子供からクエスト
この王国には冒険者という職業が存在し、時にモンスターを狩り、また別の時にはダンジョンを探索し、頼まれた薬草を探して森や草原を歩くこともあった。
冒険者達にそうした仕事をしてもらうにはどうすればいいのか? それがクエストだ。クエストを依頼金とともにギルドへ預ければ、相応の能力を持った冒険者がそれを受諾して遂行してくれる。
そんな冒険者に憧れる子供は多く、ミルドもまたその一人だった。
「かっけぇ冒険者にクエストを依頼したいっ!」
特に意味も展望も何もない、子供らしい気持ち。それをミルドは持て余すほどに抱いていた。
「だけど俺の小遣いじゃ……いや、それでもやってもらえるくらいの内容ならいいのか? よしっ、物は試し、当たって砕けろって父ちゃんもいつも言ってるしな!」
そうして実際にミルドの依頼は街の冒険者ギルドにて貼りだされるに至った。
――何でもいいから石をいっこ拾ってきてくだちい。報酬:銅貨1枚
貨幣の最小単位である銅貨が1枚という異様に安い報酬。さらには石を拾ってくるだけという子供のおつかいにもならない内容。それらはクエストを依頼しに来たのが幼い子供であったから受け付けられた、窓口職員の優しさによる結果だったのだが、しかし誰にも予想できなかった方向へと推移しだす。
「んだこの依頼、銅貨1枚?」
大斧を背負った巨漢が首を傾げる。
「意味わかんないだろ? 持ってくるのは石っころだぜ」
小柄だが隙の無い身のこなしの女も首を傾げながら言う。
周囲の面々もただ不思議がっていた。だがそこに鋭い雰囲気の男がやってくる。
「文面通りとは思えん。どこかの大貴族が試す目的で依頼したのでは? 何でもいい……ということはどれほど希少でも満足されないかもしれない、ということ」
裏を読む意見に周囲は息をのむ。誰かが「怠惰の剣聖ゴルギウスが興味を示した……だと?」と呟いた。
「甘いぞ、ゴルギウス。このミミズがのたくったような筆致に“ちい”という独特な語尾。どちらも古代文明に由来するもの。つまりこれは高名な学者による依頼だろう。石とは伝説の竜王石で、報酬は古代銅貨1枚つまり現代金貨で1万枚!」
さらに訪れた痩身の男に、周囲は「無関心の賢者ルキまで!」と騒めき、その見解に酔うように聞き入った。
そして後に幼い子供を長とする冒険者ギルドが出現し、世を席巻する。この騒ぎはその始まりであり、「子供からクエスト」ということわざの由来として知られるお話。