宿直室の大冒険
琴美、沙羅、真平の三人は、例によって日ノ本文化部の活動のために集まっていた。今日は、旧校舎の隣にある宿直室を探検しようという琴美の提案で始まった。
「宿直室?なにそれ?」沙羅が首をかしげる。
「昭和時代には先生がここに泊まってたのよ!なんか面白いものが残ってるかも!」琴美は目を輝かせながら答えた。
「また変なこと企んでるんだろ…」真平がため息をつくが、琴美は意に介さず宿直室の扉を勢いよく開けた。
扉を開けると、古びた畳の香りとともに、時代を感じさせる小さな空間が広がっていた。奥には畳のあるこあがりに布団が積まれ、脇には錆びた炊事場、壁際には昭和風の懐中電灯が転がっている。真平が呆れ顔で言った。
「琴美、どうせここも『文化財』って言い出すんだろ?」
「もちろんよ!文化財そのものじゃない!」琴美は胸を張る。
沙羅が壁際の小さな棚を見つけ、中を開けると古い湯のみが並んでいた。「ねぇ、これでお茶でも飲む?昭和風ティータイムってどう?」
「いや、やめとけよ…多分その湯のみ洗ってないぞ!」真平が慌てて止める。
しかし、琴美は湯のみを手に取ってジロジロ観察。「見てこれ!レトロな花柄!昭和のセンスって素敵!」と言いながら振り回すと、中から蜘蛛がポトリと落ちた。
「ぎゃああああ!!!」琴美は湯のみを放り投げ、真平の背中に飛びつく。
「おい、重い!やめろって!」真平が必死で振りほどく一方、沙羅は冷静に蜘蛛を指で摘み、「ほら、こっちにおいで」と窓の外へ放り出した。
「沙羅、冷静すぎるわ…」琴美は息を切らせながら震える。
一方、炊事場を見ていた沙羅が古い鍋を見つけ、「これ、まだ使えるのかな?」と呟く。
「やめとけ。絶対中に何かいるぞ。」真平が警戒する。
沙羅が蓋を開けると、案の定、鍋の中から大きなゲジゲジが飛び出してきた。
「ぎゃあああ!!!」今度は沙羅が叫び、真平の背中に飛びつく。
「お前もかよ!」真平が再び必死に沙羅を振りほどく。
琴美はその様子を見て、「沙羅が怖がるなんて珍しいわね」とニヤニヤしているが、沙羅は負けじと反撃。
「いや、琴美だって蜘蛛でパニックになったくせに!」
「それとこれとは話が違うわ!」言い合いが始まる。
「二人とも水出るから手洗え」真平の指示に二人は素直に従った。
真平はこ上りに腰掛け部屋の隅の古いダイヤル式テレビをいじってみた、電機はきているがアナログテレビは砂の嵐状態だった。
「なんだこれ?」琴美がリモコンのようなものを見つけた。ボタンを押すとガッチャンと音を立ててダイヤルが回転した。続けてボタンを押すとテレビはガッチャンガッチャンと音を立てながらダイヤルを回していく。
「なにこれ、面白すぎる」興奮気味にボタンを押していく。
琴美がテレビのダイヤルを回すたびに、ガッチャンガッチャンと大きな音が部屋に響き渡る。
「おいおい、それ壊れるだろ!」真平が慌てて声をかけたが、琴美は興奮しきっていて止まらない。
「大丈夫よ!ほら、これが昭和の耐久性ってやつよ!」琴美はそう言いながら、さらにボタンを連打した。ガッチャン、ガッチャン、ピシッ。
突然、テレビから不穏な音がして、画面が一瞬チラついた。
「琴美!やめろ!次やったら本当に壊れる!」真平が必死に止めるが、琴美はボタンをもう一度押そうと手を伸ばす。
その瞬間、沙羅がスッと近づき、琴美の手をパシッと掴んだ。「ダメ。これ以上はやりすぎよ。壊れたらどうするの?」
琴美は一瞬ムッとした表情を見せたが、「ふん!分かってるわよ!」と口を尖らせて手を引っ込めた。
真平はホッと胸をなでおろしたが、次の瞬間、テレビが突然「ブツッ」と音を立てて完全に沈黙した。
「……壊れた?」沙羅が目を細めながらつぶやく。
「いやいやいや、触ってないからセーフでしょ?」琴美が慌てて言い訳するが、真平は頭を抱えて言った。
「琴美、お前がガッチャンガッチャンやりすぎたせいだろ!絶対そうだ!」
「違うってば!沙羅だって見てたでしょ?」
沙羅は腕を組みながら考えるふりをして、「うーん、そうね。琴美が壊したってことでいいんじゃない?」とあっさり言った。
「なによそれ!責任押し付けないでよ!」琴美がぷりぷり怒り出すと、沙羅は肩をすくめて微笑む。
「だって、実際に最後に触ったのは琴美でしょ?」
二人の言い合いが始まる中、真平はしゃがみ込んでテレビの裏側を覗き込みながら呟いた。
「よかった、コンセント抜けただけだ…」
彼がコンセントを差し直すと、テレビが再び「ザーッ」と砂嵐を映し出し、部屋が妙な安堵感に包まれた。
「ほら、壊れてないだろ!」琴美は勝ち誇ったように胸を張る。
沙羅は呆れた顔で、「いや、そもそも壊れた原因作ったの琴美だからね」とツッコむ。
「もういいって、二人とも!」真平が手を挙げて仲裁に入り、「ほら、せっかく宿直室を探検してるん だから、もっと面白いものを見つけるぞ」と提案した。
琴美と沙羅はしばらく睨み合っていたが、やがて琴美が「あんたの言うことも一理あるわね」と頷き、沙羅も「まあ、いいわ」と同意した。
その後、三人は炊事場の引き出しから出てきた古い手書きのレシピや、懐中電灯の中に隠されていた古いラジオ部品など、宿直室の中に隠された「昭和の文化」を楽しむことに成功した。
もちろん、その間も琴美と沙羅は小さな口喧嘩を絶やさなかったが、真平はもう慣れっこになっていた。
「これが昭和の文化部の活動ってやつか…」真平は苦笑いを浮かべながら、小さな灯りが揺れる宿直室を眺めていた。