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第38話 入国

「なんだ、あれ?」

「エルディー様じゃないか? ってことは、後ろにいるのは悪人か?」

「エルディー様が国の外に出ていたって話、本当だったのか」


 ざわざわとしながら列になる入国を待つ人たち。

 俺たちのことを、珍しいものでも見るような目つきでジロジロと見てくる。


「……消しましょうか?」

「……やめとけ。入れなくなる」

「……すまないな。この国の王は常に命を狙われているのだ。国民も敏感なのさ。ここからは一時他人のフリをしてくれ」


 エルディーの言葉に、バレないようにうなずく。

 あくまでも自分は関係ない。だけど、何か起きてるらしい。そんな野次馬精神なのだろう。

 気にしても仕方がないってものだ。


「エルディー様。そちらは」

「国王の命で捕らえた者たちだ。通せ」

「はっ!」


 ぞろぞろと歩いていったが、エルディーが通せと言っただけでなんの検査もされることなく通された。

 列を割り込んだというのに誰からも文句が漏れない。

 嫌な顔一つせずに、むしろ前を譲っていた。

 さすがは地上最強。おそらく王よりも信頼されているのだろう。


 とりあえず入国成功。




 ある程度人通りの少ない場所まで移動し、俺は一度深呼吸した。

 国の中に入ったってことは、今度は俺の番だ。


「殺意を持つな。大きく動くな。俺たちを見ても疑うな」


 国全体に届けるイメージで言葉を発する。

 自動発動以外で不特定多数に向けて使ったことはなかったが、自動的にできるってことは意識的にやっても問題ないはずだ。


 近くを見ると、俺の言葉で歩く人のスピードがゆっくりになった。

 しかし、誰も自覚している様子はない。

 国全体に溺愛の権能の力が行き届いているのだろう。

 これで、エディカは殺されないはずだが、相対したらできる限り早く救出だ。


「相変わらずすごいな。リュウヤの力は」

「ふふーん。そうでしょ?」

「まあ、元はフェイラの力だからな。ただ、俺が使っても城の中まで効いているかどうかは確認してみないとわからないけどな」

「確認するまでもないよ。効いてるって」


 元々の力の持ち主であるフェイラが言うならそうなのだろうが、実際に見るまで油断はできない。


「どちらにしても構わん。ここまで来たら引き返せないのだ。急ぐぞ」


 先ほどまでより歩行スピードを上げるエルディー。

 城に入るまで、俺たちはまだ一応罪人だ。自由には走れない。

 疑わないとはいえ、透明人間になれるわけじゃないからな。


「けど、溺愛の権能はこんなこともできるんだね」

「どこまでできるかわからないけどな」

「リュウヤならどこまでもできるよ」

「そうか?」


 何にせよ怪しまれない程度の小声で話していても疑う様子は見られない。

 むしろ、帰還したエルディーへの声援が送られてくる。

 どれもゆっくりで、最後まで聞き取る前に通り過ぎてしまうが、国民はエルディーの帰還を喜んでいる様子だ。

 逆に、俺たちのことはまるで目に入っていない様子で、入り口での出来事が嘘のように、俺たちに反応を示さない。


「恐ろしいほどの力ですわね。リュウヤ様でなければこのような人助けに使わないのではないですか?」

「どうだろうな。案外人に感謝されたいやつは多いんじゃないか?」

「そうでしょうか? どちらにしてもリュウヤ様が素晴らしいことに変わりありませんわ」


 まあ、俺が将来悪用しないとも限らないのだが。




 空高くまでそびえ立つ高き城、白亜の城だ。


 これだけ見れば立派な城。

 おそらく何も知らない人はただのキレイな建築物だと思うことだろう。

 だが、これも人を過酷な労働環境に追い込んで形だけキレイに作ったものだと思うと、純粋な気持ちで見れない。


「着いたぞ。少しペースを落とす」

「ああ」


 城の前まで来るとエルディーの歩くペースが遅くなった。


 近くを通る人が高貴そうな人になってからしばらく歩いて、二人の兵が見える城門前まで来た。

 二人の兵はエルディーを見るとすぐに敬礼をした。


「エルディー様、本日はどのような御用向きでしょうか」

「後ろの者たちを王へ届ける。道を開けてくれ」

「はっ!」


 国の入り口と同じように、兵たちは道を開け門が開かれ、城までの道が開く。

 国の入り口から遠かったが兵の様子は他の国民と変わらない。


 城内に入ってみても穏やかな様子は変わらず、特に動きが遅くなったことをいぶかしむ様子も見られない。


「リュウヤの力は確認できたな。行くぞ。私なら王のもとまで一直線でも問題ない」


 周りへのあいさつもそこそこに、王の間へと続く道を一直線に進む。


 一見強そうな護衛の人物すら動きをのろくして動いている。

 さすがに扉の前にいる兵には一度止められたが、それでもエルディーとわかるとすぐに行く手を開けた。


「しばらく中へは人を入れないように」

「かしこまりました」

「それと、もっと扉から遠くで守っていてくれ。繰り返すがここへは人を入れないように」

「はっ!」


 恐ろしいほど通るエルディーという名前。

 王の間すらガラ空きにする力。

 信頼。これほどまでの人材。


 こんな人物に対し妹を人質にとって脅迫する王とは、いったいどんなやつなのか。


 エルディーの手により重々しい扉は少しずつ開かれ、その先の光景が徐々に明らかになっていく。

 だが、中にいる人はどうにも王ではないように見える。

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