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春の思い出  作者: 髙城 結衣
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僕と真夜中

「そうちゃん。ねえ、そうちゃん」


 眠りの底から引っ張りあげられ、半分開いた目に映ったのは真っ暗な自室の天井だった。

 今何時だ。

 枕元に置いた目覚まし時計を手探りで手繰り寄せ、バックライトを点灯させると「2:19」と表示された。

 僕はため息をつく。時計を元に戻そうと手を伸ばすと、それと入れ違いにぬっと何者かに顔を覗き込まれた。


「そうちゃん。見えてる? 聞こえてる? 起こしちゃって悪いわね」


 草木も眠る丑三つ時。僕の元に訪れたのは、2年前に他界した祖母だった。


 * * *


 突然枕元に他界した祖母が現れて、驚かなかったといえば嘘になる。しかし、そこまでの衝撃はなかった。驚きはしたが「ああ、またか」と思うくらいだった。


 俗にいう霊感体質というやつではない。と自分では思っている。

 日常生活を送る中で見えることはまずないし、特定の場所で寒気がしたり気分が悪くなったり気配を感じることもない。僕の感覚はいたって普通、むしろ鈍感な方だと言っていいかもしれない。

 ただ、まれにテレビとかでよく聞く何か波長のようなものがあってしまうのか、いわゆる幽霊が僕の元を訪れることがある。しかも顔見知りに限る。というだけである。

 もっとも僕が見える幽霊たちは「うらめしや~」なんて幽霊らしいことは言わない。足もあれば服装も会話も生きている人とかわらない。触れることもできる。生きている人との違いと言えば、少し透けているくらいである。だから恐怖を感じることはない。


「う~ら~め~し~や~~~~」

「ばあちゃんさ……」

「なあに? ちょっとやってみたくなっちゃったのよ。うふふ」

「……そうですか」


 祖母は僕のベッドの上に正座をして、生前のようにニコニコしながらしょうもないことを言う。おちゃめなばあちゃんだ。

 その正面には同じく正座で向かいあう僕。別に気をつかう必要もないのだが、つられて僕も正座してしまったのだった。


「久しぶりねぇ。大きくなっちゃって。もう高校生?」

「うん。この前高3になった」


 最期の方は僕を見ても分からず、僕の名前を聞いても「私にも同じ名前の孫がいるのよ。まだランドセルを背負ったばかりでね」なんて返してボケてしまっていたくせに。今の祖母は生きていた時より大分元気だ。ちなみに容姿は91歳で他界した時よりいくらか若返っている。死人に若返ったという表現はおかしいだろうか。まあ、いいか。


「ちゃんとごはん食べてるの? 相変わらずもやしみたいな体して」

「うん。で、何の用があってこんな夜中に?」


 僕も一応年頃なので気にならないでもなかったが、もやし発言は無視することにした。


「あらやだ。そうちゃん。化けて出るには夜中が良いじゃない? だって私、死んじゃってるんだもの。うふふ」


 と、祖母は両手をぶらぶらさせて、怪しく微笑む。おちゃめにも程がある。


「ちょっと今の笑うところよ。まったく年頃の子は扱いづらいったらありゃあしないわ」

「……」


 早く本題に入ってくれないだろうか。

 生前同様明るく話好きな祖母は、僕からの冷たい目にため息をついて両手を挙げて肩をすくめた。このアメリカンなリアクションは生前にはなかった気がする。新たに習得したのだろうか。


「可愛い孫の顔を見に来たの、はついでの話でね」


 ついでかい。


「早い話、じいちゃんを迎えに来たのよ」


 祖母は世間話でもするかのように、こちらの世界では大分重要なことをさらっと言った。


「え。待って待って、じいちゃんを? ということは……」

「そうそう。明日……もう0時回ってるから今日ね。今日の9時16分にね」


 祖父が今日他界する。

 さすがの僕もそれを聞いたら目が覚めた。

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