理解の先
「愛角一皐」 それが俺の名前。
「クーポン券を現金化ができる」という超能力を持った、ただの高校二年生だ。
いつものことながら、少し早い朝に大きな欠伸を一つアクセントとして加える。…なんといっても眠すぎる!
教室のドアを少し力を加えてスライドする。
“ギシギシ”と鳴くその姿は築180年の校舎の限界に聞こえる。あまりの滑りの悪さに少し気分が悪くなる。
ふと自分の席に目をやると、『いつもの三人』が集まって、脚の揃っていない机を“ガタガタ”と鳴かし、騒いでいる。
『いつもの三人』というのは、1人ずつ紹介すると、
見た目は好青年だが口が悪い「欠重「十瑠」
小柄で童顔、何かと女子にモテる「透鏡百真」
大柄で運動神経抜群、男に好かれる「龍冥寺万城」
の三人である。本来ならいつも遊ぶ時はもう一人「白青赤千夜梨」っていう女子がいるんだが…流石に教室内じゃ女子グループの一員ってツラしてんな。
…に、しても、こんな朝から騒いで何見てんだ?どちらにせよ俺の席だ。声をかける他ないだろう。
「おはよう、みんな! 何してんだ?」
みんながこちらを向き おはよう と返すと、そのうち百真がみんなでみていたスマートフォンをこっちに向けた。
「見てよ」
画面を覗いてみると、そこには「R」という世界中で使われているSNSアプリが開かれていた。
そして「金丸億兆」という名前の投稿。
…なるほど、と同時に俺は呆れた。
「不幸自慢大会のことか。金丸の返信欄に不幸話を書き込んで一番不幸だったやつに賞金が出るっていう。確かに金持ちのイカれた金配り企画だけど、毎月やっているだろ?何を今更騒いで…」
すると俺の言葉を遮るように十瑠が言った。
「バカ!そっちじゃねぇよ、その下の投稿だ!」
「その下?」
百真が画面を少し下にスクロールする。
そっちを見せたかったなら最初からそっちの画面を見せとけよ!そう思ったが口には出さなかった。俺はおとなしく、俺に見せたかったであろう投稿を読んだ。
「〔朗報 力自慢大会やる〕
不幸自慢大会がマンネリ化してきたから能力バトルという名の力自慢大会やる。ルールは簡単。能力ありで俺と戦う。オマエが負けたら何もなし。俺が負けたら賞金5億!老若男女問わないから、暇だから早く応募してね 金丸億兆」
…能力バトル? …賞金5億? ハハッ、金持ちって奴はどうしてこうもイカれているのか…俺には理解らねぇよ。
金丸億兆。22歳で金丸商事の社長。世界中でも認められている、紛うことなき大富豪。
そんな奴のこと、俺ら庶民が理解できるはずもない。だが…
「確かに俺らには理解できねぇ漫画みたいな話だ。でも何でそんなに騒いでいるんだ?俺らには無縁のことだろう?」
俺がぶっきらぼうに訊くと2人が万城の方を見た。
「ん? 万城がどうかしたのか?」
万城は俺の目をまっすぐ見て言った。
「俺、応募したんだ」
「…応募? 応募って…まさかこれか!?」
俺は百真の手からスマートフォンを奪い取ると万城に突きつけた。
「あぁ、そうだ。力自慢大会に出るんだ」
混乱の渦に呑まれている俺に更に追い打ちをかけるかのように万城は続けて言った。
「しかも、今日の放課後。隣町の専用フィールドで」
今日?専用フィールド?何を言っているんだ?
「オマエも一緒に来い、一皐!一攫千金だ!」
理解、という点では何一つできなかった。
しかし迷いのない万城の目…久しぶりに見た。
まっすぐに未来を捉えたような眼差しの友人の誘いに、俺は首を縦に振った。