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昭和のティータイム

 翌日の放課後、琴美、沙羅、真平の三人は、日ノ本文化部の活動として再び宿直室を訪れた。今回は琴美が「昭和風ティータイム」を提案し、沙羅も「意外と悪くないかもね」と賛成。真平は当然のようにため息をついた。

「いいけどさ、あの埃まみれの湯飲みは使わないだろうな?」

「当たり前じゃない!」琴美は胸を張りながら、家から持参したティーカップセットを見せた。おしゃれなカップに目を輝かせる沙羅を横目に、真平は思った。

(なんでこんなに力が入るんだよ…)

 宿直室のこ上り部分には古びたちゃぶ台があり、琴美が「この雰囲気がいいのよ!」と興奮してセットを広げた。沙羅は炊事場で古いやかんに水を入れて火をつけ、真平は小さなテーブルに座っているだけだった。

「おい、やかん大丈夫か?中錆びてるんじゃないのか?」真平が不安そうに問いかけると、沙羅がやかんを振りながら答える。

「大丈夫でしょ。だって水が透き通ってるもん!」

「基準がザルすぎるだろ…」真平は頭を抱えた。

やがてお湯が沸き、琴美が持参した紅茶の茶葉をセット。「こうしてると本当に昭和の先生みたいでしょ?」と嬉しそうに言いながら注ぎ始めた。

しかし、一杯目を注ぎ終えた直後、やかんの底から「ポロッ」と何かが落ちた。三人は息を飲む。

「…なにこれ?」沙羅が恐る恐る拾い上げたそれは、小さな昆虫の死骸だった。

「ぎゃあああ!」琴美が叫び声を上げて飛び上がる。

「いやいや、これは…紅茶のスパイスみたいなもんだろ!」沙羅が笑い飛ばそうとするが、琴美は本気で怒った。

「何よその適当なフォロー!真平!この昆虫どうにかして!」

「俺に言うなよ!」真平は不満を漏らしながらもティッシュを取り出して始末した。

「まあまあ、お茶はもう一回淹れ直せばいいじゃない」と沙羅が軽く流すが、琴美は「やかんそのものがダメなんじゃないの!」とぷりぷり怒っている。

「だったら、これ使う?」沙羅が見せたのは宿直室の奥から見つけた古い急須だった。

「いや、それもっと怪しいだろ!」真平が全力で止めるが、琴美は「昭和風にこだわるならこれでしょ!」と急須を選択。

 急須に茶葉を入れ、再度お湯を注ぎ、いざ二回目の昭和風ティータイムがスタート。しかし、琴美が一口飲むなり、表情を曇らせた。

「なんか…変な味がする。」

「ちょっと貸してみて。」沙羅が飲んでみたが、眉をひそめる。「これ、急須が臭いんじゃない?」

「だから言ったのに…」真平は呆れ顔でちゃぶ台に突っ伏した。

「こうなったら!」琴美が立ち上がり、手際よく自分の持ってきたペットボトルの水を開けて、そのままおしゃれなカップに注ぎ始めた。

「え、紅茶じゃないの?」沙羅が目を丸くすると、琴美は堂々と答えた。

「いいの!これは昭和風ミネラルウォーターよ!」

「ただの水道水じゃない!」真平が突っ込むが、琴美は「これも文化部の活動の一環なの!」と言い張った。

 結局、三人は紅茶を諦め、ペットボトルの水を飲みながらちゃぶ台を囲んだ。沙羅が昭和のポスターを眺めながら「これもこれで楽しいわね」と言うと、琴美も「まあ、雰囲気さえ良ければいいのよ!」と満足そうにうなずいた。

