タナカのタナカによるタナカのためのタナカ王国物語
ゲシュタルト崩壊を起こした方は、二度読むことを推奨します。
タナカ王国で唯一、高位貴族子女だけが通う王立タナカ学園。
学園創立150周年記念パーティーの会場では、普段は制服に身を包み文武両道に励む生徒達が、華やかに着飾って心から楽しんでいる。
その様子はまるでプレ社交界のようで、とても賑わっていた。
夜も更けパーティも終盤に差し掛かり、生徒達や保護者、各界で活躍している高位貴族の卒業生達の賑やかさも最高潮に達した頃、最終学年に在籍する第二王子タナカが壇上に上がった。
終わりの挨拶が始まると思った参加者達は姿勢を正し、会場は静まり返る。
「今日のこの場をもって、私、タナカ王国第二王子タナカと、タナカ辺境伯令嬢タナカとの婚約は破棄する!」
突然の思わぬ宣言に会場は凍りつく。
そんな中、一人の令嬢が壇上に近づいた。
「タナカ第二王子。タナカ王子の結ばれた婚約は、王家から決められたもの。それを破棄したいということでしょうか?」
女子生徒はプラチナブロンドの髪を一つに結い上げ、ブルーグレーの落ち着いたドレスを身に纏っている。落ち着いたドレスを着ていても、本人の美しさは目を引く。
彼女の金色の瞳は、真っ直ぐにタナカの目を捉える。
「むっ、タナカ。そもそも、お前は使い物にならなかった第一王子タナカの婚約者だった。それを王太子妃教育を済ませているからと言って、俺の母が無理に婚約者にしたんだ。俺はいくら優秀だの家柄が良いだの言われても、お前のことが気に入らなかった。それに……」
タナカ第二王子は壇上から降り、一番近くに立っていた一人の令嬢を抱き寄せた。
「俺はこのタナカ子爵令嬢タナカと、真実の愛のもと婚約を結び直す」
参加者達が顔色を失っていくのと反対に、タナカに抱き寄せられたタナカは頬を、その髪や瞳と同じピンク色に染めた。
「わかりました。タナカ子爵令嬢とは学園でも親密にされているのは周知の事実。タナカ嬢は側妃にされてもよろしいかと。
しかし、王家からの婚約を破棄なされば、第二王子は立太子されるのに必要な後ろ盾が無くなってしまいます」
タナカ王国の現国王タナカには王妃タナカの他に、第二王子の母である側妃タナカ、第三王子タナカの母である愛妾タナカがいる。
王妃タナカは王国唯一の公爵家、タナカ公爵家令嬢で、国王との婚姻後すぐに第一王子タナカを懐妊。
しかし王家と縁付くことにより、タナカ公爵家がより強い権力を持つのを嫌がった他の貴族達が、すぐにタナカ伯爵家の令嬢タナカを側妃へと担ぎあげた。
側妃タナカは王城に上がってすぐに懐妊し、第一王子タナカと第二王子タナカの誕生日は三月しか違わず同学年になった。
更に、国王には王妃との婚姻前からお忍びで会う平民の恋人タナカがいた。
側妃タナカの妊娠がわかり、さすがにこのままではまずいと国王は考えた。いつも通りのお忍びスタイルで恋人タナカに別れ話をしに行った国王が見たのは、国王の子を身籠り悪阻に苦しむタナカの姿だった。
王国の重鎮達は頭を抱えたが、国王の子は流せないと恋人タナカも王城へと上げられた。
ただタナカは平民なので、愛妾の地位しか与えられなかった。
側妃タナカの産んだ第二王子タナカと、誕生日を一月しか違えない愛妾タナカの子タナカは、男子だったので第三王子として王位継承権が与えられた。
時間が経ち……。
第一王子タナカは3年前に毒を盛られ倒れた。そして身の安全の為、一部の者しか知らない場所で長期療養をすることになった。
毒の入った食事を給仕した者達や料理人は厳しく追求されたが、所詮トカゲの尻尾切りで真犯人は未だに判明していない。
当初はすぐに戻ると思われていた第一王子タナカだったが、いつまで経っても回復しないとのことで、婚約者だったタナカ辺境伯令嬢タナカは、側妃タナカの決定で、そのまま第二王子タナカの婚約者へスライドされた。
