上に届かぬ下の声
「まさか!? 飛行系の能力者、だと?」
金丸億兆は天空から地へと足をつけた。さながら天使のように…
「俺の能力。正確に言うと『風を操り空も飛べる』って能力…どう? 驚いたかな? 万城君」
万城は唾の飲む。余裕のある金丸に背を向けるわけにはいかない。
「万城君、君の能力は…『鳥の目』か…正直、残念だよ…」
金丸はわざとらしく大きなため息をつく。
「弱すぎる…! 相手にならないよ! なぁ、そのゴミ能力でどう俺に勝つつもりだったんだ!?」
金丸は風に自らの身を任せ、その速さを利用し猛攻を加える。万城は構えるだけで、反撃することすら出来ない。
…やがて万城の構えも崩れ、地に足をつける。
「ぐぁ! …クソッ!!!」
「弱すぎるよ、オマエとの能力バトル…つまんねぇよ貧乏人…!」
外野の俺らには何もすることができない。ただ目の前で腐ってゆく仲間の姿を見ることしかできなかった。
「万城! がんばれー!」
“手”を出すことできない。でも“声”なら出せる。
俺ら4人の応援の声がフィールドに響く。
「お前ら…ありがとう!」
万城はそう言いコチラに親指を突き立て笑顔で返した。
「金丸! 勝った気でいるんだろう? 俺はまだ負けてねぇ」
「そうか、よかったよ… そうでなければ、つまらない」
万城の復活に応えるように金丸は手を広げ一言唱える。
【死の風扱】
刹那、刃の如く鋭い風が万城に吹きかかる。顔を覆った腕もその風により皮膚が禿げていく。
「くそっ、だが…」
【展望機会】
万城は風の動きを把握して、金丸の隙をつこうとする。
しかし…
「痩せ我慢は終わりにしろ! …万城」
逆に一瞬の隙を与えた万城の顔面を金丸は踏み台にして再び天空へと発つ。
それからは絶望の時が進んだ。空にいては何もできない万城に対して、攻撃をしては再び空へ発つ。その繰り返しでヒットアンドアウェイの様に攻撃を続けた。
「金持ちのくせにみみっちい攻撃してんじゃねぇ!」
外野の十瑠は叫んだ。拳を握りつぶしている…。他のみんなも金丸を批判するように叫ぶ。しかし、一切顔色を変えずに金丸は天空に居る。“効いていない”というより“聴いていない”ようだった。
上にいる者に届かない、下にいる者の声。俺は初めて感じた。上と下とのこの格差。俺はまるで、社会の縮図を見ているようだった。
万城は、もうすでに地に伏せていた。
「残念だよ、万城君。 貧乏人はバトルのセンスも貧相なのか?」
俺達は外野からフィールドへ入り倒れ込んだ万城に駆け寄った。
「…万城」
「ごめん、な… ごめん、みんな」
「謝るな、万城! お前はよくやった!」
俺達はみんなで励ました。
「あーあ。つまんなかったなぁ」
金丸は万城を見下し嘲笑っていた。俺は金丸を睨みつけた。
「もう、勝負は終わった。万城を悪く言うな」
「フッ、悪いな。ただ感想を言っていただけだ。
怖い顔をするなよ。そうだ、君も戦うかい? 一皐」
俺は睨むのをやめて、そっぽを向いて言う。
「…結構です」
金丸は残念そうな顔をして、執事の大崎に俺たちを家まで送るよう伝えると、その場を後にした。
行きではあんなに快適だったリムジンも、随分と窮屈に感じた。
後日、俺らはあえて万城にいつもと同じように振る舞った。万城は所々に包帯を巻いているが、割と元気そうだった。
「いつもの痩せ我慢じゃなきゃ良いんだがな…」
朝のチャイムが鳴る。教室の扉が開く。いつものように先生が教卓に立つ。ホームルームが始まる。
いつもの学校生活…。 いや? 違う…
なんだ…? この胸騒ぎ
ギシギシと扉の鳴く声がした。見覚えのある1人の男性が入ってくる。「大崎黄正」という名。
「金丸億兆の執事が何故ここに!?」
「今日は皆様にお伝えしたいことがあり来ました」
ーーーーー不穏な風は吹き止まないーーーーー