表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の思い出  作者: 髙城 結衣
2/2

僕と爽やかな朝

 目が覚めたら、朝だった。


「そうちゃん。起きてるの? お母さんもう出ちゃうから、戸締りしっかりお願いね」


ぼうっと天井を見つめていると、階下からの母の声がした。日曜だというのに、今日は仕事らしい。お忙しいようで。


「んー」


時刻はもうすぐ8時になるところ。カーテンを開けると3月の春のあたたかな日差しが飛び込んできた。隣家の屋根でスズメが数羽遊んでいるのが見えた。

僕は深呼吸をして清々しい朝を存分に吸い込んだ。と同時に、「いってきまーす」という元気な声と玄関の閉まる音が聞こえた。


「さて」


僕は窓を背にし、部屋中を見回してみた。

いつもと変わらない自分の部屋。小説や漫画が収まった本棚、机の上には予備校の参考書が積まれている――一応僕も受験生なのだ。ついでにベッドの下まで覗いて確認してみたが、何も異常はなかった。

いつもの自室に、いつもの日曜の朝だ。ひとまず安心。

気を取り直して、寝間着にしているスウェットを脱ぎ捨てた。

どうやら昨夜の出来事は夢だったらしい。夢なら良いに越したことはないが、ちょっと心臓に悪いぜばあちゃん。

つい最近祖母の三回忌を終えた影響なのだろう。それにしても生々しい夢を見たもんだ。


祖父は今年の夏で98歳になる。5年ほど前老人介護施設に祖母と2人で入所し、2年前に祖母が他界した。認知症が進んでしまっているものの、毎日3食しっかりとり元気に過ごしているそうだ。

とはいえ、もう年齢も年齢なので、親戚一同としては正直いつお迎えが来ても驚かない状態ではある。ちなみに僕は「あと2年で大台、いけるんじゃないか」なんて密かに思っていたりもする。

そういえば、最近アルバイトと受験勉強で会いに行けていない。近々顔でも見にいくか。


着替えを済ませた僕は階下へ降りた。

一階に降りると、ほのかにトーストの香りが漂ってきた。母が朝食にしたのだろう。焼き立てのこんがりパンの上でとろけるバター。最高じゃないか。僕もそうしよう。

朝の身支度を済ませてダイニングへ向かうと、スクランブルエッグとソーセージが載ったプレートがテーブルの上で待っていた。『おすそわけ』という母の走り書きかま添えてあった。ナイスアシストだ。

日曜の朝。朝食にはこんがりトーストとスクランブルエッグ、そしてソーセージ。おまけにコーヒーでも入れるとしよう。最高じゃないか。

僕はニヤリとして口角をあげた。家に自分しかいないのを良いことに、満足感を隠すことなく顔面にたたえる。

ふむ。実に良い朝だ。

トーストとコーヒーの出来上がりを待ちつつ、僕は麦茶を冷蔵庫から取り出して一口飲んだ。ひんやりとした麦茶がのどを通り、僕を完全に覚醒させた。これまた最高だ。

僕は残りの麦茶を飲み干そうとコップを傾ける。


「あら、そうちゃん。朝からそんなに冷たいものを飲むとおなかを壊すわよ」

「ぶーっ!!」


次の瞬間、僕は口から麦茶の霧を噴射していた。


「あらあらあらあら」


チーンというトースターの出来上がり音。こんがりと焼きあがったトーストがひょこっと顔を出した。


「ばあちゃん……」


僕の清々しい朝は、朝日にきらめく麦茶の霧とともに消え去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