「お待ちなさい、タナカ!」
来賓席にいた側妃タナカが大きな声を上げた。
「タナカ辺境伯令嬢の言う通りです。私が自ら決めたこの婚約の意味を忘れたのですか?」
そう。このスライドされた婚約は、側妃タナカの強い要望。
長男第一主義のこの国では、第一王子以外は第二王子でも第三王子でも、能力次第でどちらがスペアになってもおかしく無い。
つまりタナカが次期国王にならなければ、次はタナカでもタナカでも、どちらでも構わないということだ。
しかも第一王子タナカとは、第二王子タナカも第三王子タナカも同学年。
同級生のタナカ達にとっては、同じ学年にタナカが3人も居るのは、さぞ混乱しただろう。
側妃の焦りの原因は、第三王子タナカにあった。
愛妾の子であっても第三王子。しかも、第三王子タナカは成績も見目も、悔しいが自分の息子よりかなり良い。 我が息子タナカに王位を継承させるには、公爵家に次ぐ大きな後ろ盾を持つ、辺境伯家の優秀なタナカがどうしても欲しかったのだ。
「いいえ、母上。私はタナカとの婚約を破棄してタナカを妃にするのです。なぜなら……タナカの腹には俺の子がいます!」
タナカが言い切ると、驚き失望した側妃タナカは失神してしまった。
倒れたタナカを救護しようと、来賓席は一気に騒がしくなる。
貴族令嬢としてあり得ない結婚前の、しかも婚約者を持つ王子との妊娠の事実に、タナカ子爵令嬢に周囲の冷ややかな視線が集まった。
そんな周囲の視線なんて気にする様子もなく、タナカはタナカのまだ膨れていない腹にそっと手を当て、そしてタナカに鋭く目をやった。
「慣例では側妃が王妃より先に子を持った時、側妃が王妃に成り代わる。今ここで婚約を破棄しなくても、俺の妃は最愛のこのタナカだ」
「王室典範によると、婚約前に妊娠されたタナカ子爵令嬢は出産後、そのお子が本当に第二王子の子であると確認されてからの結婚になるかと……」
「お前はタナカが不貞を働いたとでも言うのかっ!!」
典範の規定を言っただけのタナカに激昂したタナカは、タナカに駆け寄り、その白い頬を力一杯に打った。
倒れ込むタナカに悲鳴をあげる来客タナカ達。
その間を縫い、一人の大柄な男性が走ってきた。
「っ!大丈夫か、タナカ!」
「お父様……」
倒れたタナカに駆け寄り抱き起こしたその男性こそ、タナカ辺境伯でタナカの父親である。
普段は遠い辺境の地で国防の任に着いているため、滅多に王都には来ない。
「第二王子。我が娘タナカへの愚行、これは我が辺境伯家への扱いだと考えてもよろしいか?」
国を守るために鍛錬した堂々たる体躯に、百戦錬磨の者のみ持つその鋭い眼光を向けられて、第二王子タナカは思わず怯む。
が、隣にいる愛しいタナカが怯えているのに気づき精一杯の虚勢をはった。
「次期国王の俺に何という……。近衛隊! 国賊の親子、タナカとタナカを捕らえよ!」
会場奥に控えていた深紅の隊服の集団が、叫ぶタナカと怯えるタナカを守りつつ、タナカとタナカに対峙した。
そして、一斉に抜いた剣をタナカ辺境伯に向けたその時、
「辺境伯とタナカ様を守れ!」
近衛とは反対側で待機していたであろう、真紅の鎧の集団、辺境伯の騎士達がタナカ辺境伯達を守ろうと取り囲む。
王族を守る為の深紅の集団近衛隊と、国防の要である真紅の集団辺境騎士団との一触即発の最悪の事態。パーティー会場に一気に緊張が走る。
王族に逆らえば貴族として生きてはいけない。しかし、辺境伯が王国を見捨てればあっという間に他国に攻め込まれるだろう……貴族達は逃げ惑いつつも、保身のためにはどちらに付くべきなのか、頭を悩ませた。
タナカを中心に隊列を組め、タナカを先頭にタナカとタナカは脇を固めろ、あっちのタナカは大したことない、タナカのクセの生意気だ……
敵味方とも、全て紅い集団のタナカ達は血気盛んに煽り合う。
その時である。
「待たれよ!」
喧騒の中にもかかわらずよく響く、その声に会場から音と動きが止まる。
