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『これって何の花?』
「アイリス・・・。」
『ありがとね、今日観に来てくれて。』
「ううん、こちらこそ。凄く良かった。・・・本当に素晴らしい舞台だったよ、ヒロト。」
『カスミ・・・何かあった?』
鋭すぎてこっちが困る位だわ。
「ううん無いよ?」
『そっか。・・・皆会いたがってた、チャットおいでよ。』
「うん。じゃ・・・又。」
『又。』
ヒロト?
ありがとう。
それしか貴方に伝えるべき言葉が見つからない。
多くの人間が混在するコミュニケーションツールから貴方と云う人に出逢えたカスミは幸せだよ。
アイリス・・・花言葉は、あなたを愛す・優しい心・あなたを大切にします・私は賭けてみる・恋のメッセージ・・・
あたしは顔を上げた。
そこには決して強くはないけど、弱い従順なだけのあたしは居ない。
家に帰り着き、あたしは机の上で便箋を広げ一通の手紙をしたためる。今日のヒロトの公演のチケットの半券も同封し封をする。それから引き出しの奥に仕舞い込んだ。
次にパソコンを立ち上げて、インターネットの履歴とお気に入りを削除する。
あたしにはもう不要だ。
ヒロトとの当初の約束は、60日と言う期間限定の恋だった。
その期間は残り10日を切っていた。あたしは一つのルールを破って今日ヒロトに会いに行った。
それで、もう良いだろう。
ヒロトとの恋の舞台から、あたしは降りよう。
窓に目を注ぐと吸い寄せられる様にあたしは鍵を外し、窓を開けた。
既にカバーは無く、枠組みさえも取っ払われていた。予定より早く解体工事が終わったのか。
3月の冷たい空気が肌を刺す。
澄んだ夜の空に黄色い月がぽっかりと浮かんでいる。
それは、とても綺麗な月で、ヒロトと見たかった月ときっと同じだろうとあたしは想う。
「ヒロト、綺麗な月だよ?」
きっと今頃、ヒロトも空を見上げてる。そんな気がしてならなかった。
窓を閉めてベッドに座り込んだ。脇に置いてある大きなキャリーケースが目に入る。




