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第十話 のじゃロリセンサーが反応しましたか?

「レジーナ様!」


 参謀の声が響き渡る。


 ぬいぐるみらしき、無機質でくぐもったような声質。切羽詰まった鋭さがあるのに、何かに封じられたように伝わって来ぬという、奇妙な叫びじゃ。



「分かっておるわ!」



 叫び返しながら、妾はぱっと掌を広げた。幻の黒薔薇が花開き、しゅるしゅると蔓を伸ばして手首に絡まり、トゲだらけの鞭となって顕現する。妾の基本武器、黒薔薇の鞭じゃ。


 足場を失い、奈落のような闇に落ちていきながら、鞭を振るって技名を叫ぶ。


「黒薔薇の涙雨!」


 厨二技じゃ恥ずかしい!!!! などと言っている場合ではない。そもそも薔薇の鞭が出てきた時点で滅茶苦茶恥ずかしいのじゃが……縮こまりたくなるのじゃが……じゃが。妾は無力じゃ。「設定」という名の強制力に従うのみ。


 カッ!

 カッ!

 カッ!


 柔美な花びらからは想像もつかぬ、硬質な響きを放って、降り注ぐ花弁が次々と落ちてくる大小のコンクリ片を弾き飛ばしていく。


 落ちる。


 落ちる。


 たまに見つけた足場を踏んで、極力、落下の速度を遅らせていたせいもあるのじゃが、再び地に足を着けるまでにはかなりの時間を要した。どうやら、地上部にあった建物の崩落だけに留まらず、地下層まで突き抜けて落ちてきたらしい。突如、大量の瓦礫が降り注いだせいで、行き交っていた通行人たちが甲高い悲鳴を上げている。


 もうもうと立ち込める埃と瓦礫から身を守りつつ、素早く周囲に視線を走らせた。


 見覚えのある標識やサイン、鳴り響く警報にどよめく人々の波……ここは、地下鉄の通路か?



「ゴスロリが落ちてきたぞ!」

「まだ番組中では名前が明かされてない、一言呟いて去るだけの意味深なロリキャラだ!」

「悪の組織ののじゃロリだ!」


(むう……)



 なんという中途半端な知られ方じゃ。



 しかも、一般人まで解説キャラのような喋り方をしておる。


 どこの場面を切り取っても視聴者に分かりやすい、親切設計、というやつであろうか。


 そして、こんなに人口過密な場所に落ちたというのに、巻き込まれる怪我人が皆無である辺り、さすがは「そういう設定」の異世界じゃな!


「わっ……」

「ゴスロリが消えた?!」


 声を上げた連中がスマホを構えるより早く、妾はダッシュで地下通路を駆け抜けた。背後で上がる驚きの声は無視じゃ。駆け抜けた先、まるで紙がひしゃげるように、ところどころの天井が崩れておる。本来、地下道はそんなにヤワなものではないとか、大きな瓦礫があちこちに新たな袋小路を作り出しておって妾が隠れるのにちょうどいい(都合が良すぎる)とか、現実的な突っ込みは聞かぬぞ!


 ともあれ、人気がない物陰に身を潜めたところで、妾はようやくひと息ついた。


 ふうっと溜息をついて呟く。


「全く、酷い壊し方をしおったな。こんな大事になるとは」


 ヒーローどもと死闘を繰り広げたわけでも何でもなく、ただの部下同士の乱闘である。妾の管理責任が問われること間違いなし。


「今回の賠償金額を大まかに見積もりますと……」

「ヒッ……ジョーカー、止めろ! 妾は今はまだ聞きとうない!」


 ぬいぐるみをぐっと抱き締めて、物理的に発言を堰き止める。


 分かっておる、妾も分かっておるのじゃ! いつかは向き合わねばならん現実だからこそ、猶予されている間は向き合いたくない……それがごく自然な人間の心というものじゃ。



(ヒーロー法……妾たちにもヒーロー法なるものがあれば……適用されておれば! 多額の賠償金を払わずにいられるというのに……)



「……む?」

「どうなさいましたか。のじゃロリセンサーが反応しましたか」

「そんなセンサーは搭載されておらん! 余計な設定を捏造するな!」


 訳の分からん発言をする参謀を叱り付けてから、妾は瓦礫の間からそっと顔を出して、その向こうに続く通路を覗き見た。


 衝撃で電気系統が壊れたのか、灯りの落ちた通路は暗く、人気はない。遠い喧噪は引き潮のように遠ざかっていったようじゃ。どこか離れたところで、「いそぎ避難してください」という機械音めいた声が繰り返し鳴り響いておる。


 いかにこの世界の住民が物見高いとしても、慌ただしく張られた立入禁止線を乗り越えて、わざわざやってくる者などいないはずじゃ。


 妾の部下たちや、ヒーローたちでない限り。


 ……そう。


 通路の向こうから、暗がりを抜けてこちらにやってくるのは、そのヒーローたちのようじゃった。


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