「あの方は……まさか第一王子タナカ?!」
誰かが上げた悲鳴のような声に、皆一斉に最高礼をとる。
「お前はタナカッ! 何故?!」
驚きのあまり敬称を付けるのも忘れ、タナカ第二王子は叫ぶ。
「タナカ辺境伯、ご苦労だった。タナカ……長らく苦労をかけた。頬は大丈夫か?」
第一王子タナカはタナカの頬に手をそっと沿わせる。打たれても気丈に泣かなかった、そんなタナカの目から一筋の涙が流れる。
タナカは、涙を流すタナカを愛おしそうに見つめるタナカに苦笑しつつも、自分の騎士達と一歩下がる。
「タナカとタナカの婚約か。そんなものがあるのなら、お前の好きにするがいい。これは父上、タナカ国王もお認めになった」
第一王子タナカは宣言する。
「お前は……兄上は我々も知らない遠い地で療養されていたのでは?」
状況が飲み込めずにしばらく黙り込んでいた第二王子タナカは、なんとか冷静を装い兄の体調を気遣うフリをして尋ねた。
「あぁ、体調ならとっくに良くなっているよ。何者かに毒を盛られた翌月にはね」
第一王子タナカは王になる者だけが継ぐロイヤルブルーの瞳を細めて、じっとタナカを見つめながら言う。
「で、では何故いつまでも静養などと……皆、心配していたのですよ!」
第二王子タナカは側妃そっくりの、薄いブルーの目を目一杯開いて引き攣った笑顔で返す。
「私の命の安全のため、そして毒を盛った犯人を探し出すため、私はタナカ辺境伯領に身を隠しながら調べていたんだ」
その言葉に第二王子タナカは凍りつき、場内もさらに空気が張り詰めた。
タナカ辺境伯が、いつまでも娘タナカの頬から離れない第一王子タナカの手を外そうと苦戦しながら言う。
「んんっ! 意識が戻られた第一王子タナカとタナカ国王とで極秘に話し合い、我が辺境伯領の別荘で第一王子タナカに、静養という名の鍛錬を受けて頂いていました。その間にも王家の影を使い、毒を盛った犯人と経緯、そしてそれらを企んだ者の特定作業を行っていました」
タナカ辺境伯が話し終えても、第一王子タナカの手はタナカの頬から離れない。
屈強な辺境伯が青筋を立てながら第一王子の腕を引っ張っても、タナカは涼しい顔をしてタナカの頬を愛おしそうに撫でている。タナカは頬を赤らめながらもされるがままだ。
自分がタナカと真実の愛という名の不貞を働いていたことは棚に上げ、タナカがタナカの手に頬を染めているのを見ると、第二王子タナカは何故か無性に腹が立った。
「お、おいタナカッ! なぜタナカに顔を赤らめる! お前は俺にはそんな顔したことがないだろう! タナカとはとっくの昔に婚約が解消になっているんだ。離れろっ! ……さてはタナカ、お前は俺を欺いて、そのタナカと通じていたな!」
興奮したタナカは、もはやタナカを兄上とも呼ばず、呼び捨てにしていることにすら気付かない。
タナカは怒りのあまり、再びタナカに近付いた。咄嗟にタナカがタナカを後ろに庇い、腰に差した剣に手を掛ける。
「それ以上、私の婚約者に近付いてはいけないよ」
タナカは一段と低い、だが響く声でタナカに言う。
「私とタナカの婚約が解消されたことは一度も無い。タナカ辺境伯領に匿われていたのは、私と辺境伯家との縁が切れていないという証拠。お前が私のタナカと婚約したというのは、お前の母君の戯言だろう」
第二王子タナカは「嘘だ」と叫ぼうしてハッとする。
確かに母である側妃タナカから、タナカの婚約者が下賜されたとは聞いたが、それに関する手続きをした覚えが無い。
それどころか、婚約者ならするべき定期的なお茶会などしたことが無い。ただ、これは自分がタナカを嫌っていたので、周りが気を遣ったせいだと思っていた。
タナカからの手紙は一つももらったことが無い。
こちらからもタナカからも、贈り物を贈ったり贈られたりしたことが無い。
公式行事はもちろん、夜会でもエスコートすらしたことが無い......
