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短い廊下

 放課後の旧校舎。真平が「人生ゲームの乱闘」の余波で意識を失い、琴美と沙羅の二人が彼を見下ろしていた。埃っぽい元職員室に静寂が戻り、二人は何をすべきか迷っていた。

琴美はおそるおそる真平の肩を揺らし、「真平、大丈夫?」と声をかけたが、反応はない。一方、沙羅は腕を組み、冷静な表情で「これ、私たち二人で運ぶべき?それとも先生呼ぶ?」と提案する。

「運ぶって、どうやって?」琴美は沙羅を睨みつけながらも、動揺を隠せない。「それに、こんなこと先生に言ったら、絶対怒られる…」

「じゃあどうする?放置?」と沙羅は肩をすくめて笑ってみせたが、その笑いはどこか空元気に見えた。

 その時、真平が小さくうめき声を上げた。「……お前ら、ほんとにうるさいな……」

 ゆっくりと目を開け、二人を見上げる。琴美と沙羅はほっと息をつきながらも、同時に「あんたが悪いんだからね!」と声をそろえて言い放った。

「俺が悪いのかよ…」真平は顔をしかめながらも起き上がろうとする。琴美が慌てて支えようと手を差し伸べたが、沙羅も同じタイミングで手を出し、二人の手が重なった。

「ちょっと、私がやる!」琴美がぷいっと顔を背けるが、沙羅は「はいはい、どうぞお任せします」と軽く受け流した。

 真平は二人のやり取りを見ながら「お前ら、本当に仲良くなる気あるのかよ」と苦笑する。


 翌日、放課後の「人生ゲーム乱闘事件」から一夜明けた真平は、片目に眼帯をし、顔には大きめのマスクをつけて登校していた。

 クラスに入ると、すぐに琴美の姿が目に入る。微妙に気まずそうに目をそらしながらも、ちらちらと真平を見ている。


 昼休みになると、真平は再び旧校舎の日ノ本文化部の部室に向かった。少し憂鬱な気持ちで扉を開けると、琴美が既に中で待っており、いつもの場所に座っていた。

 琴美がちらりと眼帯をした真平を見て、「…大丈夫なの?」と心配そうに尋ねる。

「大丈夫さ。昨日のことで怒ってるなら、もう気にしないでくれよ」と真平が笑顔で応じると、琴美は「別に怒ってなんかないわよ!」と照れ隠しのように顔をそらした。

 その時、軽い足音と共に沙羅が部室に入ってきた。「やっほー、真平。まだ痛むの?」と軽口を叩きながらも、少し心配そうな表情を見せている。

「ちょっとね。でも昨日、二人がちょっと仲良くなったから、俺は報われたよ」と真平が冗談めかして  言うと、琴美と沙羅は少し照れたように目をそらしたが、すぐに微笑み合った。

 何も言わないが、二人の間には以前とは少し違う温かい空気が漂っているようだった。

 また一歩、琴美と沙羅の間に少しだけ理解が生まれた気がする。真平はその微妙な変化に気付き、再び小さく笑みを浮かべた。


 放課後、真平は元校長室を改めて見回した。豪華な机や椅子、応接セットには、かつての学校の威厳が色濃く残っている。窓から差し込む午後の日差しが、微かな埃の浮遊を際立たせていた。

「この机、琴美が本当に使うつもりなら、似合いすぎるな」と真平は苦笑しながら呟いた。一方、応接テーブルの隣に置かれたアーケードテーブル筐体が、この場所の異質な雰囲気をさらに引き立てている。

 ふと目に留まった小さな扉を開けると、短い廊下が現れた。その奥には元職員室、さらに右手の扉を開けると宿直室があった。宿直室は校長室よりは小さいが、奥にはこ上りがあり脇には炊事場もあった。

 真平が感心していると、校長室から激しい言い合いが聞こえてきた。


 真平は校長室の扉をゆっくり開け、険悪な雰囲気を漂わせる琴美と沙羅の姿を目にした。琴美は腕を組み、顔を真っ赤にして怒りに震え、沙羅は余裕たっぷりの笑みを浮かべながら椅子に腰掛けている。明らかにまた何かが起きたことを物語っていた。

「今度は何が原因だ?」真平は溜息交じりに尋ねた。

「真平!あんた!!こいつと幼馴染なんだって?!」琴美が怒声で尋ねる。

「うん、あぁそうだけど」戸惑いながらも答えると、沙羅がドヤ顔で続ける。

「一緒にお風呂入ったじゃん」

「幼稚園の頃の話だろ」

真平が呆れると、沙羅がさらに挑発する。

「ひどい、肌と肌を暖めあった仲じゃない」

「だからそれも幼稚園の頃の話だろ!」

真平は頭を抱え、琴美と沙羅の間に割って入った。

「おいおい、二人とも落ち着けよ。幼稚園の話を掘り返しても意味ないだろ!」

 琴美は腕を組んだまま、怒りで頬を膨らませる。

「落ち着けるわけないでしょ!そんな大事なこと、どうして黙ってたのよ!」

真平が半分笑いながら答える。「いや、普通は言う必要ないだろう?『あ、ちなみに沙羅とは幼稚園の時に風呂入ったことあるよ』って、どんなタイミングで言えってんだよ!」

 すると沙羅がちゃっかり口を挟む。「まあまあ、そんな些細な過去に嫉妬することないじゃん、琴美ちゃん♪」

「誰が嫉妬するか!」琴美が沙羅に詰め寄るが、沙羅は椅子ごと後ろに引きながら笑みを浮かべる。


 険悪な雰囲気の中、琴美が拳を振り上げ、沙羅が軽く構える場面で、真平はただ溜息をつき、「またかいな」と心の中で呟くのだった。 真平が深い溜息をつき、琴美と沙羅の間に割って入ろうとしたその時、琴美の拳が宙を舞った。 「いい加減にしろって!」 真平が腕を広げて二人を止めようとした瞬間、その拳が彼の顔面にヒット、バランスを崩し広げた両手の片方が沙羅にヒット、驚いた沙羅が脇に避けた瞬間、琴美に体当たり。真平は頬をおさえ沙羅はさすり琴美は腰をおさえた。真平は 「これがホントのトリプルクロスカウンター」と呟きながら、試合終了のゴングが聞こえたような気がした。


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