真平は肩をすくめながら、「これでいいのか日ノ本文化部…」と呟いたが、二人の笑顔を見て、まあ悪くないかと思った。


 翌週の放課後、琴美が再び部室に集まるよう真平と沙羅を召集した。

「今日のテーマはね、『昭和のおやつを楽しむ』よ!」琴美が堂々と宣言する。

「またか…」真平が頭を抱える横で、沙羅が興味津々で尋ねた。

「それって駄菓子とか?具体的に何が出るの?」

 琴美はニヤリと笑い、リュックをゴソゴソと漁る。「見てなさい。今日はすごいんだから!」

 琴美が取り出したのは、昭和レトロ感満載のスナック菓子と、なんとも言えない怪しげな見た目のゼリー飲料。

「じゃーん!これが昭和の味よ!」琴美は得意げにスナック菓子の袋を掲げたが、そのパッケージはどれも賞味期限が10年以上前に切れていた。

「…琴美、それ、やばくないか?」真平が引き気味に言う。

「そんなわけないでしょ!昭和のものって保存が効くのよ!」琴美は自信満々だ。

「いやいや、それは缶詰とかの話であって…」沙羅が慎重にフォローするが、琴美は聞く耳を持たない。

 琴美がまず袋を開けたのは、見るからに湿気ていそうなスナック菓子だった。袋を開けた瞬間、部室に漂う謎の香り。

「これ、何の匂い…?」沙羅が眉をひそめる。

「…足?」真平がつぶやく。

「失礼ね!これは昭和の風味よ!」琴美は怒りつつ、一つを手に取り堂々と口に放り込んだ。

しかし、次の瞬間、琴美の顔がみるみる青ざめる。

「……これ、完全に湿気てるわね!」琴美は吐き捨てるように言う。

「だろうと思った!」真平が声を荒げるが、沙羅は興味深そうに別の袋を手に取った。

「でも、これならまだいけそうじゃない?」沙羅が選んだのは、粉末ジュースの袋だった。

「お湯、用意する?」真平が不安そうに尋ねると、琴美が「そんなの不要よ!」と即答し、そのまま粉末を手に取って直に舐めた。

「……甘っ!ていうか濃っ!」琴美が顔をしかめて叫ぶと、沙羅は「やっぱり?」と笑いながら同じく挑戦。

 だが次の瞬間、沙羅も目を見開き、「これ、もはや砂糖の塊じゃない!」と叫ぶ。

「だから言ったのに…」真平は再びちゃぶ台に突っ伏した。

残された最後の挑戦は、怪しげなゼリー飲料だった。琴美は慎重に封を切り、匂いを嗅ぐ。

「うーん、これは……なんか大丈夫そう!」

「根拠ゼロだろ!」真平がすかさず突っ込むが、琴美はそのまま吸い込んだ。

結果、琴美は思わず吹き出し、ゼリー飲料が真平の顔面を直撃。

「おいっ!何やってんだ!」真平が怒るが、琴美は涙目で叫ぶ。

「ごめん!でもこれ、味が…味が!腐ってる!!」

 沙羅はお腹を抱えて笑い転げている。

その後、琴美は「今日はこれで終わり!」と宣言し、そそくさと片付けを始めた。真平は顔にこびりついたゼリーを拭きながら、ため息をつく。

「お前、昭和のおやつをバカにする気はないけど、ちゃんと新しいの用意しろよ!」

「次はもっと良いもの持ってくるから!」琴美は笑顔で答えるが、その背中はどこか逃げ腰だった。

その翌日、琴美は「名誉挽回」とばかりに再び部室に集合をかけた。

「今日は昭和のおやつ、リベンジよ!」と、どこか得意げに宣言する。

 真平はすでに疲れた顔で応じる。「お前な…またヘンテコな物持ってきたんじゃないだろうな?」

「そんなことないわよ!今回は完璧だから!」琴美はそう言って、大きな紙袋をテーブルに置いた。

 沙羅が紙袋を覗き込むと、顔を輝かせた。「お、駄菓子!今度はちゃんと新しいやつじゃない?」

 琴美が取り出したのは、チョコレート菓子にソーダキャンディ、懐かしいベビースターラーメンなど、現代でも人気のある駄菓子だった。

「ほら、ちゃんと賞味期限内よ!」琴美がドヤ顔でアピールする。

「それが普通なんだよ!」真平が突っ込むが、琴美は気にしない。

「じゃあ、まずはこれ!」琴美が選んだのは、ラムネ菓子だった。

「懐かしいなあ。これ、結構好きだった。」沙羅がラムネを手に取る。

しかし琴美は「ただ食べるだけじゃ面白くないわ!」と叫ぶと、真平を指さして「ラムネ早食い対決よ!」と言い出した。

「また面倒なことを…」真平が渋るが、琴美と沙羅のキラキラした目に負けて仕方なく参加することに。


「よーい、スタート!」琴美の合図で、三人は一斉にラムネを口に放り込む。

 真平は一気に噛み砕こうとするが、喉に引っかかりそうになり咳き込む。

「ゴホッ!だから嫌なんだよ!」

一方、沙羅は冷静に一粒ずつ噛んで飲み込んでいる。

 そして琴美はというと、口に詰め込みすぎて頬が膨らみ、まるでハムスターのようになっていた。

「むぐむぐ…!おいし…いけど…つまるっ!」

 案の定、琴美はラムネを吹き出し、今度は沙羅の顔面に直撃。

「なにすんのよ!」沙羅が激怒し、真平が「デジャヴかよ!」と叫ぶ中、部室は再び大混乱に陥った。

 その後、二人は拭き掃除をしながら険悪なムードに。真平はため息をつきながら、「お前ら、仲良くしろよ」と言うが、琴美は拗ねた様子で「沙羅がムカつくのよ!」と叫ぶ。

 沙羅は余裕たっぷりに、「私がムカつくんじゃなくて、琴美が不器用なだけでしょ」と返す。

「なにそれ!」琴美が怒り出すが、真平が間に入る。

「ほら、次はこれでも食べて落ち着けよ。」真平が差し出したのは、チョコバナナ風味の駄菓子だった。

 二人が渋々口に運ぶと、甘さと懐かしい味わいに表情がほころぶ。

「うん、これ美味しい。」琴美がぼそっと呟き、沙羅も「まあ、たまにはこういうのも悪くないかも」と笑顔を見せた。

「ほらな。おやつは喧嘩じゃなくて、笑顔で楽しむもんだろ?」真平が苦笑しながら言うと、琴美と沙羅は少しだけ恥ずかしそうに頷いた。

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