思い出せば思い出すほど、本当に婚約を結んでいたのか疑わしい記憶しか無い。
逆に言えば、だからタナカと真実の愛を育めたのだが……
「それに、そこの子爵令嬢。たしか、名は……」
「.....タ、タナカでございます」
今の今まで、タナカに隠れるように立っていたタナカは、急にタナカに声をかけられて震える声で答えた。
「タナカ、か。タナカ子爵令嬢……おかしいな。タナカ子爵は田舎の貴族だから知らない者も多いだろうが、タナカ子爵に子供はいない」
ヒュッとタナカ、いや自称タナカが息を呑む。
「い、いや兄上! そんなはずは無い! タナカはタナカ子爵が1年前に養子に……」
「タナカ子爵は2年前に事故に遭ってからは、今も意識が戻っていない」
タナカが言い切ると、タナカはすぐ後ろにいるタナカを振り返った。頼む、否定してくれというタナカの希望は、ただ黙り込むタナカの態度に打ち砕かれた。
「療養と見せかけて、私に毒を盛った人物を探していたのだが、犯人に近付くに連れて面白いことがわかってね。そこに、そのタナカと名乗る女がいたんだ」
「……」
自称子爵令嬢タナカは、無表情で黙り込んだままだ。
「お、お前……本当の名は」
青ざめた第二王子タナカが聞く。
しばらく黙っていたニセタナカは、吹っ切れたようにフッと笑い、纏めていたピンクブロンドの髪を解いた。
「あーあ、バレちゃった。……そうよ、私は子爵令嬢でも何でもないわ。ただのタナカよ!」
その告白に第二王子タナカと、騒ぎを見ていた周りのタナカ達が驚く。
「同じスラム街でお世話になった人と、その人の息子から頼まれたのよ。バカな男を落とせってね」
学園では清純そうに微笑んでいたニセタナカは、妖艶な笑みをタナカに向け、そして貴族席に座っていたある人物達の方を向いた。
「ねぇ! 私だけが捕まって処刑されるとか嫌なんだけど。貴方たちに頼まれたのよ、責任とってちょうだいよ!」
その視線の先には顔を青くした第三王子タナカと、その母で愛妾であるタナカが扇子で口元を隠して座っていた。
「な、何を……私と母上はそんな女知らない! 誰か、その女を捕らえよ!」
第三王子タナカが叫ぶ。が、深紅の近衛隊も真紅の辺境伯騎士団も動かない。
「第三王子タナカよ。それは通らないよ。そもそも、お前のその母親。それは本当に、タナカなのかい?」
「えっ?! それはどういう……」
タナカはたじろぐが、隣にいるタナカは黙ったままで動かない。
「毒殺犯を追っているとある情報を得てね。それは、隣国スズキの諜報員が潜伏するスラム街があると……」
来賓のタナカ達はハッとする。隣国スズキが最近、タナカ王国を乗っ取ろうとしているというのは、今一番囁かれている噂である。
ここにいる多くの者が一度は聞いたことのあるその噂は、国交の無い謎の隣国スズキに関することだけに不気味であった。
「貴様……隣国スズキの間者だったか!」
何も知らず、婚約破棄だの真実の愛だのと騒いでいたタナカが、今頃になって事の重大さに気づく。
「近衛第一タナカ部隊、第三王子タナカと愛妾タナカを捕らえよ!」
タナカが自身の近衛に指示する。
「騎士団タナカ達、その女、タナカを捕らえよ!」
タナカが辺境伯騎士団に命令する。
会場内、貴族席へと紅いタナカ達が押し寄せし、それぞれ目的のタナカを捕えたその集団は、喧騒と共にホールから去って行く。
残された貴族達は、目の前で起こった王国を揺るがす大事件の意外な真相と結末に、呆然と立ち尽くした。
