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康祐クンが口にしたその言葉を噛み締めた。
彼は「一応・・・プロポーズなんだけど」と付け足す。
何を、どんな言葉を、声に出して返していいのか直ぐには思いつけずあたしは頭の中で知りえる言葉を総動員させていた。
そんなあたしを見て康祐クンは小さく笑った。
「婚約者としてフランスに連れて行きたい。帰ってきたら皆を呼んで結婚式を挙げよう。」
それでも気後れするあたしを彼は抱きしめた。
彼が何時からかつけるようになった香水の香りが鼻腔をいっぱいにする。
「忙しくなるよ?」
正直言って嬉しさの余り言葉が出てこなかったというよりは驚きの余りと言った方が正しかった。
康祐クンは社内でもかなり優秀な営業マンで人望も有る。
加えて端正な顔立ちに、180センチを超える長身のルックス。
その女性社員憧れの彼が同期のあたしに「付き合おう」と言ってきた時も言葉を失ったものだが今日ほど、思考能力が低下した事は無かった。
謙遜ではなく、あたしは顔も普通だしスタイルだって少しぽっちゃり気味だし、特にコレと言った物は何もない。
話を面白くも出来なければ、気の利いた言葉一つ浮かび上がる事も無いボキャブラリーの少なさ。
とにかく目立つ事はずっと避けてきた。
ただ静かに平平凡凡と暮らして、そして安住の地で終わりが迎えられれば良いなとぼんやりと考えている女。
一度だけ康祐クンに「どうしてあたしと?」と聞いたことがある。
彼は「香澄と居ると落ち着くんだ」と言ってくれた。
だからあたしはそれで納得出来た。
きっと彼は素敵過ぎるから何時も周りには華やかな女性が多くて、そこでは彼は常に気を抜けないで居たのだろうと解釈したのだ。
初めて彼のマンションに来た時に部屋の汚さに吃驚した事を思い出す。
外でしっかりしてる分、家の中まで手が回らないのだろうと来て早々、彼を外に追い出し掃除をしたんだった。




