゃる姫にしては、いささか無謀な行動ではないですか」

「分かっておるが……分かっておるが!」


 部下が命を削っておるのに、何もせんではいられぬじゃろう!


 じゃが、ルシアンが命を削っておるというのは妾の推測であって、確定ではない。そして妾が感情的に振舞ったとて、何も良いことはないのじゃ。だから何も言えずに口を噤むほかない……


「あと、どれだけ戦えるのじゃ、ルシアン」


 妾は敢えて、傲慢そうにツンと顎を反らした。


「どれだけ、と仰るなら、どれだけでも。どうにもならなければ金を使います」

「金?」

「衛星攻撃を仕掛けて、この一帯ごと殲滅し、後に見舞金をばら撒けば良いかと」

「死傷者続出前提……!」


 悪役か?


 悪役じゃった!!


 妾が暗黒悪辣ショタの闇深き可能性に震えていると、セイランがじりじりと距離を詰めてくるのが見えた。女子組も頑張ってその歩みを遅らせてはおるのじゃが、決定的な打撃が通っておらんようじゃな。


「えいっ」


 ザシュッ!


 いちかの渾身の一撃が突き刺さり、セイランの片腕から血飛沫が上がる。


(いや、通っておったわ……決定的な打撃)


 セイランは防御力が低い、その事実を妾は改めて思い出した。じゃが、幾ら打撃を与えたとて、それを上回る圧倒的な攻撃本能に突き動かされているのがセイランという男であって……


「羽虫どもがぶんぶんと、うっとうしい」


 いちかが横に薙ぎ払われ、その上に容赦ないセイランの斬撃が迫る。


「いちかっ」

「いちか!!」


 複数の悲鳴が交錯した。


 まずい。セイランは「残酷な描写あり」がデフォルトの男じゃ。このままでは、斬り殺されていちかが死ぬ……!


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