その中心で、一人膝をつき項垂れているのは第二王子タナカ。
タナカは自分の浅はかな行動が王国を破滅に導いていたかもしれないという事実に、ショックで立ち上がれないでいた。
「タナカよ。城へ戻るぞ。国王がお待ちだ」
やっとのことで青い顔を上げると、そこには自分が見下していたタナカに、自分が蔑ろにしていたタナカが寄り添うように並んで立ちこちらを見ている。
あぁ、こんなに国王に相応しい威厳を持つタナカの何を見て、俺はこの人に成り代われると思っていたのだろう。
あぁ、国王の隣に立つのに相応しい品格と美しさを持つタナカの何を見て、俺に相応しくないと思い上がったのだろう。
あぁ……
先程までの威勢と自信と輝きをすっかり無くし、肩を落として退場していくタナカ。
その姿を何とも言えない表情で、出席者達が遠巻きに見ている。
出席者達の集団から少し離れた場所で、パーティーに招待されていた一人の留学生がそれを訝しげに見ていた。
「……なんだよ、全員タナカって」
タナカ達が王国の窮地を救った夜。
パーティー会場の喧騒とは打って変わって静かな会場の外では、少し離れた森に住む野生のタナカが月に向かって遠吠えをしている。
悲しく歌うようなタナカ達の遠吠えを背に、一羽の鷹が森から静かに飛び立った。
***
「ふうん、失敗したか」
一刻前に森から飛び立った鷹は今、ある城の一室で、身なりの良い青年の肩に止まり羽を休めている。
薄暗い部屋は青年の身分を表すかのように豪華で、執務机にある蝋燭の炎が青年の黒い瞳を照らす。
青年は鷹の足に括り付けてあった手紙を読み終えると、それに蝋燭の火を点けて暖炉に放り投げた。
「サトウ君にご褒美を持って参りました」
少し小柄で若い男が部屋に入ってくると、青年の肩に止まったままのサトウの嘴に細かく切った兎肉を寄せる。サトウはキュッと嬉しそうに鳴きそれを啄む。
「どうやらスズキの者が失敗したようですね、サトウ閣下」
「そうみたいだな、サトウ」
サトウと呼ばれた小柄で若い男は、サトウ閣下と呼ばれた青年の肩からサトウを預かりながら言う。
「サトウ、お前はタナカ王国の者が真相に辿り着くと思うか?」
サトウは自分の肩にサトウを乗せながらうーん、としばらく考える。
「それは無いでしょう。万が一、スズキかスズキが口を割ってもサトウに繋がる証拠は無いはずです。念の為、王国に潜入しているスズキも消しておきましょう」
サトウはにっこり笑いながら言う。
「お前は可愛い顔をして恐ろしいことを平気で言うね。サトウ侯爵家の次男坊サトウと言えば、ベビーフェイスの草食男子で通っているのだろう?」
「それは全てサトウ帝国を裏で操る、サトウ公爵家のサトウ閣下に秘書として教育して頂いたからですよ」
それを聞いたサトウは、クスクス笑いながら寝るとだけ言い部屋から出て行った。
残されたサトウは、肩に止まったままのサトウの胸元を一撫でして、窓から外に放してやった。
そのままサトウが飛んで行った漆黒の夜を眺める。その目には仄暗い光が宿っていた。
「いつか、僕があの国とこの国を統一したら……ヤマダも良いな」
最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!
(留学生は「第24条1項~」の続編、「第6条36項~」に少しリンクしています)
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