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第39話 王の間

 王の間。


 中にはすでに王を守る兵の姿はなく、玉座に座る男が一人。


「誰だ貴様は!」


 即座に剣を構えるエルディー。


 玉座に座っている男は鎧を着込み武装している。

 デューチャから聞いていた三人の雇われ兵士。メガネの男。

 頭には何もつけていない鎧姿からは見知った顔が見えている。


「枝口……」

「え? 枝口? うわ、ホントだ……」

「知り合いか?」

「ああ。あいつは、俺と河原を山に捨てた張本人だ」


 言った途端、フェイラから目に見えると錯覚するほどの憎悪がブワッと巻き起こり、黒い炎が枝口に向いているように感じた。


「まあ、落ち着け」


「遅すぎるよ。君たち」


 枝口はなだめる俺の気も知らず、ニヤニヤ笑いで偉そうにほおづえをついている。


「お前に用はない。さっさとどいて道を通せ。どうせその先に王がいるんだろ?」


「はあ、ザコのくせに王の首を狙っているのかい? そんなこと鑑定しなくてもどういうことかわかるよ。一発逆転でも狙ってるんだろ? そして、その様子じゃ騎士様も寝返ったと。どうやってたらし込んだのか知らないけど、見る目ないなこの国の人は。つくづくそう思うよ」


「もともと私はこの国に仕えたことなどない!」

「あっそ。そんなこと興味ないよ。僕の力なら、誰でも相手できるってこと。一番に王や国の人の変化に気づけたんだからね。まあ、言っても誰も耳を貸さなかったけど」


 信頼されてないじゃないか。

 まあ、俺としては好都合だが、見抜かれているってことは、やはり、多少は実力はあるってことだろう。


 しかし、なるほどな。

 つまり王にも効いているのか。それはいいことを聞いた。これで当分の間エディカが死ぬことはない。


「何を笑っているのさ」

「俺は十分仕事をしたと思ってな」

「はん! 油断かい? 僕は、おっと」

「喋りすぎだ! なに……」


 あいつ。エルディーの攻撃をかわした?

 しかも一度じゃなく、何度も?


「たとえ攻撃を鑑定できなくとも、攻撃予測を鑑定すればかわせる。少し頭を使えば本人に使えないってだけのトリックを見抜けるのさ。ただ、僕に有効打はないし、侵入者用にしかけられた落とし穴も発動しない。持久戦に持ち込めば僕に取っては問題ない。王を逃せばいいからさ」


 スキルはエルディーに通用しないんじゃなかったのか。

 枝口の言う通り、攻撃に使っているから、か……?


「くそ! ええい、ちょこまかと!」


 枝口はエルディーの攻撃をギリギリのところで避け続けている。


「エルディーさんあたしも援護するよ」

「俺もやってやる」


「ふん! スキルなしの君たちに何ができる? なっ、二人揃って僕の剣よりも業物だと!? それをどこで手に入れた!」

「うちには顔が広い英雄がいるからな」

「私は顔が広いというほどではないがな」

「ほーほー。そういうことか。ふざけやがって……まさか後ろのやつもいいものを……? 本当にこの国の連中は何してるんだ。あんな剣をもったやつを見逃すか普通。だー、くそ。こうなったら戦力にカウントしてやるよ。こい。」


 しかし、俺と河原がエルディーに加勢しても攻撃が全くと言っていいほど当たらない。

 鑑定というのはそこまでのものなのか。


 だが、枝口から攻撃は飛んでこない。枝口の方から攻撃する手段はない様子だ。


 ひとまず溺愛の権能を使ってみるか。


「止まれ」

「くそっ! どうして当たらない!」

「攻撃の鑑定。きっとそれだろうな」

「見切っているというのか?」

「最初から言っているでしょ? やっと原理がわかったかい?」

「ああ」


 枝口の動きは遅くなっていない。

 一度嫌われた相手には効き目が悪いのかもしれない。


 どうするか。


 確か、デューチャは上位のものには鑑定ができないと言っていた。

 俺の溺愛の権能はスキルを超えた力だ。

 ちょっと引っかけてみるか。


「エルディー。ここは俺に任せてくれ」

「正気かい!? 任せたところで通さないよ?」

「わかってるさ」

「戦いを任せるのは構わないが、私で当てられない相手に攻撃を当てる術を見つけたのか?」

「まあな」

「ほう?」


 どうやら枝口は俺の言葉に興味を持ったらしい。

 いいぞ。


「枝口、俺が何もただの剣技だけでここまで動けると思ったか?」

「なるほど。まさかとは思ったけどそういうことかい。何もスキルがなかったはずの君だけじゃなく、河原までもが不思議とクラスの剣術スキル持ちより動けているのが不思議でね。そういうことだったのか」

「ただのスキルじゃないさ。一対一でやろうじゃないか。負けたらお前の奴隷にでもなんでもなってやるよ」

「溝口!」

「大丈夫だ。河原」


「あーあー。すっかり仲良しになってやんの。つまんね。じゃあ、後ろの女も全部奴隷な」

「いいぜ」

「溝口、本当にいいの?」

「心配するな」

「そっちのエルディーは規格外だが、これはいい賭けだ。君の方は鑑定を無効化できないだろうからね」

「してみろよ。知りたいんだろ? かかってこいよ」

「望むところだ! 一対一だぞ。不正はなしだからな」


 かかった。

 さあ、溺愛の権能を鑑定してみろ。

 もしバレても、溺愛の権能が効きづらい相手に全力で試せる。

 どっちに転んでも俺の利益だ。

いつも読んでくださりありがとうございます。


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